第6話 グリーンドラゴンじゃねぇか!
「エレナは最近虚言癖が酷いんだ、許してやってくれ」
「そんなことないですよ!!しかも、私達出会ってから一日も経ってないですよね」
「ちゃんと話してくれたまえ、レオくん」
ニコーっと近づいてくるアロルドの顔は不気味で怖かった。
しかし、俺は本当にグリーンドラゴンなんて知らないぞ。
確か、エレナがそんなこと言ってたような気もするけど、俺が倒したのはグリーントカゲだ。
とりあえず俺はアロルドに俺がここまでどうやってきたか、端折り隠して説明した。
「手刀でワンパン。それじゃあ、グリーンドラゴンと違うか」
「あぁ、手刀でドラゴンをワンパンなんて人間離れした技だ。有り得るわけない」
ふっ、とりあえず面倒事は回避出来たようだ。
このまま魔物の素材を売って、早く宿屋を探そう。
「むぅー、やっぱりあれはグリーントカゲですかねー?」
「あぁ。あれだけ弱いんたから、きっとそうだろう」
一件落着、何事もなく終わったようだ。
「そういえば、もう夜ですね。冒険者もこの時間帯になると討伐から帰ってくる人も多く、受付も混んでしまうので、ここで魔物の素材を売ってしまいましょう!」
色々話しているうちにもうこんなに時間が経っていたか。
事務室の窓からは夕方のオレンジ色の日が差してきて、少し眩しい。
「ほう、さっき言ってたワンパンした魔物の素材か?見せてくれ!」
あの巨体を全て持っていくことは叶わなかったので、切り分けて俺が持てる分だけの素材を持ってきていた。
多く持ってきても、対して高く売れないだろうし、持てる分だけにした。
ドンッ、という音が鳴るほどには重いその素材を目の前の机に置く。
風呂敷の結び目を解いて、魔物の素材が顕になる。
そこにあるのは鋭い牙と鋭利な角を携え、緑色に光る鱗に身を包まれたグリーントカゲの頭だった。
「「グリーンドラゴンじゃねぇか!」」
アロルドとレビィの二人の叫び声が事務室に木霊した。
―――
「お、俺たちは一体どうなっちゃうんだ…」
「こ、これで足が付いて捕まったらレオさんのせいですからね…」
「えぇ…」
グリーントカゲ改めて、グリーンドラゴンの頭を見たふたりは大騒ぎし始めて、俺が討伐した場所に飛び出していった。
その直後に俺たちはそっと部屋を出ようとしたが、いきなり扉が空いて戻ってきたレビィさんが「逃げたら許しません」と言い残し、また部屋から出ていった。
「…倒したらまずい魔物だったとか…」
「はぁ…、私の人生もこれまででしょうか…」
どんよりとした空気の中、時間だけが過ぎていき、大体一時間経った時にアロルドが部屋に入ってきた。
「お手柄だぜー!!ナイスだレオ!!」
そう、喜び叫んで両腕を上げてハイタッチを求めてきたのでノリでハイタッチをする。
え?どういうこと?
「グリーンドラゴンはな、緊急で王都から討伐を依頼された魔物だったんだよ。しかし、そいつは強くて俺達には倒すのが難しい魔物で、数日後に死ぬことも覚悟で討伐隊を作る予定だったんだ…!いやぁ、良かった!」
え?つまり…、いいことをしたってことか…!
「さすがレオさんです!レオさんはやっぱりいい人でした!」
「え?やっぱりって一回君の中で俺は悪い人になってるの?」
なんだか分からないけど、アロルドとエレナと一緒に喜びを分かちあった。
「今日は宴だ!俺奢りで飲んでいけ!」
そう言って扉から出ようとしたアロルドを引き止めて、俺は注意を促す。
喜びで俺たちがなんのためにこの街にやってきていたのか忘れそうになった。
「アロルド。俺たちは実は追われてる身で、あまり顔や名前を知られたくない。何やかんや説明して俺たちの名前を伏せてくれないか?」
「むっ、そうなのか。お前たちを盛大に祝ってやろうと思ったが、そういう理由じゃ仕方ない。じゃあ今日は突然死んだグリーンドラゴン記念の宴だ!」
「突然死んだっておかしいから!もっといいの考えとけよ!」
俺の言葉を聞いてるのか分からないアロルドは嬉しさで力の加減が出来ないのか、乱雑に扉を閉めて出ていった。
本当に大丈夫か、あのおっさん…。
「良かったですね!」
「ん?何がだ?」
二人きりになった部屋で、エレナは俺に向かって無垢な笑顔を向けてくる。
「やっぱりレオさんはいい人です!人助けもしてしまうなんて…、私はあなたに護衛を依頼してよかったと心から思いました」
「そ、そうか。まぁ、エレナが逃げ切れるように俺も精一杯護衛に務めるよ」
子供の頃の記憶なんてほとんど薄れて、もう母親くらいしか顔は思い出せない俺だが、久しぶりに人に感謝されてなんだか気分が良くなってきた。
今日は宴らしいし、楽しむぞ!
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