第11話 力の調整
休日、早朝に起きてしまった俺は散歩でもしてエレナが起きてくるまで時間を潰す。
スカイルの街は漁師が多く、この時間帯でも海岸に人が多く集まっている。
「せっかくだし、人がいない街並みも見てみようか」
つかつかと歩いて、住宅街の方へ向かっていく。
誰もいない静かな場所を歩くというのは俺にとって嫌な思い出でしかないのだが、帰る場所があるという安心感のおかげで俺の心は穏やかだった。
だが、さすがに早朝と言えど歩く人は数人いるようで、何人かとすれ違う。
でもその人たちは俺の事をやけにジロジロとみてすれ違うのだ。
(…なんか顔についてるのか…?)
顔に触れて触るが何かついてるわけでもないし…。
何かあるなら言って欲しいな…。
「あ…」
そう思っていると、前から来た人が俺の方へ近づいてきた。
「おはようございます〜」
「悪いですが死んでください」
「えっ!?」
何かあるなら言って欲しいとは思ったけど、それは言って欲しくなかった。
この気配…、あの黒尽くめの人の仲間かな。
「女の子かな?ごめんね」
裏に瞬時に回ってパシっと首筋を手刀で攻撃して、気絶させる。
「…!」
「女の子?舐めてますね」
と思ったが、俺の手刀は受け止められていた。
少なくともあの二人組よりは強そうだ。
警戒して俺はバックステップで距離を取る。
逆に女の子は俺の態度に怒りを露わにしつつも、冷静に腰を落として構えていた。
睨み合いで緊張感が最高潮に高まった時、女の子の足がピクっと動いた。
その刹那、姿が見えなくなる。
「女の子…、久しぶりに見た目で判断されました。屈辱です」
低く殺意が籠った声が頭の真後ろで響いた。
恐らく、一般人ならこの瞬間に死を悟るのだろうが俺は違う。
「え…!?」
「ごめん、俺は相手によって力を調整するんだ。君もアリ相手に力は込めないだろ?」
迫り来る刃物をキャッチして、地面に投げ捨てて武器を奪う。
次の武器が出てこないように利き手であろう右腕を軽く攻撃する。
「諦めて。多分俺を殺せないよ」
「私をアリだと馬鹿にするなんて…、いくら侮辱するつもりなの…」
ひいぃ、殺意がさらに籠って声が怖い。
特に目が怖い…、見た目は可愛い少女なのに…。
「ご、ごめん。うさぎの方が良かった?女の子ってうさぎ好きだよね?」
「殺します」
「ま、まて!」
いつの間にか武器を持っていた左腕を叩き落として、両腕を再起不能にする。
攻撃手段がもうないのか、俺を睨む目がさらに鋭くなる。
もう仕方ない、かなり強めに手刀をして脳震盪で気絶させよう。
「お、おやすみ〜」
「………」
よし、気絶したな…。
それにしても、多分この子の仲間が色んなところで俺の事監視してるなぁ…。
殺意が込められた視線が沢山向けられていて、正直いい気分では無い。
「もう、仕方ないなぁ」
今は午前四時半、エレナは恐らくまだ起きないだろう。
「元凶を潰すか」
そう呟き、見てる視線を全て威圧するような気配を放ち、隠れている女の子の仲間を威嚇する。
その中で一番今の威嚇にビビったであろう視線の方へ一直線へ向かって飛んでいく。
建物の屋上から俺の事を見ていた黒尽くめの男を発見し、背後へ回り込む。
「君たちのボスに案内してよ。従ってくれたらこの出刃包丁はこれ以上赤く染まらないから」
首筋に当てる出刃包丁から重力に従い、ゆっくりと滴る血が赤く染めている。
声も出せないのか、その男は静かに頭を縦に振った。
それを見た俺は出刃包丁をしまい、拘束を解除する。
「さぁ、案内して」
「ば、ばかか?今のチャンスを逃したら酷い目にあうぞ」
「え?だって、出刃包丁を首筋に当ててても当ててなくても君の状況は変わらないでしょ」
「はぁ…?お前ら…!一斉に畳みかけろ!」
当然気づいていた集まっていた気配が一斉に俺を目掛けて飛び出してきた。
人数は十人弱で、全員が武器を構えている。
「例え十人増えてもね」
俺は全ての黒尽くめの首筋を的確に手刀で攻撃して、戦闘不能に陥れる。
その間、わずか一秒。
「化け物…!」
「化け物じゃなくて俺はレオ。ていうか早く案内して」
「わ、分かった。案内するから俺には攻撃するなよ…!」
「大丈夫だって。案内さえしてくれれば、君はちゃんと明日を迎えられる」
ここまで脅しておけばさすがに案内してくれるだろう。
もう一人かなり遠くでこちらを見てる奴もいるが、まぁもうめんどくさいのでいいや。
海岸線に朝日が出てきて、照らされるスカイルの街を歩きながら俺は黒尽くめ達のアジトへ向かうのだった。
―――
「シェイエトがやられた、だと?」
薄明かりが照らす石造りの地下室にて、椅子に座りぐびぐびと酒を飲む男がいた。
その名はアルゴ、黒尽くめ達を率いる黒躍団のボスである。
そんな彼の右腕とも言えるシェイエトがやられたと報告され、怒りがふつふつと湧いてくる。
「えぇ。シェイエトの姉さんをやったのは、この前アカウとアカオが返り討ちにあった男と同じようです」
「なるほどな…。それは本当だろうな」
くだらない虚言だと思い、怒りが先行してしまったが団の中でもそこそこ実力がある二人をやった人物が出てきて信ぴょう性が出てくる。
「えぇ、しっかりと悟られない位置で監視したので確実かと。そして、その男はもうすぐこちらにやってきます」
「ほう?わざわざ相手から来てくれるなんて良い奴じゃねぇか。いっちょ、地獄の片道切符を渡しに行ってやろうじゃねぇか」
筋骨隆々の金髪のアルゴは、椅子の手すりをバキバキと破壊しながら立ち上がる。
半分以上残っていた酒を一気飲みして、今から来るその男、レオを待ち構えるのだった。
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