覚醒の兆し
「さぁ、ギアを一つ上げるよ」
と桜城は言う。そして、
「ついてきてよ、藤井和くん」
と楽しそうに片手の指を曲げこいこいという動作と共に言ってきた。やばい。今でもついていくのに必死なのにまだ上があるという。・・・あるだろうなとは思っていた、思っていたが!!やけくそ気味に心の中で突っ込んで、一息つく。さて、どうやって、桜城さんの攻撃を防ぐか。・・・そう言えば桜城さんのペアはどこだろうか。ペアも出てきたら、一人では無理だ。周囲を軽く見回すが見当たらない。
・・・・できるだけ頑張りますか。
僕は腹をくくることにした――
藤井和と桜城優の対決が始まったころ。
「ふー、さてさて、どこまで飛ばされたのかな?」
都市の端と荒野の交わっているところに一人。
「結構、飛ばされたなー。油断した」
と独り言を言いながらも現状を確認する。飛んできたと思える方を見てみると、建物が削れていたり、地面に影響が出ているところを見ると結構な威力で飛んできたことがうかがえる。ペアの和の位置を確認してみることにする。端末を見るだけでも遠く離れたことを実感できる。合流を急ぐとしよう。
今、戦闘が起きてたとしたら、、、、、と走りながら考える。
ここが彼の踏ん張りどころであり、分岐点になるかな――――
ギアを上げると言われてから桜城さんの気配が変わった気がした。当の桜城さんはどこから出したか仮面をかぶり、軽くジャンプしている。動く前の準備運動のように。トントンと飛んでいたのが、その場から急に消えた。気づいたら、目の前にいて、吹き飛ばされた。
くっ、やっぱり上がってる。力も速さも。やばい、体勢を直さないと、来る。
何とかついていく。だが、さっきよりもさばけない。軌道を何とかそらし、直撃を防ぐも攻撃がかすっていく。いや、あきらめるな。くらいつけ。
桜城と藤井、二人の息をつかせない攻防が続く。周りから見てもレベルが高い戦闘が広がり、二人だけの空間が出来上がっている。
「ハッハハー、もっと上げるぞーー!!!ついてこい!!」
というと、手に力が集まっていくのがわかる。すると、こぶしに白い骨みたいなものがこぶしを包むように現れ簡単なグローブが形成された。
「さぁ、いくぞ」
そう言い、攻撃を再開する。
・・・やっぱり、能力が上がるだけじゃなかったか。じゃあ、一体どんな能力なのか。こぶしだけなのか?いや、全体的にできる可能性があると思って対処を考えるべきか。などと考えている間にもスピードが上がり、足にも手のような装飾ができ始めていた。それのせいで、攻撃力でだけでなく、防御力も上がっていく。致命傷にならないように今は攻撃を避けることのみに集中する。
・・・・連続で攻撃をしかけながら、ある違和感を覚える。何だろう。攻撃はさばかれていても、うまくこちらの流れで進められているはずだ。だが、先ほどから、違和感を感じる。拳をつかむ、さばく一瞬。お互いの手が当たるとき。・・・自分の力が自分が思っている威力よりも弱くなっているような気がしてならない。なんだこれは。
・・・・・勢い・威力が殺されている?ふっ。もし、そうでも関係ない。それを超える威力で、殺されない力で攻撃を続けるだけだ!
