第7話 宇宙ラジオ、始動

そうじ洗濯当たり前、片付けなんてお手のもの

留守番だってなんのその

revo4で大好評だった侵入者撃退機能に加え

「お使い機能」が追加されました!

もう買い物に出かける必要もありません!


ビート君revo5はあなたの守護天使です!


〜新発売ビート君revo5街頭CMより一部抜粋〜

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土間ラボで黙々と片付けを続けるビートくんに大神が「お疲れ様」と声をかけた。


ビートくんは大神を振り返り「どういたしまして」と微笑んでから土間ラボの壁際まで歩いて行くと壁のくぼみ取っ手を引き、自身の充電収納ベットを引き出してそこへ入り込み、「おやすみなさい」と言ってベッドを収納した。


土間ラボがずいぶん静かになり、道端のクビキリギスの鳴き声だけが聞こえていた。


大神は宇宙ラジオのスイッチの前に立った。


ついに完成した巨大な装置の隅々に目をやり、無数にあるコードの接続口に緩みがないかと通電ランプの黄色い光を確認し


深呼吸をして「平常心」と一言つぶやき、宇宙ラジオの主電源ボタンを押した。


巨大な宇宙ラジオの中央正面に設置された七インチの液晶モニターにテンキーの入力画面が表示され、大神はタッチパネルキーで八桁の暗証番号を入力しエンターボタンを押した。


天井から吊り下げられた三台の五十インチモニターが光り、電波受信状況とその受信した膨大なデータの解析結果を示す数値とグラフが表示された。


それらのパネルを土間にいる全員が見つめる中


「よし」


と大神は小さくガッツポーツをして、すぐ後ろで見守る春風を振り返り、右手を差し出した。


「うまくいったよ。これで後は待つだけだ」


春風はその手を握り


「おめでとう」


と言って、大神を左手で抱き寄せた。


「ありがとう」


と言うと大神は


「コーヒーを淹れるよ」


と言ってキッチンへ行った。


土間ラボの奥は畳の六畳間がひとつ、さらにその奥にどれも小さなキッチン、風呂、トイレがあった。


コーヒーにこだわりがある大神は、自分でブレンドした豆の入った缶キッキンの上棚から、そして抽出器具を引き出しから取り出して並べた。


湯を沸かし、豆を挽き、抽出機器とカップを温めていく手つきは慣れたものだった。


コーヒーを抽出する間、キッチンにいる大神と土間ラボにいる春風はいろいろと話をした。


宇宙からの信号を受信するまでどのくらい待つのかとか、今まで一番苦労したのはどこだとか、宇宙人が宣戦布告してきたら大変だとか。


こんなにワクワクしながら、そして穏やかな気持ちで会話をするのはずいぶんと久しぶりだった。


思えば十年前の登山事故以来だな、と二人共に感じていた。


とても幸せな時間が流れていた。


二人が話をする間も宇宙ラジオは、わずかな機械音を発しながら黙々と動き続けていた。


土間ラボにあるのは、宇宙ラジオの本体であって全体ではない。


他の部分、ラジオでいうところのアンテナは宇宙空間にあった。


大神がたくさんの商品を開発したのは宇宙ラジオに使う費用を捻出するためで、世界を変えるほど売れてしまい金は余りすぎていたが、稼いだ金の一部で大神は人口衛星と宇宙探査機を作り打ち上げた。


大神所有の七つの人工衛星は地球上空を周回し、一年に三度のペースで宇宙に放った合計九十台の宇宙探査機の多くはすでに太陽系を抜け天の川銀河に広がっていた。


探査機が受け取る電波や粒子の情報は衛星を経由し宇宙ラジオに集約されていった。


宇宙ラジオ本体の中では、地球圏から発せられた信号や、新規性や規則性がないと判断された波や粒子の情報は無意味なものとして除去され、解析すべきと判断された情報だけが解析されていく。


解析後、それがもし何か意味のある情報があれば、翻訳機能によって数式や日本語(あるいは多言語も可能)に変換される仕組みだった。


宇宙ラジオのすごいところは、それら情報収集解析機能だけではなく、推定機能にもあった。


大神理論を組み込んだAIは発信源の宇宙の構成元素の比率などから、もしそこに宇宙人がいるならどんな姿なのかまでをも推定する事ができた。


しかし残念な事ではあるが、その解析推定結果がどれほど正しいのかは、誰にも確かめようはなかった。


ひょうたんの上側を水平に切ったような形のドリップサーバーを温め、サーバにセットされたネル布にコーヒー豆を入れてお湯を注いでコーヒーを抽出していく段階で、


大神は春風に打ち明け話を始めた。

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