第4話 有り余るほどのベーコン

 僕達は暗くなった村の中を家に向かって歩いていく。

 村は、騎士様とその部下の方達のおかげで、以前の姿を取り戻しつつあった。


「ここだよ、僕の家」


 村の広場を抜けたところに僕の家はある。

辺鄙な村には珍しい木造の三階建てで、積み木を積んで建てたような素朴な三角屋根の家だ。


「どうぞ、入って」


「ああ、おじゃまするよ」


 ケインを連れて扉を開けて中に入る。部屋の中は暗く歩きにくいので、僕は扉の近くにかけていたランタンに火を灯した。


「ケインの部屋は三階の屋根裏部屋ね。備蓄してる食料とかがあるけど、他は好きに使っていいよ。」


「ありがとう、有り難く使わせてもらうよ。飯の準備をする時は呼んでくれ、手伝うからさ。」


「わかった!ごゆっくり」


 ケインに予備のランタンを貸して見送ったあと、家に備え付けてある暖炉に火を入れ部屋を温める。


「春先はまだ冷えるなぁ」


 おお、寒い寒いと思いながら、仕事道具のスコップや着ていた外套などを壁にかけていく。


「今日の夕食はどうしようかな」


 腰に手を当て肩を回しながら、家にある食材でまだ備蓄に余裕があるものを思い出す。


「カブとニンジンは冬の間に収穫したのが結構あるはずだから、スープでも作るか」


 僕は夕食の献立が決まったので、さっそく準備に取り掛かった。もうお腹が空いてたまらない。


「あ、ケイン呼ばなきゃ」


 先程のケインとの会話を思い出した僕は、家の壁側にある階段の所までいき、三階にいるケインに声をかける。


「ケイン!ご飯作るから手伝って!」


 三階から小さく「いまいく」と声が聞こえたので、次に僕は台所にいきケインが降りてくる間にスープを作る準備をしていく。


「待たせて悪いな。それで、なにを手伝ったらいい?」


 声を掛けてから少しして、両手に包みを抱えたケインが降りてきた。


「野菜を切ってくから、鍋に水を入れて暖炉の火にかけてくれない?水瓶はそこね」


「わかった。それと、これも使えないか?」


 ケインはそう言うと、両手に抱えていた包みを近くのテーブルに置いた。


「それって、村の外にいた時から持ってたやつだよね。何を包んでるの?」


「まぁ、見てろって」


 怪しむ僕にニカッと笑いかけたあと、ケインは手早く中身を包んでいた布と紐を解いていく。


「これベーコンじゃん?!しかも、塩漬け肉まである!こんなご馳走どこで手に入れたの?」


 先程まで質素な燭台しか置かれていなかったテーブルには、両手で抱えるくらいの肉の塊が鎮座していた。


「俺を追い出したキャラバンの親父いわく、退職金だとよ。一人で食い切るまでには腐りそうだし、一緒に食わないか?」


「いいの?これだけあれば売ったらお金になるんじゃない?」


 目の前の久しぶりに見る肉の塊に、涎が垂れるのを抑えつつケインの顔を伺う。


「いいんだよ。代わりにこれを宿代にしてくれないか?手持ちの硬貨があまり無いんだ」


「もちろんだよ!」


 そう言って、申し訳なさそうに頼むケインに僕は満面の笑みを浮かべながら了承した。賊に家畜を盗まれてからは、家に隠していた保存食用の固い肉しか口にしていなかったので、ケインからの申し出はとても嬉しかったからだ。


「ありがとう、助かるよ。それじゃ俺は鍋に水を沸かしてくるな」


「うん、よろしくね」


 僕は鍋に水を汲みに行ったケインを見送り、次にスープの具材の調理を始める。


「カブとニンジンは皮をちょっと剥いて、ベーコンは贅沢にブロックにして入れよう!」


 鼻歌を歌いながら包丁で野菜とベーコンを切っていく。スープは二人分ほどなので具材は少なく下拵えはすぐに終わった。


「具材を煮込みたいんだけど、そっちは大丈夫そう?」


「ああ、大丈夫だよ」


 ケインの返事に、「わかった」と相槌を返して、木の器に具材を移したものを暖炉のそばまで持っていく。


「うん、いい感じだね」


 暖炉の火にかけた鍋の中を覗くと、お湯がぐつぐつと沸騰しているのが見えた。僕はそこに木の器に移した具材を入れてかき混ぜ、火加減を調節しながら煮込んでいく。そして数分後、ベーコンの塩味がきいたスープが完成した。

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