ジリ貧勇者奇譚 〜異世界に召喚されたけど、投資と自己破産スキルって、それでチート出来るの?〜

嗚呼、

第1話 異世界へ

 俺の名前は…


 キキー!


 ガシャーンッ!





 …


 …はっ、生きてる?確か車に跳ねられて、だめだ、何も思い出せない。


 ザワザワ…


 なんだなんだ、騒がしいぞ。

 うお! 滅茶苦茶人に囲まれてる!

 ここどこだよ。


 冷静になれ。冷静になるんだ。体はどこも怪我してなさそうだ、どこも痛くない。

 取り囲む人達を見る限り、外国か?何喋ってるかはわからない、聴き慣れない言語だ。


 !!!


 ていうか、あれは動物じゃん!動物が人間みたいに立ってる…。いや、人間の体に動物の頭って感じかな。


 何が起きても動じない質だけど、これはその範疇を超えているぜ。ここは俺がいた星ではないどこかだ。 


 ポワン…


 なんだこの光は、眩しいっ!


「よくぞお目覚めになられました。私は今回召喚の儀式を司りました、オリヴァインと申します。これより、ご説明をさせて頂きます。」


 おお、この人の言葉はわかるぞ。


「貴方様は、先程こちらに召喚されました。この召喚の儀式は、不意に命を落とされてしまう方の意識を察知し、その意識を呼び寄せるといった魔法でございます」


「召喚の際、意識の容れ物となる、新たな肉体が形成されます」


「貴方様のお名前をお聞かせ願えますか?」


 と、唐突過ぎて理解が追いつかない。やっぱり俺は死んだのか。いや、死ぬ寸前か。その時にこっちに召喚されて、新たな肉体をもらったと。確かに手とか見ると、明らかに今までの俺とは違う。助けられたって考えていいのか?


 ああ、えっと名前だよな。


「お、俺は、み…しい…」


「ミッシー様、改めまして宜しくお願い致します」


 いや、違っ…

 俺は三椎みしい さとしって言うんだけど…


 …ま、いいか。


「ではこれより場所を移し、諸々のご説明やご登録等、今後のことについてご案内差し上げます。少し歩きますが、ご了承ください。どうぞ私達についてきねください」


 俺はゆっくりと立ち上がった。体はどこも痛くないし、動かすにあたり違和感もない。周囲の視線をすごい感じる。スターの気分になった感じだ。


 …気まずいから周りには頭を下げておこう。


 ペコペコ…





 何ていうか、当然なんだけど全てが新鮮だ。お城なんて画像や映像で見ることはあっても、なんとなーく見ていただけで、当然入ったことなど無かった。


 しかし、凄い。語彙力がないから上手く表せないんだけど、とにかく凄いぜこれは。真っ白で、そこら中の壁に変な模様があって、剣を持っていたり、杖を掲げていたり、色んな所に石像がある。


 後は人だ。俺の前を歩く人達、色んな人種がいる。髪の毛の色がカラフルだったり、身長が3m位ある人、猫や犬のような顔の人。そいつらが普通に歩いて会話をしている。


「お待たせいたしました。こちらでございます」


 でかい扉だ。きっと凄い部屋なんだろう。





 部屋に入ると、真正面に大きな鏡があった。そこに映る自分の姿を見て、驚いた。

 俺は36歳で、特徴のない平々凡々な男だった。それが白髪じゃないか。


 近寄って、よく見てみる。白髪じゃない、これは銀髪だ。そして、目鼻立ちの整った20歳位の好青年。いやゆるイケメンじゃねーか!


 異世界に転生するアニメや小説を読んだ事があるが、あれは正しかったのだ!


 やばい、興奮してきたぜ。


「お姿が異なり驚かれますよね、皆様そのように、最初にその鏡を覗かれます」


 何?他にも召喚された人がいるのか。まあ、そりゃみんな鏡を見るよな。そして驚くと。


「ミッシー様のタイミングで構いません。ご準備が出来ましたら、こちらへお掛けください」


 いや、鏡はもういいかな。早く色々と聞きたい。


 これまた随分と高級感のあるテーブルだ。ソファもふっかふかで心地いい。


「それでは、一から話すとなると長くなりますので、簡単にご説明をさせて頂きます。ご質問にはお答え致しますので、不明点は仰ってください」


「この星は"ストリングス"。そしてここは"オルガルノン王国"。この星には魔王と呼ばれる者が、複数存在します」


 今更だけど、やっぱり俺が育った星じゃない。魔王というのは、いわゆるあの魔王だよな。


「魔王の力による圧政を逃れるべく、日々争いが絶えない状況です。魔王の強力な力の前に、人間は徐々に勢力を失い、しばらくの間劣勢が続きました」


 すごいな、本当にゲームやアニメの世界じゃないか。


「しかし人間の中に、突如【異世界召喚】のスキルを持つものが数名生まれ、ここ数年隆盛の兆しを見せています」


 この流れはやはり…


「ミッシー様、願わくは魔王の脅威より、我らをお救いくださいませ」


 来たー! チートスキルで無双か!

