第2話 解放

 最近は強力な魔物の出現頻度も大幅に上がってきている。

 最初の頃は、ゴブリンやラピッドなどの弱い魔物ばかりだったが、最近はドラゴンのような魔物や大蛇、巨大なゴブリンなどが現れるようになっていた。


「よし、倒した…。こいつは強かった…」


 荒れる呼吸を整えて、再び歩き始める。


 今日も何も無い暗闇が広がるだけの一本道をただ歩くだけだと思っていた。


「…!?」


 だが、その考えは希望という名の光によって打ち消されたのだ。


「…扉だ」


 目の前には鉄のようなもので出来た十メートルはくだらない巨大で重厚な扉が出現したのだ。

 明らかにこの場所において、異様な雰囲気を漂わせているその扉は、俺の気持ちを昂らせるのには充分過ぎた。


「もしかして、終わりか…?この先は、俺の故郷で、俺の家には母さんが笑顔で出迎えてくれるのか…?」


 俺はその扉の目の前に立ち、グッと力を入れて扉を押していく。

 ギギギと音を立てて空いていく扉の隙間からは、一筋の光が刺して俺の目を直撃する。

 陽光の焼けるような暖かさが、気持ちよく、そして懐かしく感じた俺は、力を振り絞り扉を思いっきりこじ開けた。


「ここは…」


 そこは山の山頂らしく、眼下には壮大な山の景色が広がっており、空は雲ひとつない快晴で太陽がサンサンと輝きを齎していた。


「日差しが痛いな…」


 久しぶりの陽射しに暖まる時間すらくれないのかと、文句を言ってやりたい気持ちになったが、痛みが勝り、木陰に座り込む。


 木を背にして座り込むと、ちょうど俺が出てきたであろう巨大な鉄の扉が視界に入った。

 改めてじっくりと観察すると、やはり扉は何かしらの金属で出来ているようで硬い。

 扉の前には施錠がされていたような形跡があり、その上には何かしらの絵が書かれている。

 だけど、それらは錆びれて何が書いてあるのか鮮明には分からない。


「分からないな…。それより俺の故郷、俺の母さんはどこにいるんだろうか」


 陽光と光に体が慣れてきたので、俺の町を探すために俺は移動を始めた。


 ―――


 俺はただひたすらに走り続けた。あの景色、あの光景、あの家…。今でも鮮明に思い出せるほどに恋焦がれたあの場所は見つからない。


 否、見つけれるはずはなかった。


「ここ…は?」


 見たことある場所だが、家がない。人もいないし、母さんもいなかった。


「…俺は一体、何年の時をあの一本道で過ごしていたのだろうか…」


 十年?数十年?数百年?

 だが、ひとつだけわかることがある。

 人の気配も家があった形跡もまるで無いこの場所は、とてつもない時間が経過している、ということだけだ。


「母さん…」


 このスキルさえなければ…、こんなクソの役にも立たない、俺を苦しめるだけのスキルなんてなければ…。


「クソっ!!」


 絶望と苛立ちを抑えきれずに俺は感情がぐちゃぐちゃになり、地面に拳を叩きつける。

 ドゴンッ、という鈍い音が響き、地面が半径五メートルほど凹んだ。


「なんだ…、この異様な力…?」


「あなた!何者ですか!!」


 すると、俺の背後から少女のような声が聞こえてきた。

 俺が後ろを振り返ると、恐怖のせいか、体が震えている二十歳くらいの女の子がそこにはいた。


 ―――


「アー、言葉分かる?」

「わ、分かりますよ!馬鹿にしてるんですか」


 異様な破壊力によって、逆に冷静さが帰ってきた俺は、この状況を一旦冷静に考える。

 女の子の容姿は綺麗な金髪に青色の瞳、チグハグな鎧を纏っていて、胴の部分は革製の防具、下半身は鉄製の防具を身に付けている。

 鎧の間から見える服装はドレスのようなもので、まさにその格好はチグハグを体現したかのような姿だった。


「君はどうしてここに?」

「こちらのセリ…、しまった…。一旦隠れましょう」


 俺に飛びかかってきたその女の子は近くにあった草むらに俺と一緒に倒れ込んだ。


「ち、近…」

「静かに」


 俺の口元に手を当てると、草むらから外の様子を覗き込んでいる。

 何かあるのかと思い、俺も覗き込もうとしたその時、遠くから近寄ってくる何者かの気配を感じた。


 …さっきから何か変だな、俺?


 変な違和感を感じつつも、女の子同様に草むらを掻き分けて外を覗き見る。

 すると、遠くから馬の走るような声と共に男の怒号が聞こえてきた。


「ここら辺にいるはずだ!絶対に逃がすな!!あの娘は我々の希望なのだから!」


 リーダー格らしき人物のその掛け声により、他のメンバーも声を出してそれに答える。

 奴らの格好は黒い鎧を着ていて、馬も同様に黒色の鎧を着させられている。


 しばらく彼らを見守っていたが、結局俺達の存在に気づけずに、他のところを探しに行ってしまった。


「ふぅ、良かった」

「状況が呑み込めないが…」

「あ、ごめんなさい。私はエリナ、むちゃくちゃ追われてます!」


「見ればわかるよ」


 そのエリナという女の子は追われていると自分で言っておきながら、なんとも明るい性格の女の子であった。

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