押される。いや、正しくは押され始めた。・・・差をどんどん縮めれていると、大きくはつけられていないと思っていた。だが、相手の勢いが増し始めた。攻撃がかする手数も増え、その場から動かされているのがわかる。
気を抜いた瞬間、かかと落としが落とされる。それを何とか防ぐ。
「はぁ、はぁ」
「ふふふ」
「な、何がおかしいんです?」
「いや、防がれる、防がれる。・・・楽しくなってきてね」
「ははは」
思わず合わせて、笑う。実際は笑うというよりも苦笑である。だって、正直限界だもの。今にも逃げれるならその方法を捜すって。でもやるしかないからやっている。
・・・能力を攻防に組み込んでいるが気づかれているだろうか。相手の顔を見るがそこまではわからない。でも、気づかれてはいる気がしている。段々と手数が増え、威力、速さが上がっているからだ。圧倒しようとしているのか、、、。
考えを短い時間でまとめようとしていると、相手は後ろに下がった。次の攻撃の動作かと身構えると、
「さぁ、次は武器も使わせてもらうよ。・・・いいかな?」
と聞いてきた。正直に言われ、一瞬何を言われたのか分からず、動きが止まる。だが、こちらも
「できればやめてほしいです!!!」
と正直に力強く言い返す。だが、
「いやぁ、使う」
と実に楽しそうに返されてしまった。しょうがないと腹をくくる。
桜城さんは後ろに手を伸ばし、何かを取り出すようなそぶりを見せる。そして、何かがこちらに向けて飛んでくる。躱す。だが、後ろから音が迫り気配を感じる。何とか避ける。飛んできた物は、桜城さんの手に戻っていた。それは、ブーメランの形を模していた。
「これを避けるか」
と楽しそうに言い向かってくる。・・・何が面白いのか。
相手の攻撃に武器でのレパートリーが加わる。先ほどと違い、視界の外にも気を使わないといけない。・・・もう、集中力がきれそうだ。全方向に気を配り、神経が擦り切れそうである。
目の前を切っ先が通る。後ろにのけぞり、ぎりぎりのところで
何とか避け、その場から離れる。禍々しい見た目の剣がその場に刺さる。
こちらが動いている間も相手は姿が変わり、胸らへんが鎧的に纏われ広がり打つところが限られるてくる。一体何なの??!!
本当に攻撃をいなすのが、上手い。ブーメランはぎりぎり致命傷にならないように軌道をそらしてる。途中で剣も出し斬りかかっているが、刃を避け、柄、横の面に攻撃を入れようとしてくる。不意打ちだっただろう?・・・・武器を出したが、リードをとれてる気がしない。
・・・・さぁ、もっといくか?
外から見ると、第三者が簡単に間に入れるスピードではない。優についていくとは相手は何者だ?異名がさいきょうの類ではないことはわかるが。やっぱり、レベルが高いなと思いながら、近くの建物から出て戦いの行方を見守る。それにしても優は大丈夫か?もうギアを二段階目まで上げているようだが。
「はは、ハハ。避けるなー」
とテンション高く言ってくる。でも、攻撃をやめてくれない。
「これも、ドレモ止めてくる。いいね、いいね。・・・いいナ!!!!」
武器も振り回してこちらを追い立てていたのに、急に立ち止まる。うなだれ、その場で固まっている。何なのかわからず、チャンスだと思い近づこうとしたら、急にゾッとした。周りの温度が下がったかと錯覚するし、震えが襲ってきた。それぐらいの圧、殺気を感じた。下がり距離をとる。相手から何かが渦巻いてるのを肌で、全身で感じる。
そして、姿がまた変わった気がする。変わっていないようにも見えるが、さっきよりも余計な装飾が落ち、スタイリッシュになった気がした。
えっ?気づいたら、後ろにとんでいた。衝撃が遅れてやってくる。すぐに体勢を立て直し、横に倒れる。先ほどまでいた場所にこぶしが通ったのが見えた。速さがえぐい。まだ上があるのか。そして、気付く。さっきは殴られたのか。くっそ、痛みが強くなってきた。おそらくここを殴られたのだろう。やばっ――
