フワリの小さなお礼

チーム織幸

1話

 ある森の中に、ボラックという小さな村がありました。

 村の中心には湖があり、その湖の周りに家やお店などが並んでいました。


 湖はキラキラと輝いていてとても綺麗です。それは、村の人々がいつも湖を大切にしているからでした。



 湖の上には、祈りの場という神様に祈るための建物が浮いています。

 プカプカと浮いているので、風の強い日、建物はいつも違う場所にありました。


 しかし、どんなに強い嵐の日でも、湖は一度も岸にぶつかったことはありませんでした。

 それはなぜかというと、湖の中に住むフワリという水の妖精が、建物を守っているからでした。



 フワリは大人の平均が十五センチほどで、可愛らしい容姿をした上半身に、スカートのようなヒラヒラしたヒレがついている妖精でした。


 しかしフワリは神様などにしか見えない妖精で、村の誰もがフワリを見たことがありません。

 なので、村に住む子供達の数名は、いつもフワリなんかいないと、湖に石を投げていたずらをしていました。



 ポコロという男の子もその内の一人でした。

 今日もいつものように村の人の目を盗んで、湖に石を投げて遊んでいると、ポコロは足を滑らせて、湖の中に落ちてしまいました。

「わっ」

ドボン。湖はとても深く、服を着ているポコロは上手に泳げません。

 一人で遊んでいたので、ポコロがおぼれていることに、村の誰もが気づけませんでした。


 一生懸命に岸へ上がろうとポコロはもがきますが、息はしだいに苦しくなり、ポコロはどんどん湖に沈んでしまいます。


 もうダメだとポコロが諦めそうになったとき、沢山の何かがポコロの体を支えてくれて、ポコロを岸に上げて助けてくれました。



 ポコロはぜぇぜぇ息を吐きながら湖の中を覗きます。

 しかし何も見えません。



 すると、ポコロの様子に気づいた一人のおばさまが、ポコロの方へ急いで走ってきました。

「あぁ大変! 大丈夫かい?」

 おばさまはそう言って手に持っていたカゴを湖の側へと置くと、急いで村の診療所へとポコロを連れて行ってくれました。



 無事に怪我も何もなかったポコロ。

お父さんやお母さんには、湖で遊ばないように叱られましたが、どうしても湖の中での出来事が忘れられません。


 遠くから湖の方を見ていると、ポコロを助けてくれたおばさまが、今日も果物が入ったカゴを持って、湖の側にいるのが見えました。


「おばさま」

 どうしても気になったポコロは、おばさまの側に駆け寄りました。

「おや、湖の側に来てもいいのかいポコロ」

 ポコロが湖でおぼれて、両親から沢山怒られたのは、小さな村ではすぐに広まっていました。

「本当はダメだけど、どうしても気になることがあって……」

「なんだい?」

「湖でおぼれた時、沢山の何かが僕を助けてくれたんだ」

「あぁ、それはフワリだよ。いつも湖の中から、祈りの場や村の人々を守ってくれているの」


 おばさまに言われ、薄々もしかしてと気づいていたポコロは納得しました。

「やっぱりそうだったんだね。フワリはいつもいないと思っていたけど、湖の中で助けてもらったときに、もしかしたらと思ってたんだ」

「そうかい。私はいつも果物を持ってきて、フワリにお礼を言っているのよ。今もポコロを助けてくれてありがとうとお礼を伝えていたの」

「おばさまは見えるの?」

「見えないわ。でも嵐の日。窓から祈りの場を見ていると、何かが祈りの場が岸にぶつからないようにと、守ってくれているのが見えるの。だからこうして、いつもお礼にくるんだよ」

 おばさまの話を聞き、ポコロは今まで自分が石を湖に投げていたことが、とても悪いことだと気づきました。

「僕、湖に石を投げていたのに、フワリは僕を助けてくれた」

「そうなの? じゃあそんな時はどうしたらいい?」

 ポコロは考えました。そして、自分を助けてくれたフワリに、ちゃんとお礼を言いたいと思いました。

「僕もフワリにお礼を言いたい」

「えぇ、そうしましょう」


 ポコロは小さな声でフワリに向かってお礼を伝えました。

「フワリ、この前助けてくれてありがとうございました。いつも石を投げてごめんなさい」



 嵐の日。ポコロは家の中から祈りの場を見てみました。するとおばさまの言った通り、何かが祈りの場が岸にぶつからないように支えているように見えました。

「おばさまの言っていることは本当だったんだ」

 それ以来ポコロもおばさまを見習って、同じように時々、果物を持って湖にお礼を言いに行くようになりました。


 それは数年たった今も変わらず、ずっと続けていました。

 最近は、病院へ入院してしまったおばさまの分も、果物を持って行くようになりました。



 ある日、いつものように湖に果物の入ったカゴを持って行き、お礼を伝えていました。

 すると、湖の中から何かがポンっとポコロの方へ飛んできました。

 ポコロが拾ってみると、それはキラキラと光る、宝石のような石でした。

「わぁ、綺麗な石だ。湖の中から飛んできたってことは……もしかしてフワリなの?」

 すると、湖の水がピチャピチャと跳ね、まるで、そうだよと返事をしているようでした。

「これ僕にくれるの?」

ポコロが聞くと、水はまたピチャピチャと跳ねました。

「ありがとう。僕これ大切にするよ」

 ポコロはお礼を伝えることの大切さ、そして気持ちはちゃんと伝わるんだと、改めて思いました。



 そしてこれからもずっと、ポコロはフワリに果物を持って行き続けようと思いました。

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