第12話 賭けごと

 ある住宅街の一角にある少しボロい大きめのマンションが存在していた。

 周りは綺麗に舗装されているのに、何故かこのボロマンションは手がつけられて居ない。


 そんなことを考えながら、黒尽くめの男について行くとそのボロマンションへ入っていった。

 俺も続いて入ろうとするが、黒尽くめの男は扉を壊れんばかりに力を入れて閉めて置いてけぼりにされてしまった。


(ここに入ればどうなるか分かってるんだろうな、的な意味なのかな)


 こうしている間にもあっちは体制を整えて、俺を迎え撃たんとしているだろうし…。


「まぁ関係ないけど」


 俺はそんな相手の思惑に思考を割くのがめんどくさくなり、普通にドアを開けてボロマンションの中へ侵入する。


「バカめ」


 外は早朝でまだ暗いこともあって、部屋の内部は何も見えないほどに暗黒だ。

 だが、確実に俺に向かって何人もの人が殺気を放っているのは理解出来た。


「目が暗闇になれずに何も見えない今なら、強いお前だろうと倒せるだろうさ」


 何か言ってるが、とりあえず地下に思わず嫌悪してしまうような気配があり、それがこの黒尽くめ達のボスだと予想する。

 静かな部屋の中にコツコツと何人もの足音が聞こえて、次第にその音は俺に近づいている。


(流石に何も見えない状態で戦うのは怖い。手とか切られたら痛いだろうし、なるべく戦いたくない)


 近づく足跡に思考を急かされて、俺はひとつの結論に至る。

 それは…。


「そうだ。あの時みたいに地面殴って地下と繋げちゃえ」


 フンッ!!と気合を入れて地面を渾身の力でぶん殴る。

 周りからは「は?」みたいな何が起こったか分からないと言った呟きが聞こえてくる。


「悪い、まずボス倒してくる」


 俺は地面を壊したことで浮遊感に襲われ、重力に従い地下空間へと落下していくのだった。


 ―――


「おい、奴は今どこにいる」

「はっ。上にいるようで、手下共が戦っている状態です」


 上…、もうそこまで来ていたのか。

 さて、どんな野郎が来るのか楽しみなもんだ。


「ふっ」

「…?どうした」

「いや、攻め込んできた男…、名をレオと言うらしいですが、マヌケなことに暗闇が支配する我がアジトへ入ってきたようです」

「ほう?余程の馬鹿じゃない限り、罠だとわかるはずだが」

「それほど余裕があるということでしょう…!その余裕、へし折ってやりましょうか」


 レオという男、流石に暗闇で動く俺の手下には手を焼くだろうが倒すだろう。

 シェイエトを倒した男だ、それくらいしてくれなければ俺が困る。

 久々の期待出来る戦闘、傷だらけで俺の前にこられたら楽しくねぇ。


「さぁ、いつでも来い。レ…」


 そう、奴の名前を言おうとした瞬間、天井からとてつもない音が聞こえてきて屋根が崩れ始める。

 そして、屋根が崩れた土煙の中からは一人の男が現れる。

 その容姿は好青年といった風貌であり、金髪と細い体が印象的だが、うちに秘める強さは尋常ではないと俺の強者センサーが反応している。


「よう、お前が黒尽くめのボス?」

「ははっ、屋根を破って登場とは豪快だな。あぁ、俺が黒躍団のリーダー、アルゴだ」

「俺はブルーサファイアの店員、レオ」


 ブルーサファイアの店員…?何かの隠語か?

 いや、この際肩書きなど関係ないし要らない。

 今重要なのは俺を満足させれる強さかどうか、それだけだ。


「………」


 静かな睨み合いが続く。

 どちらかが動くまで、この睨み合いは続くだろうと確信したその時、天井から何かが落ちてくるのが視界に入った。


「食らえ…!」

「…うっ!」


 それはシェイエトであり、天井からの奇襲によりレオの顔を切りつけて地面に直撃する。


「シェイエトてめぇ…、俺の勝負を取ろうとすんじゃねぇよ」

「う、あ…、私も一緒に戦いたくて…!」

「口答えするのか?黙って見とけよ」


 俺は近くに這いずってきたシェイエトを蹴り飛ばして、邪魔者を排除する。


 しかし、今の攻撃を避けれないとなるとまだ暗闇には対応出来ていないようだ。


「ひひっ、おい。賭けをしないか?」

「…賭け?」

「あぁ。勝った方が欲しいものを奪い、負けたものは奪われる。単純な賭け事さ」

「なるほど。いいな」


 はっ、バカめ。乗ってきやがった。

 今のシェイエトの一太刀は俺からしたら避けれて当然の攻撃。

 それを避けれないとなると、この勝負はつまらない勝負になってしまう。


(勝負を楽しめない罰として、奪われる絶望した顔を嗤って終わりにしてやるか)


「俺はお前と同行している女を要求する。いたよなぁ、アカウとアカオが見たと言っていたぜ」

「なら俺はその女の子を貰う」

「あぁ?シェイエトか?おう、いいだろう」


 さて、準備の舞台は整った。

 あの余裕の顔をぶん殴ってここに来たことを後悔させてやるぜ…!

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