これぞ南国リゾート船の上~ボホール島編

ボホール島に着くと船着き場からリゾートホテル送迎用の軽トラを改造したバス(ジプニー)に乗る。

かなりワイルドな乗り物だ。

山梨でおじちゃんの運転する軽トラの荷台に乗せてもらった頃を思い出してしまう。


ガタンッ!


時折、激しく跳ねてお尻が痛いのが難点。


港のある町から橋を渡りパングラオ島に入ると、のどかというよりも原生林に囲まれた野性的東南アジア情緒いっぱいの道を通り、リゾート施設に入る。


施設内は建物や木々が綺麗に整備され、ここに来てようやく南国リゾートを楽しめそうな雰囲気となった。


受付前にいるショップスタッフにCカードを提示する。


「あら? お客様はインストラクターなんですね」

「あ、はい。新米なので、よろしくお願いします」


「ははは。そんなにかしこまらなくていいですよ。他のお客様同様に気楽に過ごしてください。ここでは、いちダイバーとして楽しんでくださいね」


ポーターに案内された部屋は、漆黒の木でつくられたコテージだ。

とてもいい雰囲気で南国気分いっぱいだ。


部屋に荷物を運び終えたポーターがその場で立ち止まる。


「(ああ、チップか.. )あ、明里さん! 」


何せ旅慣れていないもので明里さんだよりなのだ。


明里さんは30ペソをポーターに渡していた。


去り際に「Are you sisters? 」と聞かれた。

英語がダメな私でもすぐにわかった。


私と明里さんが姉妹に見える?

いやだ、私って明里さんと姉妹に見えるほど美人ってこと?


「明里さん、もうちょっとチップあげましょうよ」

「桃ちゃん、チップはこんなもんでいいのよ。ちょっとしたあいさつ程度のものなんだから。リップサービスも含めて」


(そうなんだ.. そして、今、『リップサービスも含めて』って言いましたね )



****


私たちはすぐに着替え、予定していたダイビングを開始する。


ガイドはマヤ・マーレイさん。


マヤさんはオーストラリア人と日本人のハーフで、ここに勤めるまでオーストラリアで暮らしていたそうだ。

日本語は母親から覚えたそうだが、やや英語のなまりがある。


「ハーイ! 今日はミナサンのガイドをする『マヤ』デース。ヨロシクおねがいしマース」


まるでアニメにでてくる外国人のようなカタコト日本語だ。


「では、今日はこれから『ドゥオル』『ライトハウス』モグリますが、その前に、え~っと、清水萌恵さん、星宮明里さん、柿沢桃さん、竹内純平さんデスネ。アトこちらが香川武郎さんデス。今日はこのメンバーでモグリますので、よろしくお願いシマス」


私たちは乗船準備中、こそこそ話をした。


「桃さん、あれ、どういうつもりですかね? 何なんですか? 」

「わからないわ。私も戸惑っているもん。誰なの、もうひとりは? 」


香川さんは60代の男性だ。それはいいのだが椅子にどっかりと座る香川さんは、腕に収めるように小柄なフィリピン人の女性を抱いている。

女性というより女の子で歳はどうみても18歳くらい。


私たちを見かねた明里さんが教えてくれた。


「お世話係! あの子はお世話係なの。日本円にして5千円くらいで1日いろいろなお世話をしてくれる女性よ」


「あ、明里さん、それって.. もしかして? 」


明里さんは〝コクリ″とうなずいた。


「それにしてもあのキャプテン帽は何なんすかね? 」


香川さんは船のキャプテン帽を被りながら葉巻を吸っているのだ。


フィリピンは往々にしてそういう商売があるのは私も知っている。

だけどまさかダイビングでこんな状況になるなんて思いもよらなかった。


わかった、あの女の子はいないものと考えよう.. しかしキャプテン帽の香川さんのキャラ濃すぎるでしょ!!


『 Mr.香川 』!!

心の中でそう名付けるとプッと吹き出してしまった。



船に乗る時、私たちは身の回りの物を持つだけで良かった。


重い器材やタンクは現地男性が運び込んでくれる。

何と器材セッティングまでもやってくれるのだ。


本当は、自分の器材を他人に触られるのは、ちょっと嫌だった。

だって器材は自分の命綱だから。


でも、明里さんの言葉を思い出す。

これはこの人たちの仕事なのだ。

私たちがサービスの対価を払うことが、この人たちの収入につながるのだ。


器材は後で自分でチェックしておけばいい。


ボートはバンカーボートと呼ばれる船。

両側にアウトリガーと呼ばれるウキがついているため、ゆったりと動き、揺れが少ないという。



『俺が若い時は、千葉の銚子から沖合にでてな—』


香川さんは、ボートの真ん中に座ると、若い頃の自慢話を流暢に語り始める。


みんな、しっかり聞き流している(。-`ω-)

もちろん私もだ。


ただ、ずっと傍らにいる女の子の肩や背中を撫でているのが気になって仕方がない。


「桃さん、俺、居たたまれません。時々、あの子と目が合うんです。そしてジーっと俺を見るんです。たぶん、あの子にとって俺、あのじじいと同類なんですよ.. 」


竹内君が小さな声で嘆いている。


「なぁ、そこの姐さん、あんたサングラスにフード被ってそんなに顔見せたくないのか? なかなかのベッピンなのにもったいないねぇ。ちょっと見せてみなよ」


日焼け厳禁な為、厳重に素肌を隠す明里さんに香川さんが絡み始めた。

その瞬間に萌恵ちゃんが臨戦態勢に入るのを感じた。


「お客さん、コマリマス。ここ、ミンナ、プライベート。無理強いはダメデス」


マヤさんがそう注意すると『チッ』と香川さんの舌打ちが聞こえた。


萌恵ちゃんは刺すような冷たい目で竹内君を見ている。

はっきり心の声が聞こえる.. 『ボディガード、しっかり仕事しろ!』

(萌恵ちゃん、もっとやさしくしよ.. )




船は『ドゥオル』に着く。


私たちはスタッフに器材を装着してもらいダイビングを開始する。


見渡す限りのサンゴの出迎えだ。

久しぶりのサンゴ礁。

まるでキャベツ畑のようにサンゴが立ち並んでいる。


透明度は伊豆の海とあまり変わらない印象。

20mは見えているけど遠くの方は白っぽく見える。


水温は28℃

もう、快適すぎて気持ちがいい。


紫色のパープルビューティ―が目の前いっぱいに泳いでいる。

とっても可愛くて綺麗。


沖縄で見たあの懐かしきミスジリュウキュウスズメダイもいっぱいだ。


枝サンゴの間にはクロオビアトヒキテンジクダイなども隠れている。


かわいい犬の顔をしたコクテンフグもここにいた。

口笛を吹いたら寄って来そうだ。


浅めのリーフにキラキラと陽射しを感じる。


そんなゆったりとしたダイビングを楽しんだ後、ボート上では南国のフルーツが用意されていた。


定番のマンゴーの他パイナップル、珍しいジャックフルーツも初めて食べた。


萌恵ちゃんがすごくうれしそうに食べている。

明里さんがほほ笑む。

竹内君は海を眺めてかっこつけてる?


しかし、この美しい景色は本当に素晴らしい。


何という解放感だろうか。


青い海に白い砂浜がある島。


ゆったりとしたバンカーボートは最高だった。


これぞ思い描いていた南国リゾートのボートダイビングだ。


神子元ボートの軍隊式ダイビングとの違いが、やたらおかしく思えてしまい、ひとり思い出し笑いをしてしまった。

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