第5話 絡まれ姫

 タンサの街はとても綺麗な街で、しっかりと整備されていた。人の行き交いも多くて、大通りには屋台などの出店が出て、盛り上がりがすごい。


「すごく綺麗な街だな。俺がいた時代より技術はかなり発展したようだ」

「俺がいた時代…?けど、本当に便利な時代になったと思いますよ」


 とりあえず、魔物の素材を売りに行こう。あの屋台も結局お金がなくては利用出来ない。


「それで、魔物の素材はどこで売れるんだ?」

「ギルドです!ギルドとはですね…」


 移動しながら、ギルドというものをエレナから教えてもらった。


 ギルドとは魔物討伐を斡旋する場所だ。魔物討伐を依頼する者と冒険者の間に立ち、仲介する組織のことである。

 そこでは、魔物の素材の売買も行われているようで、街には欠かせない施設となっているようだ。


「ここが…」


 三階建ての大きな建物がそこにはあり、正面の目立つところには剣が交差し、背後には盾があるような、そんな看板が建付けられていた。

 ドアの隙間から見えるギルドの内部は多くの冒険者がおり、盛り上がりを見せている。それは、ギルドの内部にある酒場が原因だろう。


 ドアを開けると、酒の匂いと共に冒険者の視線が一斉に襲いかかる。

 緊張感が一気に高まるが、それは一瞬の出来事で、いつの間にか冒険者は騒ぎ始めた。


「すまないね。異端な者がいきなり現れたら普通は警戒してしまうだろう?」


 いつの間にか目の前に立ち、不気味な笑顔で喋り男がいた。

 風貌はいかにも冒険者という格好だが、背中には背丈に合わない大剣を担いでいる。


「とゆうと?」


 俺がその言葉に疑問を持ち、質問するとその男はエレナをジロっと舐め回すように観察した後に、言葉を付け足した。


「こんな綺麗な娘を連れて冒険者とは羨ましいねぇ。俺にこの娘くれねぇかぁ?」


 その男は脅しかのように、背中に携えている大剣の塚を握った。

 いつでも剣を振り回せるということだろうか。

 周りからは騒ぎ楽しむ声に混ざり、俺を憐れむような声が聞こえてきたり、この男について喋っている声が聞こえてきた。

 どうやらこの男は普段から女性漁りをしているようで、運悪く俺達…、いやエレナが標的にされたようだ。


「むっ!なんなんですか、あなた!」

「どうどう。落ち着けー、エレナ。こんな奴よりまずは魔物の素材を売ることが優先だろ?」


 俺はその男を無視して受付に向かう。

 エレナがなにかブツブツ言ってるが、これでいいんだよ。

 面倒事は無視が基本だ。


「何無視してんだよ!!」


 その男は無視された怒りからか、顔が真っ赤になり血管が浮き出ていた。

 男は背中に携えた大剣を引き抜くと、その勢いのまま俺に振り下ろした。


 ガンッ!


「ガンッ??」


 勢いに任せて重力で加速したその大剣は俺の頭頂部にガンッ!という音と共に


「…痛たいな」


「何で切断出来な…!!」


 俺は懲らしめようとその男にデコピンを放った。

 その男は体が宙に浮き、数メートル飛ばされてダウンした。


「人に刃物を向けちゃいけないってのはお母さんに習わなかったのか」

「私は人が刃物で切断出来ない事実を知らなかったです」


 気が付くと周りの冒険者達は騒ぐのをやめて、吹き飛ばされた男をガン見していた。


「なんだー、お前らもデコピンされ…」


「ヒュー!兄ちゃんやるねぇ!」

「ガハハ!いいねぇ、その腕っ節!」

「おもしれー!ナイスナイス!」


 思っていた反応とは真逆の反応で、びっくりしてしまった。


「お前ら静かにしろ。お前だな、ゼニを吹き飛ばした奴は」

「ゼニってあいつか?なら俺だが」

「そうか。なら、上の階に来い。話がある」


 面倒事を処理したと思ったら、また面倒事が…!?

 ここで拒否しても、状況は変わらなさそうだし、大人しくついて行くか。


 ―――


「いやぁ、見てたぜ!いいデコピンだった!」


 俺達は、上の階に上がり、事務室へ通された。

 内装はかなり綺麗にされており、隅々まで清潔なのだが、一番奥の中央にある机には大量の資料が置かれていた。


 けたたましく叫ぶ男がその大量の資料を腕で乱雑に退かして、机の上に座り笑っている。


「ギルドマスター」

「へいへい、分かってるよ」


 一方で俺達を連れてきた女性の方は、物静かでクールな印象を受ける人物だ。


 喧しい男は俺達が座った椅子の対面に改めてドカッと足を組んで偉そうに座った。


「まずは自己紹介!俺はこのタンサの街でギルドマスターをしているアロルドだ!スキルは…」

「言わなくてもいいです、ギルマス」

「そうか!そうだな!それで、この静かな奴がレビィ!秘書兼副ギルドマスターだ!」


 本当にうるさい人だな。

 だが、レビィさんがアロルドを制御していて、いい関係性が垣間見えるな。


「俺はレオ。こっちがエレナだ」

「よろしくお願いしますー!!」

「ふむ、よろしくな!さて、本題なんだが…」


 そう言うと、アロルドは今までの明るい雰囲気を放っていたとは思えないほどに冷静な目で、こちらに話しかける。


「グリーンドラゴンを倒したのは君か?」


 やはり、ゼニを吹き飛ばしたことが怒られるか?とも思っていたのだが、よく分からない話が飛び出してきた。


「グリーンドラゴン?」

「グリーンドラゴン…!やっぱりさっきのは…」


 ふむふむ、なるほどなるほど…。

 俺はエレナの唇を指で抑えると静かに言い放った。


「俺達は知らないです」


「いや、嘘つくな」


 まずい…、どんどん面倒くさくなっていく!!

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