理不尽ですよね。
今日はこれから西伊豆の浮島に向けて車を走らせる。
私はゲスト2名のファンダイビングを担当。
アシスタントにダイブマスター候補の竹内君も同行してくれる。
陽菜乃さんと片岡オーナーは昨日、すでに現地入りしている。
4人のお客様のアドバンス講習を担当しているのだ。
しかし今日は何か特別な日なのか東京は大渋滞。
高速道路も大和トンネルを過ぎるまでノロノロ運転だ。
結局、朝6:30に出発して浮島に着いたのは11:30を過ぎた頃だった。
到着すると片岡さんからの指令『30分後、船に乗るから大急ぎで準備しろ』
私と竹内君で器材運び、レンタル品、ウエイトの準備を急いで行う。
ウエイトは竹内君、レンタルの重器材セットは私がしてしまった。
ポイントのブリーフィングを行い、船に乗り込むと、8分程出発を送らせることとなった。
すでに片岡さんは2人のゲストと船に乗り込んでいる。
「どうもすいません」
「大丈夫か? じゃ、行くぞ」
片岡さんグループはディープダイビングの講習。
潜降ブイ前に着くと私たち日帰りグループからエントリーした。
浮島のボートダイビング範囲はとても広い。
私はまだほんの一部しか地形がわかっていないので、わかる範囲で根回りを中心にウミウシやマクロ生物などを探した。
潜り慣れていないポイントで難しいのが潮の流れだ。
どの辺が潮の流れが強いのか、またそれをやり過ごすためにどの辺りに身を置くべきなのかなどを空気の残圧と照らし合わせながら判断しなければならないからだ。
ここは今、ゆるい流れだ。
岩の向こう側は魚の様子から、少し流れがきつそうだ。
みんなの残圧を確かめると、慎重に岩の曲がり角を曲がってみた。
思ったよりも緩い流れで胸をなでおろすと、その岩に沿って巨大なハマフエフキが近づいてきた。
岩のクレバスに隠れるルリハタや甲殻類
根の上に群がるキビナゴやイサキの群れなどを楽しんだ。
正味35分くらいのダイビングに3分の安全停止。
ゆっくり浮上して水面から顔を出すと、既に片岡さんグループは乗船していた。
ラダーを登りきると片岡さんがゲストを目の前に大きな声を上げた。
「いつまで潜ってるんだ! こっちはずっと待っていたんだぞ。15分も待たせやがって! 園部さんが吐いてしまったじゃないか!! 」
突然のお叱りに私は驚いた!
だが状況はすぐに理解できた。
講習グループは深い場所の講習で私たちよりも早くエキジットしたのだ。
私は取りあえず『すいません』と謝った。
船が浜に着いた後も、片岡さんはゲストの面前で私を叱りつけた。
「だいたい潜る前の打ち合わせが大切だろうが! それぞれが勝手に潜っていたらどうにもならないだろ! そういうところがダメなんだよ!! 」
その雰囲気にゲストも静まり返ってしまった。
逆に『大丈夫ですか? 』と言われてしまう始末。
私は片岡さんがいないところで陽菜乃さんに話を聞いてもらった。
もちろんゲストもいない場所でだ。
何といっても気が収まらなかった。
「何で私だけが叱られないといけないの? あの理由だとすれば打ち合わせしなかったのは片岡さんだってそうじゃない!! 私の打ち合わせの相手は片岡さんなんだから!! 」
プンスカ! プンスカ!!
まったくもって理不尽なお叱りに憤慨する私!
話を静かに聞きながら陽菜乃さんは私をなだめた。
だけど事はまだそれだけでは収まらなかった。
それは全てのダイビングが終わり車に荷物を乗せているときの事だった。
「君が口出すことじゃない! 関係ないだろ! 君は自分の事をやっていればいいんだ! 」
片岡さんの怒鳴り声が聞こえた
どうやら、私を叱りつけたことに対して竹内君が意見したそうだ。
「大丈夫かな? 竹内君。私のことが原因でやめられたくないな」
と私がもらすと陽菜乃さんは言った。
「大丈夫だよ。朝、目覚めるとすぐに忘れちゃうから、片岡さん。いつものことだよ」
数日後、竹内君からメールが届いた。
——『浮島の事ですがすいませんでした。俺のせいで何か柿沢さんに迷惑かけてないですか? それが心配です』
——『大丈夫だよ。片岡さん、もう忘れてるみたいだから。逆にごめんね。心配してくれてありがとう』
——『これから気を付けます。これからもよろしくお願いします』
取りあえず辞めることはないようだ。
よかった。
この顛末を詩織さんに話すと
『またやったの? 少しは変わったのかなって思ってたのに.. 』と呆れていた。
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