第37話 絶対にやってはいけないこと
その悲劇は、マシュー君に将棋を教えてから3週間後くらいに起きた。珍しくマシュー君から将棋の勝負を持ちかけてきたのだ。
メアリーちゃんとマライアさんが観戦する中、勝負は始まった。
「僕、ずーと考えてましてね。レンさんに勝つ方法を」
紙の盤を前に、マシュー君は語り始めた。
「レンさんの棒銀という戦法を防ぐ方法を自分なりに生み出しました」
「見せてもらおうじゃないかマシュー君。君の考えた戦法とやらをククク。果たして、俺に通じるかな」
俺は余裕のよっちゃんで言った。俺の棒銀、防げるものなら防いでみろマシュー。
しかし、俺のその自信は数分後に揺らぐことになる。
「まさか、穴熊だと」
マシューは王を右に寄せ、そのまわりを金や銀で囲い始めたのだ。
俺の棋風は棒銀で初手から攻め、寄せていくもの。ちなみに俺は相手を素早く詰ませるのは苦手であり、棒銀で優勢になった上でゆっくりと詰ませるタイプだ。守りの穴熊は苦手なのである。
「レンさん、ふんどしの桂でしたっけ? これ」
マシューは焦って悪手を連発する俺に追い撃ちをかけるかのように、角と銀に桂をかましてきた。
この野郎やるじゃねえか。燃えてきたぜ、俺の将棋魂。
「ではこの取った角を使って、王手飛車取りですね。飛車もいただきますよレンさん」
マシューの冷静沈着な言動に俺はムカムカした。やけに将棋用語を使いだしてるのにも腹立つ。
マシューの王は安泰だ。逆に俺にはもう攻めの大駒はない。
「レンさん、王手です。さあ、プププ、どう逃げますか。逃げれますかこれ」
マシューのその小バカにした笑いに俺はキレてしまった。
「貴様ーマシュー吐け。棋神使ったんだろ、この世界の棋神に加護でも貰ったんだろ」
「知りませんよ、そんなの。棋神ってなんですか、それより早くして下さい。レンさんの番です」
「やってられるか、こんなの。こんな将棋覚えたての若造に負けるなんて。貴様、ソウタ二冠にでもなるつもりか。ありえない、ありえないんだよー 1級の俺が負けるなんて」
気付けば俺は泣きながら、紙でできた盤をひっくり返していた。
その後、麻縄でふん縛られた俺は、メアリーちゃんとマライアさん観賞のもと憎きマシューから尻叩きの刑を受けた。
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