第2話 死者が眠る森

 圧倒的な絶望感の中、どうしようもなくその場に立ち尽くしていた僕は、そのあと体を打った時の痛みや、原因不明の肩の痛みに正気に戻り体をひきづり呻きながらもなんとかその場から家に戻った。


 家の中はめちゃくちゃに荒らされていたが、金目のもの以外はそのままにされていた。とりあえず、明日から生活に困るということがないことに安堵し、ベッドに倒れこんだ。


 そして、意識を失うその瞬間、僕は生き残ってしまったからには、簡単に死ぬわけにはいかない……と痛みに歯を食いしばりながらそう思った。


 そんな悲惨な出来事の翌日、幸運にもこの村周辺の土地を管理している騎士様がたまたま視察に訪れ、これまた幸運にもお供として連れていた魔術師が治癒魔法が使えたので、僕は騎士様からの御慈悲で治療をしてもらうことができた。


 その後、体調を直した僕は村の事後処理をしている騎士様に頼み込み、村付近にある墓地に運ばれてくる亡骸を埋葬し管理することを条件に、死んだ村のみんなを僕の手で埋葬する許可をもらった。

 魔物が蠢くこの世界で、アンデッドが湧く墓地で一生働いていくのは怖かったけど、みんなを自分で弔いたいという気持ちと、生きていくためだと腹を括った。


「ふぅ……。あと、もうちょっと」


 今までいろんなことがあったなぁと、取り留めもなく思い出しながら歩いていると、目の前に高い石垣で囲まれた墓地が見えてきた。

 近くの村々で亡くなった人や、身元不明の亡骸が眠るこの墓地は、第二墓地と呼ばれており、四方を鬱蒼とした森に囲まれ他の場所にある墓地よりとても広く作られている。

 僕は正門の前まで歩くと、両手を前で組み神様へお祈りをする。


「どうか、不浄なるものからお守り下さい」


 目を瞑り、神様にそう強く願う。前世ではありえないことだけど、この世界の神様はとても人を愛しているため、その生き方や運命によって様々な祝福を授けると言われている。

 それは僕も同じで、神様から少し変わった祝福を授かっていた。いままでどんな祝福なのかは近くに教会がないのでわからなかったけれど、鑑定の魔法を使ってくれた魔術師によると《肩こり》という祝福らしかった。魔術師は、こんな祝福聞いたこともないと首を捻っていたが、僕としては原因不明の肩の痛みがなんとなくこの《肩こり》という祝福のせいなのではないかと思った。


 それはそれとして、齢12にして肩こりに悩まされるとは…しかも祝福これなの…と思わなくもないが文句を言える相手はいないので諦めるしかない。魔術師も、この祝福の力がどんなものかまでは見ることができないと言っていたし。


「よしっ、やるぞ……。」


 組んでいた手を解き、仕事道具である退魔の護符をつけたスコップを握りしめる。辺りを見渡して魔物がいない事を確認するとそのまま僕は墓地の中に足を踏み入れた。


 今日の仕事は墓地に湧く魔物退治と新しく運ばれてくる亡骸の埋葬の準備だ。その亡骸は、3日前に村のみんなの埋葬が終わった後、騎士様から依頼されたものだった。


「それにしても、魔物って僕みたいな子供でも倒せるようなものだっけ?」


 首を傾げながらスコップを横に薙ぎ払い、レイスの体を真っ二つにして倒していく。

 以前、村の大人達から聞いた話では強い祝福を持つ人でも、倒すのは大変ということだったんだけどな…。


 人が神様から祝福を授かっているように、魔物と呼ばれるものも邪神という存在から祝福を授けられている。

 だから、普通は子供一人で退治するのは無理なはずなのに、僕はこの仕事を始めてから墓地に湧く不死系の魔物をどんどん倒している。

 なんでだろう?と首を傾げながら、うんうんとしばらく考えていると背後から近寄ってきたアンデッドに気づき、脳天を叩き潰す。


「ちょっと!不意打ちはずるいって!」


 考えを途切れさせたアンデッドに怒りながらも、僕は物音に近寄ってきたレイスを次々に倒していった。


 それから時間が経ち、太陽がちょうど真上にきたころ、額に流れた汗を拭きながらふぅ…と息をつく。


「よし、次は穴を掘るぞー!」


 いままで黙々とレイスとアンデッドを倒していたが、やっと一区切りがついたので次は亡骸を埋める穴を掘っていく。


 ここの土は柔らかいので比較的掘りやすい。だけど、今回掘るのは大人サイズということもあり、全部掘りきるのに少し時間がかかってしまった。


「よし、今日のところはこれで終わり!」


 スコップを地面に突き立て、ぐぐっと背伸びをする。よく頑張ったなーと思いながら凝った肩をほぐし、家に帰るため僕は正門に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る