今日ね、救急救命を受講したよ

チーム「アクチーニャ」のダイビングに参加しながらも、私はダイビングサービスVisitのレスキューダイバーコース受講の決意を固めた。


「アクチーニャ」の萌恵ちゃんを手伝うには自分自身のレベルアップをしておきたかったからだ。


Visitの詩織さんにコース受講の意思を伝えると、コース参加条件である救急救命の講習を受ける事となった。


「じゃ、今度の土曜日にここで行うから、テキストとDVDを予習しておいてね」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

救急救命:CPRと緊急ケアの基本的なトレーニングプログラム。


一次ケア:心肺蘇生法及び命をつなぐためのサイクルを行う。


二次ケア:ケガ・病気に対して行う最初のケアを行う。


AED(自動体外式除細動器)


基本的に救急隊が到着するまでに患者の生命の維持、ケガや病気のケアを行う。

あくまでも責任ではない。

患者の生命力を維持する手伝いをする観点で行う活動だ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「詩織さん、これって自動車免許のときに行った緊急ケアと同じですね」

「そうね。この緊急救命ケアは定期的に訓練しておくことが大切だよね。知識の整理と体に覚えさせることが、いざという時に役立つんじゃないかな」


このプログラムでは一次ケア、二次ケアのやり方と『命をつなぐサイクル』を知識として整理し、実際に人形を使いながら、段階的に練習する。

最終的にはシナリオに沿ってシミュレーションを行うのだ。


——事故者発見!

「大丈夫ですか? 」


「はいっ! ストップ、ストップ! 」


演出家のように詩織さんから注意が入った。


「今、桃ちゃんは事故者を発見してすぐにこの部屋に入ったでしょ? もしもここに事故者が倒れた原因となるガスが充満していたら、どうするの? 」


厳しい演出家だ!

いろいろ注意されてしまった..

では、改めて....


「事故者発見! 状況確認。救急隊に連絡——」

  *

  *

  *


—— CPR開始 


「1・2・3・4・5・・——」


「桃ちゃん! もう少し、膝を揃えて! 姿勢をしっかり。上から圧迫するように! 」


「はいっ! 」

  *

  *

  *


訓練はまるで寸劇のようだったが、ここで私は「まずは自分の安全を確保すること」「いったん止まって考えてから行動する」というダイビングで最も大切な事を学んだ気がした。


救急救命の方法は学んだけど、実際に使う場がなければいいなと願うばかりだ。


「がんばり屋だね。性格が良く出ている。ただ、ひとつだけ約束して。もし本当に事故に遭遇しても、自分の安全を一番に考えて。人を助けるために自分を危険にさらすことはしないでね、お願い..」


「はい。わかりました」


その時は、なぜ詩織さんが私にそんな事言ったのかわからなかった。


その後、詩織さんはレスキューダイバーコースの内容を少しだけ説明してくれた。


「え! ? 事故者を担いでエキジットするんですか? これ、結構ハードじゃないですか? 」

「あらあら、もう根をあげちゃうの? 」



「いえ! がんばりますっ! 」


****


「大丈夫ですか? 大丈夫ですか? 」


新しいことを習ったうれしさに私は習ったことを哲夫さんに聞かせていた。


「あははは。大丈夫ですよ」


肩を叩く私に哲夫さんは困り顔。


「もしも哲夫さんがケガや病気しても私がケアしてあげますから、安心してケガして大丈夫ですよ~」

「ははは。それは頼もしいですね」


「風邪とかの時は私が栄養のあるものも作ってあげますから.. あ、例えば哲夫さんのお母さんが忙しかったりしたらね」

「はい。その時はよろしくお願いします」


「じゃ、私、太郎丸の散歩いってきます」

「いってらっしゃい」


終始、哲夫さんは目を細めながら 私の話を聞いてくれた。


****


なんだろう?

最近ちょっと哲夫さんに余裕があるような。


なんかちょっぴりムカつく....


「いこっ、太郎丸! 」


そう言いながらも、私の口角は上がっていた。

それは充実した毎日からか、それとも.... ♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る