第4話 金無し

「提案します!私は、この先にあるタンサの街に行ってみたいです!」


 エリナは逃げてきた方向の反対側に指をさして、笑顔でそう提案してきた。


「何故だ?」

「私が逃げてきた帝国とは反対側の少し近い距離にあり、帝国の貿易の中継地点としてある街ですが、その分冒険者や商人…、とかなり人の行き来が激しいです。木を隠すには森、と言いますし、とりあえずの拠点としては成り立つと思います」


 なるほど、しっかりした理由だな。

 確かに、それだけ人の行き来が激しいのなら、少しの間隠れるのなら充分だろう。


「…あと服屋が沢山あるので」


 …この子、本当に追われている自覚あるのか?まぁ、落ち込んでいるより明るい方がいいのかもしれないな。


「そうか。そのボロボロの服じゃ動きずらいもんな」


 よし、まずはタンサの街でエリナの服を買うのが目標だな。

 ついでに俺がもう三百年以上着ていたこの服も買い換えないと。




「それで、お金はどうするんですか?」


 タンサの街をめざして歩き始めて数分後、エリナの口からその疑問が飛び出した。


「え?エリナが持っているんじゃないのか?」

「持ってるわけないじゃないですか。逃げる最中に、お金を持っていく余裕は無かったんです」


 つまり…、俺達は一文無しってこと!?


「どうするんだよ!ご飯も買えないじゃないか!」

「ちなみに言うと、街に入るためには税金を払わないといけないので、お金が必要です」


 私こんなことも知ってるんですよ、みたいなそのドヤ顔をやめて。


 しかし、困ったな。お金が無いと何も出来ない…。


「魔物を狩るのはどうでしょうか?」

「魔物?」

「えぇ。冒険者でなくとも、弱い魔物を狩って小遣い稼ぎをする人達は結構いるんですよ」


 なるほど、魔物を狩ってその素材を売ればお金になるんだな。

 よし、そこら辺の魔物でも狩って宿代くらいは稼げるだろう。


 ―――


「エリナ、魔物ってどこにいるんだ?」


 タンサの街方面に歩きながら魔物を探しているが、なかなか見つからないのだ。


「おかしいですね。この森には沢山の魔物が生息しているはずなのですが…」


 そう言われてもなぁ…、辺りを見渡せどあるのを木々ばかり…。


 ドンッ。


「痛っ。レオさん、急に止まらな…」

「しっ、なにか気配がする。魔物かもしれない…」


 さっきエリナを追っていた連中の気配でもないし、人間らしい気配でもない。


 魔物の可能性が高い!ようやく見つけたぞ!


 物音を立てないように、気配のする方へゆっくりと近づいていく。

 すると、少し開けた場所があり、そこには緑色の鱗に包まれたドラゴンがいた。


「あれは…、グリーンドラゴンですね。階級が高く、レオさんでも厳しい戦いになると思います…ってあれ?レオさんがいない」


 エリナが何か言ってたが、聞こえなかったな。やっと見つけた魔物なんだ!寝ている今がチャンスだ!


「レオさん!ダメです!!そのグリーンドラゴンはA階級に属される…」

「グォォ…」


 あ、ちょっと!エリナの大声で魔物が起きちゃったじゃないか。


 まぁ、関係ない。


「せいっ」


 素材を売るということは、素材の状態がいいと値段も上がるのだろう。

 そう考え、俺は手加減をした手刀で魔物の首を攻撃した。


「グギャァァァァッ!!!」


「「え?」」


 その手刀で魔物の首は玩具のように簡単に吹き飛び、絶命してしまった。

 手刀を行った首は、何が爆発を食らったかのように鱗が飛散していた。


「よ、弱すぎだろ…」

「レオさんがおかしいんです!!」


 俺が魔物の死体を目の前にそう呟くと、エリナが叫びながらこっちに近づいてきた。


「この魔物はグリーンドラゴンと言って、A階級に属される凶暴な魔物なんです!」


「え?けど、そのグリーンドラゴンとかいう奴が手刀でワンパンされるか?きっと何か別の魔物だよ、こいつは。グリーントカゲとか」

「うっ、確かに手刀でワンパンはおかしいですね…。グリーントカゲが突然変異した姿とか…?」

「まぁいいだろ、倒せたんだしさ。これでとりあえずお金には心配しなさそうだな」


 エリナは納得いかない様子だったけど、かなり大きな体を持ってる魔物だったし、これだけでご飯や宿屋、服代くらいは稼げただろう。


 さて、魔物も狩れたことだしタンサの街に向けて出発だ!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る