ジリ貧勇者奇譚 〜異世界に召喚されたけど、投資と自己破産スキルって、それでチート出来るの?〜
嗚呼、
第1話 異世界へ
俺の名前は…
キキー!
ガシャーンッ!
◆
…
…はっ、生きてる?確か車に跳ねられて、だめだ、何も思い出せない。
ザワザワ…
なんだなんだ、騒がしいぞ。
うお! 滅茶苦茶人に囲まれてる!
ここどこだよ。
冷静になれ。冷静になるんだ。体はどこも怪我してなさそうだ、どこも痛くない。
取り囲む人達を見る限り、外国か?何喋ってるかはわからない、聴き慣れない言語だ。
!!!
ていうか、あれは動物じゃん!動物が人間みたいに立ってる…。いや、人間の体に動物の頭って感じかな。
何が起きても動じない質だけど、これはその範疇を超えているぜ。ここは俺がいた星ではないどこかだ。
ポワン…
なんだこの光は、眩しいっ!
「よくぞお目覚めになられました。私は今回召喚の儀式を司りました、オリヴァインと申します。これより、ご説明をさせて頂きます。」
おお、この人の言葉はわかるぞ。
「貴方様は、先程こちらに召喚されました。この召喚の儀式は、不意に命を落とされてしまう方の意識を察知し、その意識を呼び寄せるといった魔法でございます」
「召喚の際、意識の容れ物となる、新たな肉体が形成されます」
「貴方様のお名前をお聞かせ願えますか?」
と、唐突過ぎて理解が追いつかない。やっぱり俺は死んだのか。いや、死ぬ寸前か。その時にこっちに召喚されて、新たな肉体をもらったと。確かに手とか見ると、明らかに今までの俺とは違う。助けられたって考えていいのか?
ああ、えっと名前だよな。
「お、俺は、み…しい…」
「ミッシー様、改めまして宜しくお願い致します」
いや、違っ…
俺は
…ま、いいか。
「ではこれより場所を移し、諸々のご説明やご登録等、今後のことについてご案内差し上げます。少し歩きますが、ご了承ください。どうぞ私達についてきねください」
俺はゆっくりと立ち上がった。体はどこも痛くないし、動かすにあたり違和感もない。周囲の視線をすごい感じる。スターの気分になった感じだ。
…気まずいから周りには頭を下げておこう。
ペコペコ…
◆
何ていうか、当然なんだけど全てが新鮮だ。お城なんて画像や映像で見ることはあっても、なんとなーく見ていただけで、当然入ったことなど無かった。
しかし、凄い。語彙力がないから上手く表せないんだけど、とにかく凄いぜこれは。真っ白で、そこら中の壁に変な模様があって、剣を持っていたり、杖を掲げていたり、色んな所に石像がある。
後は人だ。俺の前を歩く人達、色んな人種がいる。髪の毛の色がカラフルだったり、身長が3m位ある人、猫や犬のような顔の人。そいつらが普通に歩いて会話をしている。
「お待たせいたしました。こちらでございます」
でかい扉だ。きっと凄い部屋なんだろう。
◆
部屋に入ると、真正面に大きな鏡があった。そこに映る自分の姿を見て、驚いた。
俺は36歳で、特徴のない平々凡々な男だった。それが白髪じゃないか。
近寄って、よく見てみる。白髪じゃない、これは銀髪だ。そして、目鼻立ちの整った20歳位の好青年。いやゆるイケメンじゃねーか!
異世界に転生するアニメや小説を読んだ事があるが、あれは正しかったのだ!
やばい、興奮してきたぜ。
「お姿が異なり驚かれますよね、皆様そのように、最初にその鏡を覗かれます」
何?他にも召喚された人がいるのか。まあ、そりゃみんな鏡を見るよな。そして驚くと。
「ミッシー様のタイミングで構いません。ご準備が出来ましたら、こちらへお掛けください」
いや、鏡はもういいかな。早く色々と聞きたい。
これまた随分と高級感のあるテーブルだ。ソファもふっかふかで心地いい。
「それでは、一から話すとなると長くなりますので、簡単にご説明をさせて頂きます。ご質問にはお答え致しますので、不明点は仰ってください」
「この星は"ストリングス"。そしてここは"オルガルノン王国"。この星には魔王と呼ばれる者が、複数存在します」
今更だけど、やっぱり俺が育った星じゃない。魔王というのは、いわゆるあの魔王だよな。
「魔王の力による圧政を逃れるべく、日々争いが絶えない状況です。魔王の強力な力の前に、人間は徐々に勢力を失い、しばらくの間劣勢が続きました」
すごいな、本当にゲームやアニメの世界じゃないか。
「しかし人間の中に、突如【異世界召喚】のスキルを持つものが数名生まれ、ここ数年隆盛の兆しを見せています」
この流れはやはり…
「ミッシー様、願わくは魔王の脅威より、我らをお救いくださいませ」
来たー! チートスキルで無双か!
