嵐の中、蘭が咲く!

「どうしたの? 蘭子、休みなの? 」

「いや、笹塚のスタジオでレコーディングして、その帰りだよ。ここまで来たらやっぱり寄るじゃん」


「さすが蘭子、頼りになる! それに引きかえ七海め! 」

「なになに? どしたの? まっ、いいや。それよりさ、シャワー貸してくれる? 」


「いいけど、人が来るかもよ? 」

「いーよ、別に」


蘭子は相変わらずズボラな性格をしている。

過去に男の人がいても関係なく着替えたりした時には、さすがに止めに入ったくらいだ。


その性格にますます磨きがかかっている。

業界でやっていくにはそれくらいの度胸が必要って事なのだろうか?



—コンコン


あっ! 今度こそ来た。


「はい。今、開けます」

「こんばんは。隣人さん」


最初に挨拶してきたのは琴緒さんだった。


「こらっ! 琴! 失礼だろう。すいません、桃さん。何かこいつら止めようにも..」


「いや、大丈夫です、哲夫さん。どうぞ、中へ」


私が言い終わる前に琴緒さんは靴を脱ぎ始めていた。


「おじゃましまーす」


令次さんの姿が見えない。


「あの、令次さんは? 」

「令次はピザ買ってからこっちくるって、今、ドミノピザ行ってます」


「あんなのUber頼めばいいのに」


「え、でも、ほら! 琴緒さん、ピザってお持ち帰りだとお得だよ!? 」


「へ~、そういう所帯じみた考え方するんですね」

「おまえなぁ.. 」


哲夫さんは困り顔。


「あの、私、少しだけ料理作りましたのでどうぞ」


「本当ですか!? 桃さんの料理か。うれしいな」

「へ~、料理するんだ。すごいですね」


七海を待つ間、少ないレパートリーの中で一番得意な料理だけ作ってみたのだ。


「揚げ野菜のお浸しと鯛のカルパッチョ作りました」

「うわ、すごくおいしそうだな」


「なに? てっちゃんお世辞言えるようになったんだ」


琴緒さんのひと言ひと言がまるで撒菱まきびしのようだ。


「(#^ω^)あの、口に合うかわからないけど琴緒さんもどうぞ」


「うほ、これ意外にうまいですね。見かけはよくないけど」


棘!....


「桃さん、本当においしいです」


よかった♪


哲夫さんは琴緒さんの小さい頃のことや自分が『てっちゃん』呼びされている事について話してくれた。


「恥ずかしながら僕はケンカが全然弱くて、いつも2人に、特に令次に助けてもらっていて、いつのまにか『てっちゃん』って感じにね。まぁ、ひとつの愛情の裏返しなのだと思ってます」


「今も弱いけどね。てっちゃんはやさしすぎるんだか、気が弱いんだか.. だから弁護士になっても勝てるか心配」


「大丈夫よ。哲夫さん、法律に詳しいよ」


「あたりまえじゃない! 弁護士なんだから。『勝てるか』って話なのに。隣人さんって変な事言うね」

「琴、おまえ、どうしたんだ? さっきから? 」


「てっちゃんこそさっきからデレデレしちゃってさ。なんなの? 」


余計な事を言ったかな?

いや、これはヤキモチをやいてるんだ。


「すいません、桃さん」

「哲夫さん、全然、大丈夫です」


「なに? それ。私が何か悪い事したみたいじゃない! 」


「おいおい、琴緒。いいかげん..」


——ドン、ドン、ドン、ドン ガシャン!


「ねぇ、桃、シャツ貸してよ。私の汗臭くてさ」

「わっ、バカ! 蘭、お客さん来てるのに! あっち行って、ほら! 」


「ああ、すいません、ぼ、僕、見てませんから」


シャツを着ていない蘭子を見て大慌てするのは哲夫さんだった。


「てっちゃん、ラッキーだね。 てかやっぱり誰か来てたんだ」


・・・・・・

・・


「さすが、桃のシャツだ。私のダイナマイトボディがしっかりおさまった」

「まったく..」


「それよか、さっきの哲夫さんじゃない。じゃ、私のおっぱい、しっかり見せちゃったね」

「な、な何いってるのよ! そ、それよか、妹さんが来てるの。これがさ.... 」


蘭子は事情を聞くと『やれやれ』という調子だった。


「ま、私もビールで一杯やりたいからそっちに混ぜてよ」



蘭子は私のシャツを着て、テーブルについた。


「どうも、哲夫さん、久しぶり。ね、見た? 見たでしょ、さっき」

「み、見てませんよ。目つぶりましたから」


蘭子の顔をじっと見ていた琴緒さんの手から箸が音を鳴らして落ちた。


「  な、ななな、なんで? ヴェ、VEVEDIの東雲蘭子!! じゃない!? 」


「そよ。どうも。はじめまして」


「キャー! 蘭さん、私、VEVEDIの大ファンなんです! 凄い! 凄いよ! なんで!!? 」


「それはどうもありがとう。桃と私は親友を越えた友達よ。ちょうど遊びに来てたんだ」


「えー! 桃さんと友達? 私も桃さんと仲良しなんですぅ」

「え?(こやつ..急に変わった!)」


「桃さんて料理も上手だし可愛いし、さすが蘭子さんの親友ですね。ね、桃さん」

「はい.. 」


「ま、琴緒ちゃん、桃と仲良くしてやってよ。それよか、桃、ビールちょうだい」


「もちろんですよ! あ、ビールは琴緒がお持ちしますから!! 」


蘭子の存在で一気に片が付いてしまった。


——ガチャ


「へいっ!! ピザーラお待たせっ! ドミノだけどな!! 2枚買ってきたよ。おーい隣人21号さん! おーい! 」


「最低! 最悪!! 令次にいちゃん! ちゃんと柿沢桃さんって名前があるんだから! 」

「 れ? どしたの、琴緒? この人誰? 」


——ガチャ


「おーい、もっちん生きてるか? 七海だぞ」

「遅いよ! 七海! 」


「おっ、七海、来たね! 早くこっちおいで!! 」


奥の方から蘭子が叫ぶ!


賑やかになる我が部屋。


その後、琴緒さんは私にべったり、そして蘭子をどれくらい好きか熱弁していた。



「お兄ちゃん達! 知ってる? 『Bassの蘭が咲く』って言われるほど蘭子さんのベースソロは凄いんだから!! 」

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