思考が途中で中断される。体勢をさらに低くし回し蹴りを避ける。やばいやばい!離れなければ。だが、その思いは虚しくも蹴り飛ばされる。近くの建物の壁にたたきつけられる。何も言わず、ゆっくりとこちらに向かってくる。だが、足を止め周囲を見回し、どこかに消えた。助かったと思ったのもつかの間、すぐに戻ってきた。両手に武器を携えて。確実にヤル気だ。剣が振り下ろされる。
もう、上手くやったでしょ。降参してもいいかなとも思ってくる。だが、師匠の言葉が思い出される。『最後まであきらめるな。和は力の使い方がわかってないだけ。和は強い!』と。笑えてくる。無茶言うよ。・・・あれだけ言われて、簡単にやられるわけにもいかないかな。最後に一矢報いよう。
力を振り絞りこぶしを握り上にかちあげる。
・・・キンという金属音がその一帯に響く。肉を切った音ではない。刀の刃先が、細かく言えば、和が放った拳が当たったところから剣が折れ、地面に転がったのだ。剣を振った方も固まる。その一瞬のすきを見逃さずに、腹に蹴りを入れる。相手が後ずさりこっちも何とか体勢を整える時間を得られる。
・・・正直自分もなにが起きたのかわかっていない。拳をあげたら、ぶつかり剣が折れた。これだけだ。あっちも動揺してるのか、考え込んでるのか動きが固まっている。今なら、何とかなる気がする。さぁ、仕切り直しだ。
信じられないものをみた。避けられず、戦闘終了とも思われた攻撃。桜城優が振り下ろした剣をカウンターで、拳で折ったのだ。驚き、言葉が出ない。あのまま、勝つと思っていた。あの状態から、反撃、好転するとは。
つまり、ここからが第2ラウンドということだろう。
ブーメランが目の前に迫る。顔を横にずらし、避ける。相手の動きに注視しながら、後ろから帰ってきたものも避ける。いつもよりもよく見える、動ける。一進一退の攻防が続く。再びブーメランが放たれた。やはり戻ってくる間にも桜城さんは止まらない。こちらも負けじとくらいつく。拳の動きをそらし、振り返り、戻ってきたブーメランを殴る。ブーメランが砕けた。
「!」
相手も驚きの動きがあった気がしたが、止まらずに体をひねり攻撃を仕掛けてくる。かすりながらも直撃を避ける。痛い。かすっただけでもダメージがすごい。お互いにあとずさり、構える。
重い空気が流れ、お互いに止まる。警戒が強くなる。下手に動いたらやられるという緊張感と圧。警戒は解かない。相手も体勢がどんどん低くなっていた。
一気に距離を詰めてくる。身構えても間に合うかどうか。だが、先ほどから不思議な感覚におそわれている。何となくわかる。軽いけどそうとしか言えない。相手の速い動きに、この感覚のおかげでぎりぎり反応できている。
何とかいなしながらも今できる精一杯の攻撃を入れる。多少はダメージは入ってるはずだと信じたい。そして、桜城さんは――――
手を増やした。言葉のままである。自分で何言ってるんだって感じだが、言葉のままなのである。骨の模型みたいな腕が背中から生え、襲ってくる。合計4本の攻撃である。
手数も種類も増えた攻撃。速さもあるため、完全にとらえきれない。相手の深い、低い声が聞こえる。急に大きな動作が含まれ、攻撃が入る。
何とか前で腕を交互に組み、足に力を入れて食い下がる。もう、勘である。桜城さんは止まらない。
4本の腕に、足と全体を使って攻撃してくる。こちらも負けてられない。反撃を仕掛けるチャンスを狙いながら対応に集中する。
「オアオオアアア!!!!」
「くっ!!」
叫びながらも向かってくる。正直怖い。だが、ひるんでる隙もくれない。攻撃が目の前に迫るのだ。さばいても、さばいても次が来る。
桜城さんの口が緩んだ気がした。
「オレの攻撃をこうも、ヨケルカ」
そう言いながら、手を緩める気はないらしい。攻撃が激しくなる。
