いざGベースへ!

 等身大立像に別れを告げ、ダイバーシティへ足を踏み入れると、そこには色とりどりの飲食店が軒を連ねるフードコートが存在しており……。

 お昼時ということもあり、二人はさっそくそこで食事を取ることになった。

 なったのだが……。


「なあ、ガノ……。

 こういう所に来ると、俺はいつも思うことがあるんだ」


「奇遇ですね、モギ君。

 多分、キタコも同じことを考えています」


 フードコート内のお店を一通り眺めた二人は、示し合わせたように回れ右して等身大立像のもとまで戻ったのである。

 そして、顔を見合わせ、異口同音にこう言い放った。


「「高い!」」


 そう……フードコー内のお店は、いずれのメニューもお値段お高めであったのだ。


「なんてこった……。

 天丼も親子丼も、まさかの一〇〇〇円越えだなんて!」


「分かる……分かります! その気持ち!

 三桁の大台を超えると、ものすごい高級食に思えますよね!」


 わなわなと肩を震わせるモギに、ガノが心底からといった顔で同意してみせる。

 モギは、特にアルバイトなどもしていない高校生……。

 今日のために貯金を下ろして来てはいるが、この後のGベースこそが本命であることを考えると、飲食代で散財し過ぎることは避けたかった。

 おそらくは、ガノの懐事情も似たようなものであるにちがいない……。


「くう……こんなことなら、おにぎりでも用意してくるべきでした……!」


「というか、誘ったの俺なんだから君に奢るくらいのお金は用意するべきだった……すまん!」


「いやいやいや! こう、そこまでしてもらうわけには……!」


「いやいやいや……!」


 なんだかよく分からないが、互いに詫び合ってしまう。


「ともかく、だ……。

 腹は減った! だが、お金は節約しておきたい!」


「そうですね……!

 キタコ、この後にこそ欲望を解放しておきたいです!

 でも、それはそれとしてお腹は減りました!」


「ならば、俺たちが取るべき道はただ一つ!」


「ええ!」


 二人でうなずき合い、再びフードコートへと舞い戻る。

 向かう先は――色んな街に出店している大手うどんチェーン店!

 そこで二人は、仲良くかけうどんを注文したのであった。




--




「本当に良かったのか?

 いくらなんでも、うどんくらいなら奢る余裕はあったんだが……」


「いやいや! こういう会計はきっちり別々にしたり、割り勘にしたりしましょう!

 ネットで調べましたけど、案外、そういう風にする人たちが多いみたいですよ?

 互いに気を使っちゃいますし」


「ああ、言われてみれば確かになあ……」


 そんな風に話しながらエレベーターを乗り継ぎ、目指す場所――七階を目指す。

 ダイバーシティ内部は吹き抜け構造のショッピングモールとなっており、右を見ても左を見ても、いかにもオシャレなお店が並んでいる。

 その中には、年頃の女の子が好みそうな洋服屋も数多く存在しており、ガノが興味を示すならば立ち寄るのもやぶさかではなかったのだが……。


「見てください、モギ君!

 Gベースの看板が設置されてますよ!

 はあ……エレベーターに乗れば、いや! モール内を歩いていれば、否が応でも目に留まる階下のあんな場所にデカデカと看板を置かせてもらえるなんて……!

 商売はこれでますます大繁盛! B社も鼻が高いことでしょう!」


 エレベーターに乗ってる最中も、周囲の店舗には目もくれず、眼下に見えた看板を見ながら大はしゃぎする有様だ。


「まあ、宣伝というなら表に立ってる等身大像が何よりの宣伝だしなあ。

 それに加え、こういうのも見せられると、他の目的で来たお客さんや観光目的の人たちも、ひとつ覗いて行こうかってなるだろうな」


「ええ……!

 これこそ! まさに! ダイレクトマーケティング! その極み!

 Gベース東京は、名前にたがわぬ魅力の発信地ということですね!」


 小さな胸を期待一杯に膨らませる彼女と共に、上へ上へとエレベーターを乗り継いでいく。

 大型のゲームセンターが存在するフロアに別れを告げれば、そこが――Gベース東京であった。


「ほお……お台場に来たことはあっても、ここまで足を踏み入れたのは初めてだったが……。

 もう、お店側の壁面からして造りがちがうんだな」


 モギが感心したのも、当然のことだろう。

 歴代主役機がずらりと並んだ大型看板が掲げられたベースは、入口部を構成する壁面全体が未来的な――宇宙戦艦の装甲を彷彿ほうふつとさせるデザインになっており……。

 入場する前からすでに、非日常感を演出していたのである。


「こうしてみると、なるほど、ショップじゃなくてベースなんだな……。

 お店というより、アミューズメント施設って感じだ」


「モギ君! その表現は素晴らしいです!

 確かに! Gベース東京の売りは直売ならではの豊富なGプラのラインナップにありますし、訪れる人の第一目的もそれを購入することです!

 しかあし! モギ君が言ったように、あくまでもここはショップではなくベース!

 Gプラの! 歴史と! これからとが詰まった!

 最っ高の娯楽施設なんです!」


 入り口を背にしながら、ガノが力説してみせた。


「最高の娯楽施設か……。

 実は実際に来るまで、ちょっとショッピングするくらいの感覚だったんだが、こいつはフンドシ締め直してかからないといけないようだな」


「もう、ガンガン締め直しちゃってください!

 さあ! さっそく行きましょう!」


「お、おい……!」


 モギとしては、ここで彼女と一緒に自撮りでもしようかと思っていたのだが……。

 ヒートアップしたガノは、こちらの袖を掴んでぐいぐいとベース内部へいざなってくる。

 入場管理する職員さんたちから、ほほ笑ましそうに見守られながら足を踏み入れたそこにあったのは――。


「おお、これ、歴代の主役機か!」


 壁一面を大胆に使ったショーケースへ展示されている、歴代主役機のプラモデルたちであった。


「いやあ、ここまで大胆にズラリと並べるのは、専門施設ならではですねえ!」


「確かに……君んで飾られてるのもすごかったけど、こうしてみると……あれだな。

 個人のアクアリウムと、水族館に展示されているそれのちがいって感じだ」


「そう! こういったものは、スケールのちがいがそのまま見栄えとして反映されるのです!

 はあ……しゅき……眼福……」


 うっとりとした表情で見入っている彼女と共に、ショーケースを眺める。


「こっちのは、有名人をイメージしたGプラか?

 すっげー! 北島三郎のコメントとサインがあるぞ!」


「より正確に言うと、氏の所有する有名馬……その勝負服をイメージしたカラーリングですね!

 キタコ、競馬には詳しくありませんが、それをGプラに落とし込んでもなかなかしっくりきますねえ!

 いや、これを作成したモデラーのセンスがいいというのは、もちろんですが!」


「人目を引いて格好良くなきゃいけないってのは、騎手の服もGプラも同じだもんなあ。

 君の作ったやつも、見た感じ全部塗装してあるみたいだったけど、やっぱりそういうところから着想を得てるのか?」


「キタコは基本、設定に忠実かミリタリー系カラーですが……。

 そうですね! 今! そういうのやりたい気持ちがむくむく湧いてきました!

 Gプラも女の子も、オシャレは大事ですから!」


「君が言うと、説得力あるな。

 今日のコーデも、すごくオシャレでかわいいし」


「――はうわっ!?

 そ、そういう不意打ちは反則です!」


「はっはっは! ただの素直な感想だ!」


 顔を赤らめる彼女を見ながら、快活に笑ってみせた。

 そんな二人を、職員さんたちや他のお客さんたちは、やはりほほ笑ましそうに見守っていたのである。

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