”異名”と異能

 研究室のとある一室でパソコンに向かい合う男が一人。 

 「これで全員から連絡きたかな?」

と画面を見ながら、つぶやく。

 参加者をまとめると、研究ルームのミーティングルームというの名のスペースの画面にうつす。

 ここは、研究ルームと銘打ったフロアであり、それぞれの研究室に、実験室又は実験室に向かえる直通の通路などがあり、研究が主体のフロアである。

 クライシスの特徴としては、異能研究のための施設が多いことが特徴として挙げられる。クラシスは前身が研究チームだったことが大きく関わっていると思われる。


 ミーティングルームに自分も移動し、内容に目を通す。

 すると、ミーティングルームに人が入ってきた。

 「あ、九ノ瀬ここのせ主任。お疲れ様です」

 「お疲れ様です」

 「二人ともお疲れ~」

入ってきたのは、研究員歴がまだ短い二人だった。

 一人は、男で名前を結城綾ゆうきあやという。髪は短髪の紫寄りの黒髪である。童顔で年がわかりにくい。若いのは確かなんだが、高校生とも言われても納得する。もう一人は、女性で名前は百瀬結月ももせゆづきである。髪型は、肩までの長さのショートカットである。茶色がかってる黒髪であり、偶に眼鏡をかけているのもみる。二人はタブレットや資料を片手に入ってきた。

 「参加者決まったんですね!!」

と画面を見ながら結月くんが言う。

 「そうなんだよ、ようやく候補者全員から連絡が来てね」

 「これで決定なんですか?」

 「そうだね。まぁ、たぶんこれで決定かな」

二人と同じく画面に映ってる名前を見ながら答える。


―――――

対象者

  『最強』:藤井朱音ふじいあかね

  『最恐』:     :

  『最凶』:     :

  『最狂』:     :

  『最響』:     :

同行者

  『最弱』:藤井和ふじいのどか

            :

            :

            :

            :

――――


 画面には、名前と“異名”が書いてあった。合計で10人。対象者はすべて“さいきょう”と読むことができる。無理矢理の当て字もあるが。

 「あれですね。強そうな人達ですね」

異名を見た感想をそのまま伝える。すると、主任は

 「その通り!強すぎる人達のデータを取るのさ!!」

と画面に背を向け、大きく両手を掲げながら言った。「まぁ、規格外はまだたくさんいるけども、」と小声で言ってくるのも耳に聞こえてくる。

 ふと沸いた疑問をぶつけてみる。

 「・・・そう言えば、異名ってどうやって決めてるんですか?」

 「ふふ、ふ。いい質問だね。結月くん」

と満足そうに笑う主任。なんだろう。やばいことでも聞いてしまっただろうか。と軽く不安に思っていると、主任はテンション高めに言った。

 「そう、それは....。・・・適当!!!」

 「てきと、う?」

私は、隣にいた結城君と顔を見合わせて言ってる意味が分からず困惑した。

 「そう、適当。・・・と言っても、感覚だけでは決めないよ」

と言い、一息入れて、普通のテンションで説明してくれた。

 「・・・大体の能力や、やってきたこと。周囲への影響や、評判と言った、本当にもろもろをを踏まえてつけてる。付けたものもあれば、呼ばれ始めたものまで。経緯は様々なんだよね。まぁ、簡単に言ったらあだ名かな」

などと冗談めかしていう。苦笑いが終わると、どこか遠くを見るようにモニターを眺めながら続ける。

 「もともと異能の能力の大体の把握のためのレベルだって穴だらけで正確かどうかがわからないんだよ。・・・まぁ、目安だよ。今回は、その中でも能力の強い人達の一部を集めてみたんだよ。だって、、、」

と言葉を止め、口元をゆるませ、

 「“さいきょう”達の対決って興味ない?」

と言葉に期待をこめながら、私たちの方を見てきた。


 ん?なるほど?えー、といった気持ちがこんがらがって正直に言えば混乱はしている。でも、言われてみればそうだ。私たちは、研究員歴が浅い。研究に必要なことは知っていても実際には見たことがない、感じたことがないことが多い。このメンバー、『さいきょう』達がすごいということは知っていた。だが、どうすごいかまではわからない。・・・確かに見てみたい。結城君の方に視線をやると私と同じように気になっているのがわかる。

 そして、主任は私たちの期待の目がわかったのか愉快そうに言う。

 「まぁ、もうすぐわかるさ。さて、仕事に戻ろうか。足を止めさせて悪かったね」

 「いえいえ、こちらこそありがとうございました」

 「はい。ありがとうございます」

 「ふふふ。いえいえ~」

と軽く返され、穏やかに話していると、部屋のドアが開いて人が入ってきた。

 「ん?集まって、何してるんだ」

 「やぁ、ますだっち!これを見てくれよ、そろったんだよ」

 「あ、そうなんですか。・・・ますだっちはやめてください」

 「じゃあ、まっすー。後で紙に印刷しとくよ」

 「わかりましたけど...もういいです」

入ってきて主任に今からかわれているのは、私たちの先輩にあたる増田ますださんだった。増田さんは男性で、短髪で眼鏡をかけている。目がきっりとしていてキツいい印象もあるが優しい真面目な先輩である。

 「・・・それより、頼んでた書類はどうしましたか?」

聞かれた主任は一瞬ビクッとしたと思ったら、次には口笛を吹いて部屋に戻ろうとする。そこを、増田さんに首元をつかまれて、

 「は・や・く見てくださいって言いましたよね??」

と怒気がちらほら見える言葉でせっつかれていた。

 「わかったよ、わかった。今から見るから」と弱々しいながらも反抗する声も聞こえてくる。その様子を見ながら、私たちは増田さんにお気の毒にと思い、仕事に戻っていった――――


 それにしても、能力測定を見るのは今回が初めてだ。通常とは違うというが、いつもはどうやって、どのように判断しているのか。異名についてもそうだ。最初の頃に、「異名はあだ名みたいなもんだよ~」と同じ事を言われたことがある。だが、実際にはそうなのだろうか?今日話しを聞いたが、実際見ないとどこまでが本当なのかわからないと思ったのが本音であった――――

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