漂う心~ボホール島編
—2日目
いつものように少し早めに起きて浜辺を散歩する。
現地スタッフがいたのでビサヤ語挨拶に挑戦。
日本から出たことがない自分としては勇気がいる挑戦だった。
「マーヨン ブンタ.. 」
「 ..マーヨンブンタ! オハヨウゴザイマス! 」
「おはようございます! 」
(通じた! 私、外国語で会話したよ。へへ )
少しの誇らしさとホッとした気分の自分がいる。
海辺に出ると朝の潮の香りがした。
海を眺めながら昨夜の明里さんとの会話を思いだす。
*****
「もうすぐ1年だね? 」
「 ..ええ。そうですね」
「連絡は取っているんでしょ? 」
「月に1回から2回くらい手紙を書き合ってます。古風だなんて言われるけど、私、手紙の距離感の方が落ち着くんです。求めすぎないっていうか.. 」
「そう.. 彼の研修期間も終わるよね。その後はどうするつもりなの? 何か考えはあるの? 」
「今はないです。その後の事に触れていいのかわからなくて。ただこちらに一度帰るとは書いてありました」
「そうなんだ。じゃ、その時だね」
「はい」
それ以上の会話はなかった。
明里さんはいつも気にかけてくれるけど、踏み込むことがないので体裁を整えて話す必要がなかった。
私にはそれが楽だった。
****
朝の散歩が終わり部屋に帰ると、シャワーを浴び終わった明里さんが裸の状態で日焼けのチェックをしていた。
「桃ちゃん、私の首後ろやっぱり少し赤くなってるでしょ? 」
鏡越しに私に尋ねる明里さんは色っぽい。
「は、はい。ちょっぴり」
明里さんのスレンダーでありながらも色気のあるうなじから背中のライン、そして細身でありながらふくよかな胸へ通じる肌の道筋.. 女でありながらも指を滑らせてみたいと思ってしまう。
「何やってるんですか、2人で? ま、まさか萌恵が寝てる間にイチャイチャしてたんじゃ? ひどい。仲間外れにして~。萌恵も甘えたい」と背中に抱き着く萌恵ちゃんに明里さんの頬が怪しく赤みを帯びる。
「じゃあ、朝食の間までベッドに入りましょうか」
ふりかえって耳元に唇を触れさせながら怪しくささやく明里さん。
「あ、あのもう朝食の時間ですよ。そろそろ行きませんか!? 」
いやいや、とても冗談とは思えないテンションだ、あれは。
萌恵ちゃんは「ははは」と照れ笑いをしていたけど放っておいたらそのままベッドに連れ込まれていたに違いない、100%!!
明里さんの前で気を緩められないな.. 私も持ち込まれてしまう可能性もある..
も、もしかしたら昨夜、危なかった??
あの時、もし私が明里さんに泣きついていたら.. もしかして!?
ダイニングでの朝食は意外にも日本人に合わせたメニューで目玉焼き、豚肉のプレートとフルーツが入ったサラダが出された。
やっぱりフィリピンの味付けはけっこう口に合う。
「ねぇ、萌恵ちゃん、竹内君がいないけどまだ寝てるのかな? 」
「何してるんだろう? ちょっと私呼んできますね」
竹内君を呼びに行ったまま帰って来ない萌恵ちゃんの様子を見に行くと、ドアが勢いよく開き萌恵ちゃんが部屋から飛び出してきた。
「どうしたの? 」
「大変なんです! 竹内君、お腹が痛いって! そしたらいきなり吐いちゃって! 私、お薬もらってきます」
どうやら食あたりにあったらしい。
微熱も少しあり、竹内君は安静にすることになってしまった。
「すいません、間が悪い男で。はは.. もう自虐しかないですよ」
萌恵ちゃんは持ってきた薬を竹内君に渡すと甘い声で言う。
「ねぇ、大丈夫? 萌恵いっしょにいてあげるよ。ねぇ」
いつものきつい態度とは違う萌恵ちゃんに驚いた。
「萌恵ちゃん、楽しんできて。これで萌恵ちゃんが楽しめないのは俺、余計辛いから」
「 ..うん。わかった.. 早く元気になってね」
この2人、うまくいきそうな感じがする.. (ああ、峰岸さんのアホ)
峰岸さんが帰ってきたらいったいどうなってしまうのか?
友達として泥沼になってほしくはない。
竹内君は萌恵ちゃんをどう思っているのだろうか?
まさか他に好きな人などいないよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます