第3話 見知らぬ旅人

 陽が落ちかけ、暗くなった道を走って帰る。この辺りは魔物が住む森に近いため、夜行性の魔物が森から出てくることがある。その前に、村には辿り着きたかった。


 朝来た道を戻り、川を通り過ぎて村のそばまで帰ってくると、見慣れない人物が途方に暮れたように立っているのが見えた。


「誰だろう……」


 もしかしたら、賊の斥候かもしれないと思い、近くの岩陰に隠れながら様子を伺う。

 その人物は、背の高い男で旅人のような格好をしており背中に野営の道具を背負い、両手で何かが梱包されたものを抱えていた。


「武器は持ってなさそうだけど、こんな時間に村になんの用だろ?」


 これから王都に行く旅人?それとも商人とか?どっちにしろあそこに居られると家に帰れないので僕は声をかけることにした。


「こんばんは、あの旅人の方ですか?この村に何か用でも……?」


 背後からそっと声を掛けてみると、その男は一瞬驚いたようにこちらに振り返り、すぐにホッとしたような顔になった。

 んー、悪い人ではなさそう……?


「ああそうだ。ごめんな少年、俺が村の前に突っ立っていたら困るよな」


「いえ、それは全然大丈夫です。でも、

一人でどうしたんですか?」


 旅人が抱えている両手の包みを見ながらそう尋ねてみると、旅人はここまでの経緯を手短に教えてくれた。


「あ〜、最近ちょっと色々あってな。揉め事の責任を取らされて、働いてたキャラバンから追い出されちまったんだ。」


「それは大変じゃないですか!それで、どうしてこんな辺鄙な村に?夜は魔物が出て危ないですよ」


 さっきまで橙色と群青色が混ざり合っていた空はもう、真っ黒に染まりかけていた。遠くでは狼の鳴き声が微かに聞こえる。


「それなんだがな、ちょっとこの村に泊まらせてくれないか?見張りも立てずに野営するのは危険だし、少年がいるってことは無人の村ではないんだろ?宿屋はないのか?」


 旅人はそう言うと、期待を込めた目で僕を見た。


「……この村は1ヶ月くらい前に、賊に襲われて僕以外は皆殺しになってるんです。旅人に貸す用の宿屋はあるけど、血で汚れているので泊まるのはお勧めできないです。」


 それを聞くと、旅人は気まずそうに目を横に逸らした。


「悪いこと聞いたな。ごめんな嫌なことを思い出させて」


「大丈夫です。それに、森の近くの村ではよくあることだから……」


「そうか、少年は強いな」


 僕がいるこの国には、大きな森林が点在している。そこには魔物が住み、希少な薬草や果実も採れるが、村人やキャラバンを襲う賊などの拠点になっていることもある。

 森で取れる薬草などを商人と取引していた僕の村は、賊に襲われる可能性とは常に隣り合わせだったのだ。


「しっかし、困ったなぁ。泊まれる宿がないならせめて村の中で一晩過ごしたいんだが、入ってもいいか……?」


「見たところ武器も持ってないですし、いいですよ!なんなら、うちに来ますか?」


 数年前に、亡くなった両親と暮らしていた僕の家は、人を一人泊めても狭くならないくらいの大きさがある。

 それに、久しぶりに気を使わなくて良い人と話すのは楽しかった。


「本当か!!ありがとう凄く助かるよ!

俺の名前はケイン、よろしくな!

あと敬語もなくて良いよ、世話になる身だからな」


「分かったよ!こちらこそ、ようこそこの村に!僕の名前はスフェンよろしくね」


 それから、僕らは握手を交わし村の中に入って行った。

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