第8話 海!
「さて、これからどうする?エレナ」
混雑する大通りの人混みを歩きながら、エレナに話しかける。
エレナの言っていた通り、この街は人の行き交いが激しいようで昼間は人、人、人、の大渋滞だ。
「どう、ですか」
歩く足は止めないが手を顎に当てて、考え始めた。
そりゃあ考える時間もなかったよな…。
突然こんなことになっているようだし、仕方ない。
「レオさんはどこに行きたいですか?」
「え?俺は…、適当って思われるかもしれないけど、どこでもいいよ。俺の今の目標というか目的はエレナを護衛することだし、エレナの判断に任せる」
「…分かりました。では、この街を移動しましょう」
「そうか。そういえばこの前この街を拠点にすると言っていたが、移動するのか?」
「はい。私の予想では数ヶ月単位でお金を貯めつつ身を潜める生活をすると思ってましたが、いきなりこんな大金を得れましたからね!」
そう言って笑うエレナは辛いことがあったような顔には見えない笑顔だ。
エレナは強い子だな。
俺はその笑顔で改めて絶対に護衛するという意識が芽生えたのだった。
―――
「ふむふむ、ここのも面白そうですね〜。海のある街もあるみたいです!」
この世界の地図を買って、俺たちは路地の入口辺に座って行く場所を考えていた。
まず第一にエレナが逃げている帝国からなるべく遠くにある場所を目指したい。
「海か!確か大きい水溜まりの事だよな!」
「違いますよ、海は大きな湖のことです!」
「一緒じゃないか?」
色々話し合いながら行く場所を決めている最中、嫌な気配がしたのが分かった。
あの時、久々に人間と再開したから余計にその気配が記憶に残っていた。
「あっ、この森の珍味を集めた…」
「しっ、静かに。なるべく顔を隠して」
路地の方から大通りの方を覗くと、そこには確かにあの時エレナを追っていた帝国軍がいた。
横暴な態度で屋台から食べ物を貰う姿を見て、相当探すのにイライラしているようだ。
「間違いないですね」
人々の足の隙間から帝国軍の姿を確認したのか、エレナはボソッとそう呟く。
これゆっくりしている暇はなさそうだな。
「ちょっと俺に掴まっててくれるか」
「えっ?急になんですか…、ひゃぁっ」
エレナを抱き上げると、俺は路地裏の方へ全速力で逃げ出す。
軽くポンッと地面を蹴ると高さ数十メートルまで跳ね上がり、そこから屋根伝いでタンサの街を駆けていく。
「ひゃぁ!すごいです!鳥になった気分!」
「掴んでる手は話すなよ〜」
「離したら助けてくださいよ?護衛さんなんですから!」
「護衛さんは護衛するのが任務だろ。自ら危険に行くような人は助けませーん」
「むぅ」
さて、まずはどこに行こうか。
海か山か…、どちらにせよ道の世界で楽しみだ。
「ではまずは海の街を目指しましょう!方角は西、全速前進です!」
「あいあいさー」
目指すは海に面した街、スカイル。
超跳躍で外壁を飛び越えた二人は一直線で目指すのだった。
―――
目の前に広がるのは巨大な青!
それを中心として栄える街!
賑わう人々!
「気持ち悪くて吐いちゃうエレナ」
「うぅ…、乙女としてここで吐くわけには…」
タンサの街からぴょんぴょんと飛び跳ねてやってきたのはスカイルという海に面した街だ。
海に生息する食材がとても美味しいらしく、俺はそれに期待を膨らましている…!
人混みを避けながら、スカイルの街の探索を始める。
街からはなにか独特の匂いが漂っていて、不思議な感覚だ。
「これはお魚の匂いですね!お魚は好き嫌いが激しい食材ですので、食べれるといいですね」
「なるほど、これが魚の匂いか」
確かに、通りを歩いているだけで死んだ魚を店先に出している店が多く見える。
肉は幾度か食べたことあるけど、魚は無いからわくわくする。
「おっ、そこの二人!うちに寄ってかない?」
俺がある店の魚をじっくりと眺めていると、店番の女の人が話しかけてきた。
「おぉ!魚料理は食べれるのか?」
「そりゃあ食べれるさ!そっちの嬢ちゃんも来なよ」
「は、はい!」
扉を開けて店の中に入るが、お世辞にはいいとは言えない程に内装はボロボロだった。
外から見た店はかなり綺麗な感じだったのに…、ハリボテ?
そのせいか、店の中に入る客が数人しかいなく、俺たちの後に入ってきた客は内装を見るとそそくさと出て行った。
「ほい、注文は決まったかい?」
おっと、そうだった。
店の状況よりまずはご飯だった。
俺はメニューを見開き、美味しそうな字面の料理名を探していく。
「…刺身?」
「刺身は魚を捌いた料理、つまり生食だな」
「レ、レオさん…。ここで生食はあまり…」
「むっ」
生食…、つまり焼いたり煮たりという工程を行わない料理ということか…。
エレナの言いたいことはわかる。
この内装の店から出される生食は、確かに少々危なそうだ。
だが、見た目で決めていては本当にいいものを逃してしまうかもしれない!
「俺は刺身で!」
「私は焼き魚定食でお願いします」
「はーいよ、ちょっと待ってな!」
数分後、俺の前に出てきたのはぴちぴちと未だに動くバラバラにされた魚だった。
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