あくまで故人の感想です

サムライ・ビジョン

第1話 肝試しカップル

「ねぇ…もう帰ろうよ…」

「おいおい、まだ来たばっかだぜ?」


怖がる彼女をあしらい、面白がってあちこちに懐中電灯を向ける彼氏。

その光はやがて俺の顔を捕らえた。


「あのー…眩しいんすけど…」


俺の嘆きに返事はない。2人してシカトとは、とんだ性悪カップルである。

なんでもこいつらは、近所でも有名な迷惑バカップルとして有名らしい。…知らんけど。


さて、そろそろ日付が変わる頃ではあるが、学生さんのこいつらに「帰宅」の2文字はない。それもそのはず、今は夏まっ盛り。学生が学生として一番に輝く夏休みなのである。


彼らは今、リビングダイニングを我が物顔で物色しているところであるが、俺は注意することなく椅子に腰かけ見守っている。




「なぁ、ここの家主がどうやって死んだか知ってるか?」

彼氏はふと、彼女に問いかけた。


「えー…? 知らないし、そもそも知りたくもないんだけど…」

彼女はあからさまに嫌そうな顔をした。


「…首吊りだってさ」

「首吊り…」

彼女から固唾を飲んだ音がした。




「…天井からロープ垂らして首をかけたらしい。ちなみにそのロープっていうのは…」

彼氏はひと呼吸おいた。




「ちょうどお前がいるあたりだー!」

彼女を指さし叫んだ彼氏。彼女はもちろん大絶叫。ロープがあったとされるあたりを凝視しなから彼氏の胸に飛びついた。


「ははは! 怖がりだなぁ、もう…」

ここぞとばかりに、こいつは彼女の頭をポンポンしていやがる。




あーあー…人ん家に勝手に入って、リア充っぷりを見せつけられて…


だいたい、使っての。ちょうど俺が座ってるあたり! ほら、椅子もあるし!




あの頃は金もなくて、生きる意味なんて全く感じてなかった。だけど今になって思うよ。


「生きるにしては長いけど、死ぬにしては短い人生だった。」って。

死んだら楽になるんじゃなくて、死んだら何もできなくなるんだよ。

何もできないのを「楽になる」と解釈してるようじゃあ…幽霊からナメられるぜ?


「ずっと探してた♪ 理想の自分って♪」




いけない。つい物思いにふけって「幽霊の流儀」みたいになってしまった。

…あいつらどこ行った?


〜 〜 〜 〜 〜


「見ろよ。なんか高そうな腕時計あるぞ?」

「ホントだ…まだ動いてない?」

「売ったら儲かるんじゃね?」


ギィ…バタンッ!


「きゃっ!?」

「なんだ!? どこのドアが…」


キィ………キィ……キィ…


「しっ………近づいてきてる!」

「やべぇ…どうしよ…」


ガラガラ…


「ひっ!?」

「…」




「…テ…イケ…」


「デ…イケ…」


「デテ…イケ…!」


「デテイケ…デテイケ…」




「ああ…と、ともくん…」

「ごめんなさいごめんなさい! 帰りますから!」











「…デ テ イ ケ  ェ  ! 」




〜 〜 〜 〜 〜




「…ふう」

熱演させないでくれよ。俺ん家に入ってくるだけならまだしも…












彼女あいつ腕時計プレゼントにだけは絶対に手ぇ出すなよ。

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