第14話 いちゃいちゃ
「邪魔するよ」
街が静まり返り、暗闇が包み込む夜にひとり、豪華な鎧を身にまとった男があのアパートへと足を踏み入れた。
壊れていた扉を踏んでアパートの中へ入るが、やけに静かでまるで誰もいないようだった。
「はぁ…?なぜいない」
イライラを抑えながらもいつもあの大男がいた地下へと行くことにした。
「…うぉっ。穴が空いてる」
暗くて気づかなかったが、目の前に巨大な穴が空いていて地下の様子が丸見えになっていた。
そこから地下を覗くが誰もいないことは確かだ。
「逃げた…?いや、黒躍団の部下共ならまだしもアルゴが逃げるわけは無い」
あいつはこれでもかと言うほど贅沢に暮らしていたはずだ。
普通ならばその贅沢から簡単に抜け出せるとは思えない。
「この惨状、何かあったな。チッ、めんどくせぇ」
また新しく黒躍団を作り直すか、悩みながらその男はアパートを後にした。
―――
「さぁ、どこ行く?」
「そうですね…。昨日は結局出かけれませんでしたし…」
今は俺が黒躍団を潰した日の翌日だ。
昨日はカンナに休みを貰って何処かに行こうかと意気込んでいたが、俺の腕が激しく痛み出したので行けなかった。
その様子を見たカンナの好意で翌日また休暇を貰ったので遊びに行くのだ。
ちなみになぜ痛み出したのかは分からない。
久しぶりに本気で拳を振り抜いたからかなぁ。
「まぁとりあえず歩くか!」
「そうですね!」
俺たちはブルーサファイアを出て人が行き交う街を歩いていく。
屋台などで魚の塩焼きを買ったり、服を見たりと今までやったことがない新鮮な体験が出来てとても楽しい。
「このわたあめとかいうお菓子美味いぞ!」
「こっちも美味しいですよ〜?」
「く…くれ…!」
「いい加減にしてください!」
「!?」
エレナがもつ棒状のお菓子を一口もらおうと懇願していると、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「わ、私はそんなこと言ってませんよ。はい、どうぞ」
「お、ありがとう」
ふむ、何か店の前で揉め事をしているようで、女の人と豪華な装飾を施した防具を身につけた男がいや、この棒状のお菓子美味い!!
「これなんだ!」
「チュロスと言うらしいです!美味しいですよね〜」
もぐもぐもぐもぐと口を動かすエレナを見て、食べかけをもらってしまったことに気づいて罪悪感が湧いてくる。
「食べかけだったか…、ごめん」
「じゃあ、そっちのわたがし食べたいです!」
「お、おう!なら交換ということで!」
「そこのカップル!!うるさい!!」
「「!?」」
揉め事をしていた女の人が俺たちの方を見て、ものすごい剣幕で注意してきた。
俺たちより周りを行き交う人たちの方が絶対うるさいのに…。
「あ、綺麗ですね〜。あのお店は宝石を売っているみたいですね!」
「宝石…?」
「お、君たち興味あるの?うちは宝石と言うより豪華なもの全般を売っているよ」
今度は豪華な防具を着た男の人に話しかけられて、気になって店の品揃えを見てみる。
「えーと、『深淵の鏡、金貨三十枚』、『王族の錫杖、金貨百枚』…え?」
さっきそこで買ったお菓子は銅貨一枚だったぞ…!?
何だこの高さは…!
お金は確かに魔法袋の中に沢山あるけど、これを買う人はいるのかな…?
「チッ、その顔は君たち金を持ってないね?金がない貧乏人は帰ってくれ。ほら、ついでに君も」
俺たちと女の人は邪険に扱われ、男の人は店の奥へ戻って行った。
「全く…、なぜあんな人がS階級冒険者なのかしら…!あ、あなた達さっきは怒鳴ったりしてごめんなさいね」
女の人もそう言うとぷりぷりと怒りながら帰って行った。
「冒険者…あの人が…」
S階級冒険者となると、相当活躍した人してとても強い人なのだろうな。
冒険者…、あの日、無限地獄に落ちる前までは憧れていたな。
強いスキルを貰って冒険者として成功する夢を何度見ていたことか。
「冒険者…、なってみますか?」
「え?」
「いえ、嫌だったらいいのです。私もこの生活をするのならば、いつか冒険者になっておきたいと思っていたので…」
「冒険者になっておきたい?どうして?」
「冒険者と言うのは個人個人に冒険者カードと言われる証明書が与えられます。それを持っていれば街に入る時に税金がかからなかったり、魔物の買取に発生する仲介料が安くなったり…。上げていけばキリがないですが、お得なことは盛りだくさんです」
なるほど、それは確かになっておいて損は無いな。
けど、持っているだけでそんなにお得になるのは少々いい話すぎる気がする。
そんな疑問が出ると思ったのか、エレナは続けて話を続ける。
「ですが、冒険者カードを維持するのに魔物を期限内に狩り続けないと行けなかったり、依頼を定期的に行わなければならないので、冒険者カードを維持するのは大変だと言われています」
ふむふむ、そういう話なら俺たちみたいなお尋ね者には相性がいいのかもしれない。
せっかくだし冒険者になるか。
「冒険者はどこでなれるんだ?」
「お!なら一緒に登録しに行きましょ!ひとりじゃ不安だったんです〜。登録出来る場所はギルドです!」
あ、ギルドで登録できたんだ。
よし、そうと決まればギルドに出発だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます