第16話 クラーケン
「私の魔力をあげることは出来るんですよね?」
立ち上がり、ライアルさんに向かって提案をするエレナ。
ライアルさんは少し驚いたように言葉を続ける。
「君たちがそんな一蓮托生な関係には見えないが…。まぁ、そういうことなら手伝おうか」
そう言うとライアルさんは目を閉じて集中を始めた。
アンカンさんは書類の中から冒険者カードを取り出して机の上に置いた。
「なんでそこまでしてくれるんだ?」
「だってもう私たちは帝国から追われる身ですからね!もうひとつ追われる理由が出来たところで一緒です」
ははっ。確かに、その通りかもしれないな。
エレナにひとつ借りが出来てしまった。
「さぁ、行くぞ」
その言葉を聞いた瞬間、体が暖かい何かで包まれるのがわかった。
血のように身体中を巡り始めた魔力は次第に自分に馴染んでいくような感じがする。
さっきと同じように魔力増幅道具に手を置き、冒険者カードを書いていく。
「ふぅ、これで…!」
「あぁ、登録完了だ。お前たちはギルドの説明を聞いたか?」
「いえ、聞きそびれちゃいました」
「そうか。なら折角だし、ギルドマスターから直々に説明してやろう」
アンカンさんがお茶を持ってきてくれたので、それを飲みながらライアルさんの説明を聞く。
ギルドはEからAの五段階の評価があり(例外あり)、それは依頼をこなして昇級試験をクリアすることで上がる。
評価が上がるほど難しい依頼を受けれるようになり、報酬も上がる。
そして、依頼を受けないと冒険者登録が剥奪されることがあり、定期的に依頼を受けなければいけないのだとか。
「なるほど…。説明ありがとうございます」
「いやいや、こちらとしては珍しい人間が見れて満足だよ。もっと言えば君の出生など知りたいが…、冒険者同士の詮索は御法度だ」
「御法度?」
「誰でもなれるからこそ、この仕事を選ぶ奴が沢山いるからな。過去を聞かれたくない奴は山ほどいるだろうしな」
なるほど、確かにそうだな。
さて、冒険者登録も済ませて色々話を聞かせてもらったし、とりあえず今日は帰ることにするか。
「た、大変です!」
そう思い、立ち上がろうとしたその時、扉が勢いよく開いてギルドの職員さん部屋に入ってきた。
その顔だけでかなり焦っていることが容易に理解出来た。
「海に怪物が!」
「なに…?遂に来たのか。あいつはどうしてる?」
「動いてくれないようで…。これ以上奴に金を積むと我々が破産しかねません」
「ふむ…、しかしS階級冒険者の奴ほど強さを信頼出来る者はいない…。どうするべきか」
「何かあったんですか?」
状況は膠着し、何があったのか分からないので聞いてみることにする。
視線に「こいつに話しても意味あるか…?」みたいな感情が籠っていたのはちょっと悲しくなったが、話してくれるようだった。
「海にクラーケンというイカの化け物が出た。この街は海が資本だから、海に出た魔物を狩る強者の冒険者がこの街に配属された。だがそいつは次第に味をしめて、今では金がないと動かないんだよ」
「あ、もしかしてあの宝石屋の人ですかね?」
思い出してそう呟いたエレナの言葉で俺もハッとする。
あの女の人は冒険者に動いてもらうために交渉していたのか。
そして、冒険者は金がないと動かないからそれで怒っていたというわけか。
「じゃあ私たちが行きましょ!グリーンドラゴンをワンパンしたレオさんなら倒せますよ!」
「えぇっ!?むりむり!S階級冒険者じゃないと倒せないんだろ?」
「やってみないと分からないですよ〜」
「まぁ、一理ある」
「「いや、ねぇよ!」」
うぉっ、いきなり二人に突っ込まれてびっくりしてしまった。
アンカンさんはハッとした顔をして、申し訳なさそうにしてる。
あの人見た目に似合わず繊細なのか?
「あぁ、失礼…。ぶっふ!」
ポーカーフェイスを維持していたライアルさんは顔を歪ませないように必死に我慢している。
その顔に俺はムッとしてしまう。
「まぁ、とりあえずクラーケンを見に行くか?ギルドマスターとして、自分の力を見誤ってる冒険者を放っておく訳には行かないしな」
そうか、確かに誰でも慣れるからこそ強い魔物に無意識に挑んでしまう人も多いだろう。
優しさでもあるのか。
ここまで世話を焼いてもらっているし、無愛想な印象に対してライアルさんはいい人のようだ。
―――
夜、人が居なくなった時間帯にライアルさんと共に港へ出てきた。
潮風が頬を撫でて少し気持ちいい。
「クラーケンの性格は温厚であり、近づかなければ襲われることは無い。しかし、夜になると腹を空かせて辺りの食えるものを食い散らかし、自ら移動して食欲を満たそうとする。だから、もう少しすると出てくるぞ」
そう言って海に指を指すライアルさん。
その時、海に波紋が出現し、それが広がっていく。
大きく海が揺れ始めて、巨大な白いものが浮き出てきた。
「あれが…」
「そう、あれがクラーケンだ。巨大な魔物で、凶暴な夜は近づくものを触手で全て破壊する。お前はグリーンドラゴンを倒したという妄想をしていたが、そのグリーンドラゴンより巨大だろう?」
事前にイカとはどういう生物かを確認してきたので分かるが、海に出ている分だけでもグリーンドラゴンを遥かに上回る大きさだ。
しかも、その大きさで全ては見えていないのだから、相当な大きさなのがわかる。
「では行きましょう!」
「ちょっと待って」
エレナさん…?クラーケンの姿見えてますか?
エレナは俺があれを素手で倒せると思っているのか…。
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