思い出のバー

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思い出のバー

【ドアベルの音・カランコロンカラン】

「マスター、ご無沙汰してます」このバーが開店30周年を迎える事を知り、マスターに花束を渡しながらお祝いを伝えた。


以前勤めていた職場の近くにあったこのバーには、よく仕事終わりに来ていたのだが、転勤でこの地を離れてからはすっかり足が遠のいていた。


だが息子の20歳の誕生日を迎えた際、息子から私の行きつけのバーに行ってみたいというリクエストもあり、店のお祝いも兼ねてこのバーに息子を連れて来たのだ。


何杯かお酒を飲み進めると、息子が何やらソワソワし始めた。

「どうした?落ち着かないみたいだけど」と声をかけると『紹介したい人がいる』と言い、店の奥に座っていた女の子を紹介された。

その子の顔を見て、私は思わず息を飲んだ。その子は私が以前勤めていた時の部下の明美(あけみ)にそっくりだった。


息子が今付き合っているという子は、明日香(あすか)という名前だそうだ。明美と同じ漢字が使われているのは偶然だろうか。

そんな考えを巡らせていると、息子の彼女が息子の耳元で何かを言っている。すると息子は『ちょっと外 出てくる』と言い、彼女を連れて外へと出て行った。酔いを覚ましに行ったのだろう。


そのタイミングでマスターが[なぜ開店30周年が分かったのか]と言ってきた。私は「マスターからハガキが届いたから」と言って、そのハガキを見せた。するとマスターは[こんなハガキは送っていない]と言うのだ。


【ドアベルの音・カランコロンカラン】息子と彼女が戻って来たのだろうと振り返ってみると、息子と息子の彼女、それに明美が立っていた。明美が微笑みながら軽く会釈をした。


もしかして……明美がこのハガキを送ったのか…

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