相手の空気を切り裂く音、自分と相手の息遣いぐらいしか聞こえない。
きっとお互いに、ダメージは積もってるはずである。まだ続くと思える短くも長い時間が流れる。お互いになんとなく感じていた。決着は近い―――
ここで最後つにするつもりで、力を籠める。相手も全力で振りかぶってきた。
「オラアアアアァァあ!!!」
「・・・!!!」
腕を避け、顔に一発いれ、腹に蹴りを一発入れれた。相手が後ろに倒れるが、こちらも後ろに飛ぶ。肩や足に思いっきり当たった。避けていても、攻撃するときに別の衝撃が襲っていた。
お互いに、地面に音をたてながら転がった。
ついに、優が倒れた。相手もだが、お互いに動きが止まった。立ち上がる気配はしない。
優がびっくと体が動いた。
空を仰いでいる。自分でも手の装甲やら身に着けていたものにひびが入りボロボロになり崩れかけているのがわかる。仮面もひびが入って欠けていた。
ケラケラと笑い出す。
「はぁ、ダメだ。勝てそうで勝てない。・・・降参!これで。この戦い終了でどうだ?」
そう言いながら、体を起こしてきた。いきなり言われて、驚く。こっちが勝ってるきはほとんどしなかった。ここで終わってくれるのは正直ありがたい。さっきから気が抜けたのか全身が悲鳴をあげている。けども、怪しいと疑う気持ちが強い。
「・・・急にどうしたんですか」
僕も上半身を起こし向き合う。
「はは。怪しいわなー」
と腕を伸ばしながら桜城さんはのびやかに言っている。
「疲れたんだよ。他にも相手はいるし、休みたい!・・・ダメか?ダメならまだやろうか?」
「・・・いや、ありがたいです。これ以上やるならやるでやりますけど、本当にありがたい提案です」
「じゃあ、決まりだ」
疑いはまだあったが、素直に受け入れ、僕ももう一度倒れ込んだ。
桜城さんの方に誰かが近づく音がした。
「・・・・ごめんな、
「いや、問題ない。まだ、完全に降参はしないんだろう?・・・してもいいぞ。俺じゃなくて、優が主体だからな」
そして、「お疲れ」と言ってくれる。はっは、いいパートナだことで。
「・・・どうする?肩貸す?」
「いや、もう少し後でいい。まだ寝てたい」
「そっか」
そんな声が聞こえながら、倒れていると、
「どうだった?」
と上の方から、声をかけられた。目を開けると師匠が顔を覗き込んでいた。
「・・・・いつからいたんですか」
「うん?・・・がんばったら、思ってたより早くついてね。途中から戦闘は見てたよ」
まじか。と思いながら、深く息を吐く。はは、まいったな。苦笑してる顔を見ながら、師匠は言ってくれた。
「よくやったね。あれ相手に」
あれ?知り合いかい。そして、そこまで言わせるほどの強者ってことか。やっぱりなー!!きつすぎたもん。やばかったもん。と泣きそうな気持ちになりながら、師匠を見る。
師匠は桜城さんの方にスキップしながら、向かっていった。
「やぁ、元気かな?狂犬くん!」
桜城優は少し睨みつけるように横目で見た。藤井朱音を認識すると、気が抜けたように口元を緩めた。
「はぁああ。・・・ペアが朱音さんですか。強いはずですね」
と優しく笑いながら言った。そして、
「・・・狂犬くんはやめてください。ぼくは、狂犬じゃないですよ。・・・・どちらかというと、狂犬の名にふさわしのは、景さんでしょ」
「そうかなぁ。『最狂』がそれを言う?」
とおかしそうに笑う。それにと続ける。「昔の呼び方でもいいんだよー」とからかうように言いながら、つついてくる。「さすがにそれは~、ここでは」や「痛いですから、やめて」などの声が聞こえてくる。
「で?あらためて。どうだった?」
「真剣に?」
「真剣に」
と真面目な顔で返される。
「それなら、――――
それからしばらく、体勢を整え二人は話していた。
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