第13話 泉上(せんじょう)の魔術師たち

「そうねえ。操ろうとか支配しようとか思わない事が大切ね。

精霊さんはお友達。

一緒に遊びましょう、という気持ちでやってみるといいわ」


〜分校の一、二回生の生徒に精霊魔法のコツを聞かれた時のヨランダン先生の回答より〜

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飛び退いた獣女子は春風が自分のパンツを持っている事に気がつき



「あ!お前!ボクのパンツだぞ!」



と叫んだ。




それは人の言葉だった。



人型の獣だと思った矢先にそう言われた春風は狼狽した。



獣ではなく人間で、しかも女の子で、自分の手の中にはその子のだと思われる下着があった。



状況を考えれば自分は今、覗き魔かつ下着泥棒の誹りを逃れようが無かった。



心臓は先刻とは違う風に脈打ち、春風はさらに焦った。



「ええっ!?いや、ちが、ごめんなさい!」



女の子が滝を背に構えていたので影になり見えてはいなかったのだが、春風はとにかく女の子の体を見てはいけないと思い咄嗟に手に持っていたパンツで自分の顔を覆い隠した。



「こいつ!返せ変態!」



いよいよ変態に違いないと確信した女の子は怒って春風を怒鳴りつけると、春風に向かって四つ足で走ると、高く飛んだ。



近寄ってくる音が聞こえて春風が目を開けると目の前にはもう誰もいなかった。



滝の光が一瞬影に遮られた事に気が付き、春風は上を見た。



牙と爪を剥き出しにして飛びかかる猫のような女の子がそこにいた。



その爪が春風の顔面を引き裂こうとした時、女の子は咄嗟に左後方の上を振り返った。



その時、春風の時間の流れに変化が起きた。



時間がゆっくり流れ、何か空気の流れのようなものが見えた。



女の子はその流れに沿って飛んできていた。



まるで過去から未来に至る決められた道がそこにあるかのようだった。



影で真っ暗に見える体の両手両足はもふもふした毛で覆われていて、両手両足の先からはまるで刃物のような鋭い爪が飛び出していた。



頭の上に大きな耳があり、背後にくねるのはおそらく尻尾と思われた。



顔は後ろを向いていたし体も暗くて見えないが、どう見ても上手に猫のコスプレをした色白茶髪の女の子だった。



空気の流れに沿って猫少女が少しずつ近づいてきていた。



このままだとぶつかるのは間違いないし



そしてもしあの鋭い爪で引っかかれたら怪我では済まないのも間違いなかった。



春風は回避行動をとって猫少女を避けようとした。



しかし動けなかった。



いや、動いてはいたが、非常にゆっくりしか動く事ができなかった。



後ろに意識を取られまま飛びすぎて、このままだとぶつかってしまうと気がついた猫少女は、空中でゆっくりと春風の方に首を戻した。



しかしもう遅かった。



目の前の春風との距離が近すぎて回避できない事を認識して驚いた表情を見せ、衝突する寸前、春風の時間の流れが元に戻った。



二人の額が激突し



ガコーン!!



という大きな音が始まりの泉にこだました。



猫少女の高い跳躍からのジャンピングヘッドバッドをモロに受けた春風は、目から火花を飛び散らしながら後ろに吹き飛び気絶して大の字になった。



女の子は自分の頭を押さえうずくまった。



声にならない事でうめき転げ回ったが、必死に堪えてすぐに立ち上がった猫少女は、目の前で気絶する春風の右手に握られたままのパンツを引ったくるように奪い返し、辺りに散らかした自分の服を手早く拾い集めると、素早く大きな跳躍を繰り返して雑木林の中へ飛ぶように走り去った。



女の子が振り返った場所、泉と雑木林の間の空中、にオレンジ色に光る円形の輪が見えた。



その輪の中には幾何学模様や何かの文字が浮かびすぐに白い光になると、白光の中から人間が現れた。



浮んだままのその人物は白いローブを着ていて、手には象牙のような螺旋形状の白い大きな杖を持っていた。



フードをかぶっていて顔はよく見えないが、どうやらこちらも若い女性のようだった。



その少女が首を動かし辺りを見渡すとすぐに大の字にノビた春風を見つけ、何かをぶつぶつを言い始めた。



それは魔法で、泉上に浮かぶ少女は詠唱を終えると、杖を春風に向けた。



すると今度は春風の足元にオレンジ色の輪が現れた。



すぐに春風は白い光に包まれ、そしてその場から消えた。



春風を消した魔法使いの少女は地上に降りるとすぐに雑木林の中に身を隠した。



時をおかずに、同じ色の新しい魔法陣がひとつまたひとつと命の泉の水面に現れ、それらの魔法陣の中から、小豆色のローブを着た人間たちが現れた。



全部で八人のローブを来た集団はそれぞれに焦茶色の木の杖を持ち、何かを探し回っているようだった。



最後に現れた大型の男が、太く大きな声で怒号を発した。



「探せ!」



男はそういうといったん滝の上を見て、はじまりの泉に目を落とした。



水面には、はらわたを食いちぎられた魚が一匹浮かんでいた。



男はまだ息のあるその魚を拾い上げ、じっと見てから放り捨てた。



小豆色のローブの一人がその大男のところへやって来て



「ドイル様。これを」



と言って白い布を手渡した。



それは猫の女の子が忘れていった右の靴下だった。



手渡された靴下を見ながら



「無関係とは思えんな」



と言ってそれを部下に返し



「すぐに衛兵が来る。いったん引き上げだ」



と言った。



また魔法陣が現れ、男たちは魔法陣と共に次々と消えていった。



その様子を、木の影から白いローブの少女が見ていた。



全員がいなくなったのを見計らい、女の子も魔法を唱え、そして消えた。



腹を食べられた魚は滝の水と共に浮かび上がり、崖の上に消えていった。



命の泉にいつもの静寂に戻り、満点の星と滝が泉を照らした。



天野春風が遥か彼方の銀河の地球から、剣と魔法の世界惑星バルデラのブリテン王国領にやって来た、最初の夜の出来事だった。

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パンツ

パンツ(pants)はズボン[1]を指す。イギリスではズボンは通常「trousers」であるが、アメリカの影響で「pants」も用いられる。アメリカ合衆国ではズボンは通常「pants」であり、堅い言い方として「trousers」も用いられる。明治時代には「洋袴」とも表記された。


下半身に穿く短い肌着[1](ショーツ、パンティー、ブリーフ、ボクサーブリーフ、トランクスなど)を指す。イギリスではこちらの用法が主流である[2]が、アメリカ合衆国でも女性用・女児用のものを特に「panties」と呼ぶ。本項目ではこちらを詳述する。なお英語圏の男女を問わない表現は「underwear」。


上記2つの意味で使われるため、どちらの意味で使われているかは文脈などから判断しなければならない。日本語においては、ズボンを「パンツ」(/pant͡sɯ/, 平板型アクセント)、下着を「パンツ」(/paꜜnt͡sɯ̥/, 頭高型アクセント)と発音して区別したり、下着のパンツを特に「アンダーパンツ」と発音したりする(各太字はアクセント核)。


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%84

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