第12話 猫獣人少女マロン
「傷でも病気でも、そして種族でも、見慣れない者を見ると人は化け物と言うんだわ二ャ。言われた者がどう受け取るかとか、そういう想像は働かな二ャいのよ。悪気がない。だから慣れたらすぐに手のひらを返す。それはもうどうしようもない事で、そういうモンだと思って暮らしとる。ワー様の事だって同じニャ。暗黒神ってのはアンタらの呼び名(ニャ)であってワシらはそうは思わん。ワシらにとってワー様こそが絶対の神様ニャんじゃ」
〜ウルガ山北側斜面にひっそりと暮らす白猫族の証言記録より〜
------------------------------------------------------------------------------------------
滝の光に照らされたその人物の動きは滑らかで、踊っているように思えた。
躍動的で生命感溢れる動きだったが、その跳躍の高さは人間のものではなかった。
春風は大きな獣かと思い木に隠れながら目を凝らしてよく見た。
泉に潜ってから飛び出してきた獣だか人間だかわからない生き物は口に金色の魚を咥え、食べているようだった。
よく見ると両手両足に茶色に毛皮を纏(まと)っていて猫のような尻尾があり、茶髪のショートカットの頭には大きな猫耳があった。
その他の体はすっかり全裸の人間で、その人物は若い女の子のようだった。
ふいに一歩後退った時、春風は何かを踏んだ。
何を踏んだのかと足元を見るとそれは白い布切れで、それを拾うために腰をかがめてみると、足元には他にもいくつかの衣類が散らばっていた。
どうやらそれらは、泉で踊る女の子が脱ぎ捨てた服らしかった。
春風が拾い上げて手に持った布は木々の間から差し込んだ滝の光に照らされ、女の子が脱いだと思われる白いパンツだとわかった。
「わっ!」
春風は咄嗟に声を出した。
鼻歌が止まると同時に、踊っていた女の子は春風から離れるように水面を後ろに数歩飛び退いた。
女の子の瞳が縦長に収縮し、滝の光を反射して青く光った。
左手で自分の胸を隠し、前屈みになると
「シャアアァァ!」
と言って口を大きく開け牙を剥き出しにし、全身の毛を逆立たせた。
その反応は動物的で、とても人の出せる迫力ではなかった。
最初は人間の女の子の水浴びかと思い、覗いてしまった事を気に病んだがそれはどうやら見間違いで、未知の大型の獣と対峙しているのだと春風は戦慄した。
目の前の獣はあの鳥ほど大きくはないが、その威嚇には命の危険を感じる迫があった。
春風の心臓が、どくんと脈打った。
春風は一瞬眩暈(めまい)がして、首を振った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます