第7話 魔女の森(怪談なので注意)

従軍牧師は、司令官に怒りを向けていた。

「あなたは、神に背くつもりですか」

司令官は無表情で説得をしていたが

牧師からの承諾は、得られない様子だ


司令官は部下に命令を伝える

「あの森を無灯火で進軍しろだと」

古参の兵士は、司令官の伝令をにらむ

「現地で、森に詳しい道案内は雇えないか」

司令官からの命令を伝え終わると逃げ腰で

戻っていく


一進一退の戦況で、突破口を作りたい司令官は

進軍が難しい「魔女の森」を進む作戦を考えた。

迷信めいた話も多いが、実際に日中でも

通り抜けるのが困難な場所で、磁石もなぜか

使えないらしい。


夜に移動するのは難しい土地だ。

部隊は、塹壕を進みながら森に向かう。

塹壕を出ると部隊長は、近辺の村で

案内人を探すことにする。


もちろん村人は、誰も行きたがらない

昼ですら難しい土地を、夜に案内できる者は

誰も居ない。


「私でよければ案内します」

貧しい身なりの少女が、名乗り出た。

村人は、その少女を見ると背を向けて家に戻る

少女はなぜか嫌われているようだ

容姿は醜いわけでもない

ただ陰鬱な印象はある


部隊長は、成功報酬を約束して夜に出発する。

月夜で少しは明るいが

森の中に入れば、闇の世界

兵士は音を立てないように

一列になる

一本のロープを先頭から順番に持たせる

綱引きの要領だ


ただ引っ張る先の相手は居ない

はぐれないように、ロープを握り

前の兵士の背中を見ながら進む

道案内の少女は、ロープの先頭を持ち

森の中に入る


でこぼこした平地を

よろけたり、つまずいたりしながら

ゆっくりと進んでいく

部隊長は最後の端を手に持ち

部下がはぐれないか確認をする役目だ

しばらくすると、部隊が動かなくなる


トラブルを感じた部隊長は、ロープから

手を離して兵士の背中を触りながら前へ進む

しばらくすると立ち止まっている兵隊が増える

少女が迷ったのだろうか


そう考えたときに

兵隊の背中の血に気がつく

ぎょっとして兵隊の顔を見ると

リンゴをかじったように、顔半分が無い


驚いて後ろをみると

追い抜いた兵隊も顔が無かった

後頭部だけ残っている


「順番は待たないのか」

ふりむくと、黒山羊の頭をした裸の少女が立っていた

部隊長の顔をかじる。


司令官は、はじめの部隊を進めると同時に

別方向からもうひとつの部隊を進めた

数時間後には、突破した事が伝えられる。


「生け贄は成功したか」

司令官は村にいる魔女の話を噂で聞いていた。

安堵しながら十字を切る。

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