 誰もが憧れる展開じゃないか!


「この星の人間は、必ず一つのスキルを持って生を受けます」


 ほう。


「そのスキルは様々です。戦闘タイプや、生活タイプ。応用の効くタイプや、効かないタイプ。我らはそのスキルを活かして生活をしているのです」


 ふむ。


「そして、異世界から来られた皆様は、そのスキルを複数持っているのです。過去、最低でも3つ。最高で10ものスキルを持つ方がいました」


 なるほどな、これがチートの第一歩って事か。


「お、俺のスキルは何なんですか?」


「はい、その鏡が教えてくれます。鏡の前に立ち、心の中でスキルについて聞いてみてください」


 ゴクリ…


 ワクワクするな、どんなチートスキルなんだ?


「(鏡よ鏡、鏡さん。俺のスキルはなんですか?)」


 おお、鏡に映し出された。読める、読めるぞ!


 なになに…


【投資】【電脳取引】【自己破産】。


 おいおい、なんだこれは。全然強そうじゃないじゃん!なに?自己破産って!





【投資】

 自らの生命力ポイントを、他人に投資、回収することが出来る。

 尚、このスキルを所持している事を知られた場合、知る者への投資は出来ない。

 ※不正な投資、回収を行った場合は、その多寡により、罰及び取引不可期間が設けられる。


【電脳取引】

 いつでも頭の中で取引することが出来る。

 ※投資の付随スキル


【自己破産】

 生命力ポイントが0になった際、自動的に100ポイント回復する。

 ※投資の付随スキル





 何だこれは…


 生命力を投資する? 株みたいな事か?

 自分の命を削ってギャンブルしろってことかよ!まさに命がけじゃん。


 株なんて会社のストックオプションでやったくらいで、全然わかんない!


 しかも、"知る者へ投資が出来ない"って事は、誰にも言っちゃいけないって事だよな。 


 不正な投資ってのは、インサイダーってやつだな。てか説明これだけかよ。


 後の2つは【投資】スキルあってのもので、単体ではどうやっても応用出来ない。


 これが世に言う"ハズレスキル"ってやつなのかな…





「ミッシー様、いかがでしょうか。スキルは表示されましたか?」


 むぅ、どうすべきか。言わないことは確定だ。真実を話すか、嘘をついて誤魔化すか。


 迫害とか追放されんのかな…

 でも嘘つくのは嫌だしな…


 正直に話すか…


 ん?頭の上に数字が見えるぞ?これがこの人の株価ってことなのかな。いや、生命力か?


 いずれにせよ、これに投資をして、この数字が上がった時に回収すれば良いわけだな。


 回収してどうすんのって感じだけど、説明文を見る限り、生命力が増す、ってことは長生きする?それとも死ににくいとかか?


「見えました。ただ…」


「ただ?」


「教えてはいけないスキルと書いてあるので、教えられません」


 ドキドキ…ビクビク…


「過去にもそういった方はいらっしゃいました。ご心配には及びません」


 ほっ…


 良かった。前例があったのか。


「ただ、一つだけ教えて頂けますか?」


「そのスキルは戦闘において役に立ちますか?魔王から我らをお救いくださいますか?」


 うっ、来た…

 この深堀はきついな。絶対役に立たなそうだし。


「すみません、戦闘に役に立てるとは思いません」


「そうでしたか。誠に残念です。大変言いにくい事ではあるのですが、戦闘でお役に立てないスキルをひかれた場合、王国からの補助は特にありません。繋ぎ止めた命、どうぞ大切になさってください」


 ガチャ…


 えっ、マジか…

 出ていけって事か…

 淡々とお払い箱宣言かよ…





 結局俺は、言われるがまま部屋から出て、城下町まで戻ってきた。戦闘で役に立ちそうもない事は、事実だったから。


 本来死ぬはずだったこの命、切り替えてイケメン生活をエンジョイするか!


 とは言ったものの、これからどうしよう。一文無しだし、この星のこと何もわからないし、腹減ったし…


 ザワザワ…


 何やら俺の姿を見て周りがざわついているな。


 ピューン…


 コンッ…


 痛っ! なんだ?缶を投げつけて来やがった。


「役立たずの転生者め!みんなの手を煩わせやがって!」


「そうだそうだ!この国から出ていけ!」


 マジかよ、そりゃないって。俺だって好んでこのスキルになったわけじゃないんだ!





 スルスル…


「こっちへ」


 !!!


 なっ、ネズミが喋った?


「早く」


 なんだってんだ、ついて行けばいいのか?


 ハァハァ…


「こっち!この家に入って!」


 ガチャ…


「し、失礼しまーす」


「やあ、ようこそ我がアジトへ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジリ貧勇者奇譚 〜異世界に召喚されたけど、投資と自己破産スキルって、それでチート出来るの?〜 嗚呼、 @rejuvenescence

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