誰もが憧れる展開じゃないか!
「この星の人間は、必ず一つのスキルを持って生を受けます」
ほう。
「そのスキルは様々です。戦闘タイプや、生活タイプ。応用の効くタイプや、効かないタイプ。我らはそのスキルを活かして生活をしているのです」
ふむ。
「そして、異世界から来られた皆様は、そのスキルを複数持っているのです。過去、最低でも3つ。最高で10ものスキルを持つ方がいました」
なるほどな、これがチートの第一歩って事か。
「お、俺のスキルは何なんですか?」
「はい、その鏡が教えてくれます。鏡の前に立ち、心の中でスキルについて聞いてみてください」
ゴクリ…
ワクワクするな、どんなチートスキルなんだ?
「(鏡よ鏡、鏡さん。俺のスキルはなんですか?)」
おお、鏡に映し出された。読める、読めるぞ!
なになに…
【投資】【電脳取引】【自己破産】。
おいおい、なんだこれは。全然強そうじゃないじゃん!なに?自己破産って!
◆
【投資】
自らの生命力ポイントを、他人に投資、回収することが出来る。
尚、このスキルを所持している事を知られた場合、知る者への投資は出来ない。
※不正な投資、回収を行った場合は、その多寡により、罰及び取引不可期間が設けられる。
【電脳取引】
いつでも頭の中で取引することが出来る。
※投資の付随スキル
【自己破産】
生命力ポイントが0になった際、自動的に100ポイント回復する。
※投資の付随スキル
◆
何だこれは…
生命力を投資する? 株みたいな事か?
自分の命を削ってギャンブルしろってことかよ!まさに命がけじゃん。
株なんて会社のストックオプションでやったくらいで、全然わかんない!
しかも、"知る者へ投資が出来ない"って事は、誰にも言っちゃいけないって事だよな。
不正な投資ってのは、インサイダーってやつだな。てか説明これだけかよ。
後の2つは【投資】スキルあってのもので、単体ではどうやっても応用出来ない。
これが世に言う"ハズレスキル"ってやつなのかな…
◆
「ミッシー様、いかがでしょうか。スキルは表示されましたか?」
むぅ、どうすべきか。言わないことは確定だ。真実を話すか、嘘をついて誤魔化すか。
迫害とか追放されんのかな…
でも嘘つくのは嫌だしな…
正直に話すか…
ん?頭の上に数字が見えるぞ?これがこの人の株価ってことなのかな。いや、生命力か?
いずれにせよ、これに投資をして、この数字が上がった時に回収すれば良いわけだな。
回収してどうすんのって感じだけど、説明文を見る限り、生命力が増す、ってことは長生きする?それとも死ににくいとかか?
「見えました。ただ…」
「ただ?」
「教えてはいけないスキルと書いてあるので、教えられません」
ドキドキ…ビクビク…
「過去にもそういった方はいらっしゃいました。ご心配には及びません」
ほっ…
良かった。前例があったのか。
「ただ、一つだけ教えて頂けますか?」
「そのスキルは戦闘において役に立ちますか?魔王から我らをお救いくださいますか?」
うっ、来た…
この深堀はきついな。絶対役に立たなそうだし。
「すみません、戦闘に役に立てるとは思いません」
「そうでしたか。誠に残念です。大変言いにくい事ではあるのですが、戦闘でお役に立てないスキルをひかれた場合、王国からの補助は特にありません。繋ぎ止めた命、どうぞ大切になさってください」
ガチャ…
えっ、マジか…
出ていけって事か…
淡々とお払い箱宣言かよ…
◆
結局俺は、言われるがまま部屋から出て、城下町まで戻ってきた。戦闘で役に立ちそうもない事は、事実だったから。
本来死ぬはずだったこの命、切り替えてイケメン生活をエンジョイするか!
とは言ったものの、これからどうしよう。一文無しだし、この星のこと何もわからないし、腹減ったし…
ザワザワ…
何やら俺の姿を見て周りがざわついているな。
ピューン…
コンッ…
痛っ! なんだ?缶を投げつけて来やがった。
「役立たずの転生者め!みんなの手を煩わせやがって!」
「そうだそうだ!この国から出ていけ!」
マジかよ、そりゃないって。俺だって好んでこのスキルになったわけじゃないんだ!
◆
スルスル…
「こっちへ」
!!!
なっ、ネズミが喋った?
「早く」
なんだってんだ、ついて行けばいいのか?
ハァハァ…
「こっち!この家に入って!」
ガチャ…
「し、失礼しまーす」
「やあ、ようこそ我がアジトへ」
ジリ貧勇者奇譚 〜異世界に召喚されたけど、投資と自己破産スキルって、それでチート出来るの?〜 嗚呼、 @rejuvenescence
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