戦況
モニタールームにて。
一息つき、落ち着きを取り戻していく研究員や所員達。先ほどまで、見ているこちら側もハラハラして息がつけなくなるような戦闘が行なわれていた。
結果は、完全に決まったのかは微妙なところだが、最初の下馬評は崩せたのではないだろうかと思う。九ノ瀬主任は満足そうに画面を見ていた。
「・・・主任はこうなるってわかったんですか?」
「こうとは?」
「和くんが勝つってことです」
「そんなのわからないよ。それは、みんなそうでしょ?」
おどけたように言っているが、何かを確信したような、溢れる嬉しさが目に現れていた気がした。
あの戦闘、『最弱』VS『最狂』になった時にどちらが勝つかはわからなかった。だが、『最狂』の異名を持つ桜城優が優勢で進んでいくと思っていた。モニターを見ていた大半の職員はそう思ったことだろう。最初こそ、かなり優勢を取っていたが、動きについていく和くんを見るたびに周りからも”おぉ”、”いけ”といった前向きな声援が漏れていた。
・・・・どんどん能力が上がっていく桜城さんを見て能力の名を思い出す。。
『狂花』。花が咲くように能力が上がる。そのような意味であるなら、確かにと実感が持てた。狂う強さ、狂暴化。略して、狂化。
・・・戦闘を見ていてもしかしたら、強制ストップか、と頭に浮かび始めていたが、途中から流れが変わった。外から見ても感じた。それは、藤井和のまとっている空気が変わり、苦しくもついていっていた動きが変わっていったのだ。拮抗しては、離れ、また拮抗する。それからはどうなるのかが想像がつかない戦いであった。
そして、今に至るわけである。
この試験が始まってから、大きく二回の流れがあった。
最初の三者の衝突。今回の参加者の中でも強者と言われてる『最強』『最恐』『最凶』の激突。決着はつかなかったがこれを皮切りに、状況が動いた。
そして、『最弱』『最狂』との邂逅。他の組も、画面上では、動き出している。
画面を見ていて気付く。さらに一波乱、大きいことが起きる気がした。隣の主任を見てみると、同じ画面を見ながら、「へー」とでも言いたげな関心顔で見ている。
さてここからどう状況が動くことやら。
あれから、桜城さんたちと別れて歩いていた。どこに向かうわけでもなく思い付きの「あっち行ってみようよー」である。確かに、この試験の明確な終了ルールはないがこれでいいのだろうか。師匠が戦ったわけでもなく、ぼくが戦闘したわけだが。師匠に聞いたら、「いいんだよ~」と気楽に返されたし。それに、後から聞いてみたら『最狂』だったというではないか。そりゃあ、強いはずだ。なんで、降参してくれたのかがわからない。痛みがする体を引きずりながらも歩く。
そういえば、自分が思ったよりも怪我をしていない。手加減してくれたのだろうか?・・・うーん。わからない。自分がレベルアップしたと思いたいところではある。
・・・師匠は前を気分よくスキップをしながら歩いている。どうしたのだろう?確かに、合流した時から嬉しそうではあった。さっき聞いた時は、「なんでもないよー」とはぐらかされたてしまった。だから深く考えるのはやめたのだが。
いつの間にか、僕たちはオフィス街ではなく、廃ビルが主体の地区に来ていた。
「うわぁ、こんな場所もあるんですね」
「そうだね。ボロボロで手が込んでるよね」
そういう視点?確かに、住宅街にはじまり、オフィスのビル、入り口付近の荒野。まだ見てない場所があると考えても手が込みまくってる。組織のすごさをこんなところで感じるとは。
「さて、適当に歩いてるけど誰と次は当たるかな?」
と楽しそうに言う。正直、しばらく戦いたくない。師匠にぶん投げたい。それでもいいはずである。だって、僕同行者だし。と思いながら、歩き続ける。
まだスキップなみに、ごきげんな師匠に聞く。
「・・・なんで楽しそうなんですか?」
「えっ?楽しくない?というよりワクワクしない?」
どこの戦闘狂だろうか。思わずため息が出てしまう。そんな僕を見て笑う師匠。今更だが、とんでもないことに参加してるのではないだろうか。
ははは、さすがにさっきの戦闘が堪えたかな。疲れたような顔してるし、ため息まで。でも、和にはもう少し頑張ってもらわないと。もう一つの目的を達成するためにも。だけど、さっきの戦闘を見て確信した。達成まであと少しである。スパルタになるかもだが、くらいついてもらわないと。
しばらく、歩いていると音が近づいてくる気がした。音がどんどん大きくなり、近づく。緊張感が高まる共に、近くの低めのビルが倒壊した。またか。始まったころに同じような体験をしている。違うことといえば場所と建物の壊れ方だろうか。
「お、人発見。・・・さぁ、やるか!」
出てきた人も違った。そして、体には黒い何かをまとっていた――
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