第四章 悪魔のような真犯人と解決編 ~これであたし、ピのところにいけるかな?~

事情聴取

 オレたちはO府警七和ナナワ署に戻った。堂本ドウモトの事情聴取を、行うためである。


 緋奈子ヒナコは警察官ではないので、千石センゴク署長と同様、別室で様子をうかがう。


 堂本の行方は、依然として知れない。


「あなたは堂本ドウモト 千晴チハルではないそうですが?」


 オレが聴取をして、福本が記帳をする。


「ええ。村田ムラタと言います」

「では村田さん。あなたと、斗弥生ケヤキ 天鐘テンショウとの関係は?」

「ぼくは、斗弥生天鐘の召使いです」


 能力のない人間、力のない者は、みんな斗弥生の小間使いにされるそうだ。


「あなたと堂本との間に、何があったんですか?」

「堂本さんにそそのかされて、ぼくは顔をすり替えられたんです」

「顔を貸したとは?」

「堂本さんの能力は、変装なのです」


 自称村田は、ネコのように顔を手でクシャクシャと洗った。村田の顔が、小太りの男へと変わる。


「うわ、なんだ?」

「これが堂本さんの能力です。顔をコピーできるんです」


 相手の姿かたちを、コピーできるそうだ。


「『お前の鬱憤を晴らしてやる』って、堂本さんに言われて、顔を貸しました!」


 村田は鉄製の机を、ドンと叩く。


「ぼくの存在は、身を隠すにはちょうどよかったそうです。ぼくは目立たず、目をつけられても意地悪されるだけなので。天鐘は、エリートには手を出さないから」


 村田がいうには、天鐘はドがつくほどのエリートアレルギーだという。


「あいつは弱虫なんだ。エリートを自分のレベルにまで引きずり下ろす行為は、彼だってやっていました。でも、その行為をやっているうちに、自分のレベルまでは上がらないって気づいたんです。しかし、彼は努力しませんでした。彼が選んだ選択は、クズを束ねてつるむことだった」


 ベラベラと、村田が語りだす。


『さっさと堂本の居場所を吐かせろ』と、イヤホンから捜査一課が焚きつける。


 ミラーの向こうに、オレは首を振った。今は村田を、好きにしゃべらせておいたほうがいい。


「別荘のときだってそうだ。ぼくのことは銃で脅したくせに、式神程度の奴らには説教されていた。そのときに言われたんです。『お前の顔をよこせ』って」


 堂本は、手に入れた顔や姿を一日だけストックできるという。


 尚純ナオズミの指示で廃工場の様子を見に行ったタイミングに、堂本は村田に変装して入れ替わったらしい。


和泉イズミ あおばさんって、生きてるんでしょ? 聖奈セイナを殺したっていう。彼女はウチのエース退魔師だった」


 まったく関係のない話題を、村田が振ってくる。


「意識不明だが、一命はとりとめた」


 輸血をしたのは、弓月ユヅキちゃんだ。弓月ちゃんは、真っ先に輸血を名乗り出てくれた。


「だよねえ。あいつは、ホンモノの実力者やエリートには近づかない。反撃されるのが怖いんだ」


 天鐘は、『こいつは絶対に反撃してこない』、『歯向かっても、自分の手で抑え込める』、そんな相手しかいじめないそうだ。

 自分が落ちこぼれだって、自覚しているから。


「それが、あんただったというわけか?」


 村田はうなずく。


 自分が見下されていることを、天鐘は肌でわかるという。


「和泉あおばに、弥生の月データベースに忍び込ませたのは、堂本さんです。堂本さんはデータベースの管理者になりすました。彼女はパパ活をマネて、堂本さんから管理者のコードを手に入れた」

「和泉あおばはまんまと騙されて、オレたちオカルト課に加担したってわけか」

「堂本さんは目的のためなら、平然と道化を演じられます。天鐘には、それができない。プライドが高すぎるから」


 口を釣り上げながら、村田はひとり語りを続ける。


「ヤツは、天鐘は堂本さんも警戒しているようでした。何をしでかすかわからないから。どんなに蹴落としても、這い上がってくるってわかっていたんです。堂本さんはホンモノだから」


