スキル【無限地獄】から解放されるされた俺は、自由気ままに遊び尽くす!

エミュエール。

第1話 始まり

 ―プロローグ―


「母さん、明日は遂にスキルが貰える日だね!」


 いつの日かの、俺の記憶だ。目の前には優しい顔をした、俺を女手一つで育ててくれていた母さんがいる。


「そうだねぇ、レオ。私はこんなスキルだったから、少し心配だけど…。レオならいいスキルを貰えるわ」


 母さんは手から一輪の花を咲かせると、それを摘み取って俺に手渡してくれた。

 その花は血のような真っ赤な色で、どこか黒い色を含んだ、小さいながらも美しくその命を輝かしていた。


「さぁ、早く寝なさい。明日は大変なんだから」


「はーい!おやすみなさい…!」


 母さんはいつも優しかった。そして、俺の心の支えだった。

 またいつか会えるよね、母さん。


 俺は酷く冷たい煉瓦の壁を背にして、その日を終えるのだった。


 ―――


「目覚めても、この場所か」


 その呟きは反響して俺の耳に帰ってくる。

 とても静かで、何も無い一本道。ここが今俺がいる場所なのだ。


「さて、今日も進むか。ゴールは未だに見えないが」


 俺は相棒の錆れた剣を片手に、その一本道をただひたすら歩いていく。

 すると、目の前から青い肌をした身長百cm程の小人が近づいてくる。

 その正体はゴブリンという魔物であり、この一本道では良く遭遇する魔物である。

 あちらも俺に気づいたようで、勢いよくジャンプをすると、その右手に持っている棍棒を思いっきり振り下ろす。


「おらよっ」


 俺は完璧にゴブリンの攻撃を躱すと、錆れた剣でゴブリンの首に目掛けて斬りつける。

 その攻撃は斬撃というより打撃に近い一撃だが、どちらにせよ、ゴブリンはこれで即死だ。


「先、進むか」


 俺は歩きながら、なぜこうなったのか、何度も考えていた。そして、今もだ。


 あの日、俺が待ちに待ったスキルを貰える日のことだ。母さんと俺は教会に行き、スキルを貰う手続きをしていた。


 スキルというのは、成人つまり十五歳の時に神様から貰える特別な力だ。それは何が貰えるか分からないが、圧倒的なパワーを手にする者も入れば、花を咲かせるだけのスキルを貰える者もいる。

 それで、その人生が変わるのだ。


 そう、俺と母さんの貧乏な生活も俺のスキルひとつあれば。


 俺は教会にある像の前にて、立ち膝になり両手を合わせて祈る。


「神様、どうか俺に強いスキルをください」


 圧倒的なパワーを手に入れたら、冒険者になるのもいいかもしれない。それで強い魔物を倒して一攫千金を狙い、母さんと裕福に暮らす。

 鉱石を無限に生み出せる力でもいいな。それらを売って、母さんと幸せに暮らす。


 いや、違うな。俺は母さんと一緒に暮らせれば貧乏でもいい。だから、少しでもお金に変わるようなスキルを俺にください。


「スキルを授かりました」


 静かな教会に神父様の声だけが木霊する。その声に俺はやけに緊張していた。


「神父様!息子のスキルはなんだったんでしょうか!」

「はい、では確認致します」


 神父様はいつも真顔だった。常にどんな時でも表情を崩さない、人間味のない顔をしていた。


 だが、そんな神父様の表情は、いっせいに血の気が引いて顔色が悪くなっていた。


「む、息子さんのスキルは…」


 その表情で俺は察していた。きっと使えないスキルだったのだろう。

 だけど、神様から貰ったスキルだ。全く使えないというはずは無い。何かしら使い道があるはずだ。


 そう己を励まして、この先に来るであろう絶望に耐えようと気持ちを固めていた。


「…無限地獄、です」


「えっ」


 その瞬間、俺の足元に地面な感触はなくなり、体が宙に浮く感覚に襲われた。


「レオ!!!」


 体は一瞬、宙に浮いたが重力に従うように、俺の真下にぽっかりと空いた、底が見えない穴に落下していく。


「母さ…」


 母さんの手は俺の手と一瞬触れたが、捕まることは叶わず、俺は落下した。


 そして、俺はこの何も無く先の見えない真っ直ぐな一本道に落下したのだった。


 やはり、「無限地獄」というスキルが今のこの最悪な現状を作り出したに違いない。

 まさに今の状況は無限地獄と言うべき、苦痛だ。


 あの日、ここに落ちてきてからもう何十年経ったのだろうか。

 俺は先の見えない道をただひたすらに歩き続けている。


 いつ終わるか分からない、その「無限地獄」を。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る