”始まり”と”凶気”

 ビルが崩れ土煙が舞う。そこには、一人の男が立っていた。

 「さて、やろうか」

臨戦態勢のその男は言う。

 「うん、そうだね。よし、いけ!!和!」

 「はい??」

 「よし!君に決めた!和!」

だから、なんで?相手あれじゃん。強そうじゃん。なんか黒いの渦巻いてるし。ていうか、最初師匠たちと戦ってた人じゃん。

 文句の意を込めてにらむが、師匠は動じず決め顔で相手に指をさして動かない。相手も待ちながらも何か考えているようである。

 「どっちでもいいけど、個人的には朱音さんの方がいいと思いますけど」

 「いや、まずは和が相手になる」

助け舟を出してくれる相手。だが、それを聞き入れようとしない師匠。なぜ?

 「・・・負けるのが怖いの???」

 「いや、そういうわけでは・・・・」

 「全力で来ないと、足元すくわれるかもよ~」

煽る、煽る。もうやめてほしい。頑張るので死ぬ確率を上げるのだけは・・・。ハードルをなぜ上げるのか。

 「まぁ、いいですよ。・・・とりあえずやりますか」

戦闘態勢整え始めた。覚悟を決めるしかないか。

 「大丈夫。できるできる」

気軽に言う師匠。そのポジティブ分けてほしい。

 「・・・ほんとにやばかったら割って入ってあげよう。だから、」

肩に手を置き、真剣な目をして

 「やってみよう」

と言ってきた。

 「はい」

 そんな風に言われたらやるしかないではないか。こちらも力を入れて準備をする。

 そして、戦いの火ぶたが切って落とされた――


 うおー、やばい、やばい!何がそんなにやばいかって?危険なんだよ!もうなにもかも!相手の体から出ている黒いものの一つ一つが威力が高く、鋭くこちらに向かって向かってくる。帯状に一つ一つが形作られ鞭や触手のように滑らかに動き、先が刃のように尖り目の前に迫る。

 絶対強いって。いなすのも大変、いなせるか?しなって襲ってくるのは斬撃。自分の横を通り過ぎるだけで風圧が横を通り過ぎる。それだけで切り傷ができる。薄く伸びる切れ味の良い刃。どんどん生成、形づくられ向かってくる。近づけても決め手にならない。相手が能力だけの人間だけでなく、近接もしっかりとできる。

 手と足が交互に当たる。こぶしには腕を組みガードを。蹴りには足を折り曲げ当て、後ろに下がり避ける。だが、拮抗していると言うにはぎりぎりである。

 不思議であった。手ごたえを感じるのもある。だが、それだけではなかなか倒れない。・・・・一手一手進めるごとに集中力が増し沈んでいっているのを感じる。迫力と集中力、気迫が増してくる。

 思わず、少し後ずさる。・・・さすが、朱音さんのペアである。それに、早さの照準まで追い付かれそうである。口元が緩んだのを感じる。楽しんでる??はっは!

 朱音さんの方を見ると目が合う。「ふっ、どう?」とドヤってる意志を感じる。えぇ、あがってきましたよ!!!!

 「・・・・凶雷」(減!!)