 なおも、捜査一課がオレを焚き付けてきた。

 マジックミラーに睨みを効かせ、オレは一課の連中を黙らせる。


「天鐘は、姉の聖奈にだって逆らえなかった。どんな優秀な人もアゴで使えるのに。姉はそれを平然とやっていた。彼女は、自分がエリートを操っていい人間だってわかっていたから。でも天鐘は、反撃が怖いから同じようにできない。あいつは、弱虫だ!」


 村田が、オレの方へ身を乗り出す。


「堂本さんが、教えてくれました。一一年前、聖奈は自分が魔王を呼び出せるからって、魔王を意のままに操ろうとした! 素体となった少年は、堂本さんの種違いの弟らしいですね?」

「それは、堂本が話したのか?」

「ええ。彼を差し出したのは、堂本さんでしたから」


 マジかよ。


「しかし、自分の母親と、警官を一人犠牲にした! たしかその刑事って、ここの署の人間でしたよね?」

「……ああ。多分オレの父親だ。オカルト課の刑事だった」

「それは、お気の毒に」


 ハイテンションだった村田の様子が、冷静に戻る。


 やはり魔王は、オレの仇だったか。


「警察官と相打ちになって、魔王は斗弥生尚純会長の奥様が身を挺して、封じ込めには成功しました。少年は、治療のためロシアへ一時的に預けられました」


 それでも、弥生の月は大半の退魔師を失った。それで、斗弥生は失脚した。


 なのに、聖奈はのうのうと弥生の月へ戻ってきたのである。弟を守る名目で。


「自衛隊員が、戦闘ヘリでキリちゃすを殺そうとしたでしょ? あれも姉の指示です。彼女がやった。天鐘にはできない。結局やつは、自分より弱いやつしか部下にできないんだ」


 かつての雇い主を、村田は嘲笑する。 


「あいつは死んだ。ざまぁみろだ。ふはははは!」


 数分の間、村田はゲラゲラ笑う。しかし、一瞬で真顔に戻った。


「でも、状況は一変しました。堂本さ……堂本の狙いは、斗弥生の乗っ取りだと、ぼくは思っていたんです。でも違った」


 村田は、口の中に指を突っ込む。


「彼は、瀕死のキリちゃすを抱えて、弥生の月本部に乗り込んできた。尚純会長の護衛をしていた退魔師を皆殺しにして、尚純会長も連れて行ったんです」


 村田に対して、堂本は『押し入れに隠れていろ』と、事前に連絡をしていたらしい。


「堂本の居場所について、知らないか?」


 ようやく、堂本が向かいそうな場所を聞き出す。


「退魔師って言っても、生身の人間だ、鉛玉を食らったら、ひとたまりもない。キリちゃすも、同じ手口を行っていた。丸腰だと油断させて、何人も退魔師を殺していた。魔王に食わせるために。堂本さんが、現場を検証してわかりました」 


 ガタガタと体を震わせながら、村田はボソボソと語り始める。堂本については語らない。


「堂本はどこだ?」

「すべてが始まった場所って言っていました。具体的な位置は、ぼくにもわからない」


 ブンブンと、村田が首を振り続けた。汗が飛び散って気持ち悪い。


「ぼくは、ぼくも死ぬんでしょうか!? たとえ生き残ったとしても、罪状は?」

「あんたは、事件とは無関係だ。利用されていただけだしな。何の罪にも問われねえだろう」


 オレは村田をなだめた。


 が、村田はさらに怯えだす。


「むむむムリダ。ぼくは死ぬんだ。ぼくは、魔王に殺される! みんな死ぬ! 魔王に滅ぼされて! 死ぬんだ! みんな死んじゃえばいい! はははは……」


 虚空を見上げながら、村田は白目をむいて倒れた。息はしているから、かろうじて生きて入るだろう。しかし、もう彼の精神は。


「これ以上の聴取はムリです」


 オレは、イヤホンを外す。


『お返ししようか。福本くん、救急車を』


 千石さんの指示で、福本が署の固定電話に向かった。


「緋奈子、どう思う?」

「すべてが始まった場所……だったら、あそこしかありません」

「魔王が封印されていた、キリちゃすの隠れ家か!」

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