第9話 勇気の薬

「今日で終わりかな」

隣の少年はつぶやく

「そうだな、今日で終わりだよ」

慰めにもならない事をボクは言葉にした


塹壕は湿っているだけではない、臭いがひどいのだ

砲撃で人間が四散する

肉片が腐敗した恐ろしい臭いになる

食欲もなくなり、肉体は疲弊した。


もはや限界だ

敗戦は誰もが感じていても、戦争は止められない


上層部は、塹壕に近づく戦車を撃破するために

兵隊を突撃させて、

対戦車爆弾を設置する作戦を考えた


しかし大人では良い標的だ

なるべく標的は小さい方がいい

少年兵を使う事にした

特別な訓練もいらない


ただ重い対戦車爆弾を持って、戦車につけるだけだ

磁石のため設置も簡単である

12歳から15歳までの子供が集められた。

それより年上は兵隊になる


「この薬は、勇気の薬だ」

上官が錠剤をつまんで見せる

「これを飲んで、戦車まで走れ」


もとから無理な作戦で、いくら子供でも怖い。

実際に戦車をみれば恐怖で体も固まる

見つかれば銃撃されて終わる。


上層部は子供のために薬を使う事にする。

この薬は

気分が大きくなり、肉体の限界を超えた力も得られる。


「勇気の薬は、臆病な心を消す薬だ」

錠剤をくばり飲ませる。

ボクも飲むと確かに、気分が良い。

体に力もみなぎる、やる気が出てきた。


「成功です、子供達はみな生還しました」

興奮して司令官に報告が行われた。

上層部は、これで戦線を維持できると考えて

すべての塹壕に、この薬を配るように命令をした。


「また薬を飲んだら計画通りに」

ボクは他の少年兵と相談をした。

同意を得られると、次に薬を飲んだときに上官を殺した。


戦線が崩壊をして、少年兵達は首都に向かう

混乱の中で、命を投げ捨てて司令部を壊滅させて

戦争が終わる。

勇気の薬は、大人への従属心も無くしていた。

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