 何か聞こえた。相手を見ると手に黒い電気、静電気が確認できるほど集まり纏い始めている。バチバチと聞こえ、それが一つの束になり襲いかかる。

 雷が両隣を通過する。直接は避け、息を整える前に、相手の膝蹴りがくる。くらい、体が浮いたところに回し蹴りが――。


 地面に転がって飛ばされる。完全には防げずいいのが入った。能力をまとった蹴り、。

 いいのが入ったはずだ。相手も吹っ飛んだ。だが、最後の方、力が自分で思ってるよりも力が伝わらなかったか、?まさかな。


 相手は地面に倒れたまま動かない。終わったかと思い、後ろを向く。背を伸ばし、いつの間にか脱いでいた上着を取ろうと進む。・・・背後から音がした。

 まじか。振り向くと、肩で息をしながらも立っていた。

 「・・・ふーーー」

深く深く息を吐いていた。空気が先ほどよりもガラッと変わったように感じる。へー。

 「く、くく。はははっはは」

 「?」

 「ごめんごめん。・・・・君名前は?君から聞きたい」

 真剣な顔つきで言われる。・・・そんな顔されたら、答えようと思ってしまうではないか。

 「藤井和」

彼は名前を聞くと、笑みを浮かべて、

 「和、藤井和か。うん、いい名前だ。ぼく、いや、俺の名前は御剣京介みつるぎきょうすけだ」

御剣って、送られてきた資料で見た。『最凶』の異名持ちと書いてあった。と思い出してるうちに御剣は、

 「いや、こういった方がいいか。『最凶』、御剣京介」

 「・・・・『最弱』、藤井和」

 「さぁ、仕切り直そう」


 モニタールームの画面には廃ビルのエリアが映っている。まだここのカメラは無事であった。

 「さて、『最凶』にどう挑むのか。見ものだね」

 「なんで主任はそんなにのんきにできるんですか?非常事態なのに!」

 「まぁ、落ち着きなよ、結月くん。ほら、周りも落ち着いてるじゃない」

 「数人だけね!!!」

 「大丈夫ですよ。対処に部隊が動いてますから」

 「でも、緊急事態ですよ、真依さん」

 「安心しなさい、ね。大丈夫です」

 「はい」

 おかしいな僕も似たような意味を含めて言ったんだけどな。

 「主任は言葉が足りないんですよ」

 心を見透かしたように言われる。エスパーだろうか。

 「長い付き合いでしょ」

 「・・・・そうだね。。」

画面を見ながら、どうなるかを考える。いい方向に進めばいいが。・・・・侵入者の件も含め。さーて、ここからどうするか。


 廃ビル街でお互いにぶつかりあう。和の動きも京介の動きにどんどんついていく。

 ゾーンにでも入ったか?動きに切れがでて早さにもついてこられてる。それどころか圧が増している。少しでも気を抜くとやばいと直感的に感じる。こちらは能力で色々と試している。斬撃に電撃。純粋な物理攻撃。異能を纏いながらの攻撃。和はけたり、かき消したりしてこちらを追随する。厄介だな。

 彼の目が片方青く輝きこちらを力強く捉えていた―


 ついていけている?・・・調子がいい。よく見えるし、力も体の底から湧いてくる気がしている。さっきの戦闘も似たような感覚に陥った。でも、まだだ。まだ完全じゃない。こちらが追いつくたびに相手のレベルが上がっていく気がする。たぶん、気のせいじゃない。・・・・本当に底が量れない


 ビルの中に転がり込む。黒いオーラが布と刃が混じったものになり、攻撃してくる。これが、御剣さんの基本の攻撃方法なのかもしれない。この戦闘の最中に何度も目にしていた。転がって避けるが、地面に刺さっていく。さっきまで自分がいた場所には穴が空いていた。まじか。1、2いやもう複数出てきて襲ってくる。何本かは落とせるが、避けるので精一杯である。

 避けやすくなったと思った瞬間だった。天井の一部が崩れ槍のような形状をしたものが何本も降ってきた。

 かすった。この状況の攻撃のパターンが多彩。はっきりと、見えない相手にこの攻撃方法。いったいどんな判断神経してんだよ。

 何とか、転がり、串刺しだけは避けていく。上の階に逃げ込むことができた。

 さてどうするか――――


 2階に足音が響く。

 「・・・・・・」

 姿はすぐに見えた。御剣は先ほどの攻撃を複数出し、壁に刺し残りをこちらに向ける。先ほどよりは太さは細い。今度はこちらも見えてる。下にも、上にも伸ばしているのが。だが、派手にはできないはず。地面が崩れ、どちらもが足場を失うことはしたくないはず。既に崩れているところもある。慎重に動かなければ。

 ・・・壁とか床刺しって固定とか言わないよね?

 「さぁてと」

と小さく吐き出すように聞こえる。あちらも次の攻撃を考えているようだ。こちらも考えるが、考えすぎてもしょうがない。やれることが少ない。出たとこ勝負だ。

 上下、前後複数の方向から襲ってくる。和は避け、さばき、打ち落とし走る。床を壁を蹴り、室内を駆ける。


 集中しろ。何となく感じる。次は右前、斜め左、上。下。今だ!もぐりこめ、決めろ。

 こちらが駆けだしているときだった。御剣の手には力が集まっていた。

 急に、がらがらと大きく音がした。足場が崩れだしたのだ。それでも和は、崩れる足場を蹴り素早く近づく。御剣は手に込めたものを放つ。

 「凶星<槍>」

2本の槍と化し、襲う。力をこめろ、ぶつけろ!!!!!

2本の槍は右方向のはよけたが、左側の脇腹をえぐる。それでも空を駆け上がり、近づき腕を振る。そしてこぶしが思い切り、御剣の腹に入る。こちらも攻撃があちらこちらにくらう。

 「「くっっっ!!!」」

 二人の攻撃ががれきが落ち、舞う中で、くうで交わる。

 ビル内には、崩れた音と二つの落下音が響いた――――


 「・・・・さて、別れますか」

 一人がそう言うと町の入り口で足を止める。

 「予定通りにですね」

 「あぁ。役回り変えるか?」

 「いえ。ここで、足止めします」

 「じゃあ、俺たちは行こうか」

 「了解です」

 「よろしくな、『ウォール』」

 「はい」

 入り口とビルの方に別れるのだった――――


 

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