第6話 塹壕の看板

【給水場】

塹壕の壁に釘どめされている木片がある

矢印も書き込まれていた


新兵が古参兵に

「これなんですか」

「その先に雨水をためてる」

疲れた古参兵が答える


塹壕は迷路と同じだ

直線的な通路が無い

ジグザクに曲がり、敵兵が入っても

隠れられるように設計されている。


しばらく進むと

三叉路もある

【補給】【トイレ】【前線】

わかりやすい

看板が無いと、どこになにがあるかすら

判らない


古参兵は指でつつきながら

「前線の看板はまちがってるぞ」

「なんでです」

新兵が不思議そうに聞いてくる

「その場所は、昨夜かな

 重砲で破壊されて塹壕がもう無い」

詳しく聞いてみると、塹壕の破壊で

看板の書き換えが追いつかないらしい


【安全】

「戦場で安全ってなんです」

古参兵は苦笑いする。


「国防軍最高司令官閣下が到着する」

上官が大声で命令をする

兵隊がめんどうそうに立ち上がり直立する


今日は、視察だ

前線に視察に行けるほど、我が軍は勝利をしている

そう見せかけるのが目的だ


「敬礼」

鋭い声で号令をすると、一斉に手を上げる兵隊

大声で独裁者の名前を叫ぶ

最高司令官が兵隊をねぎらいながら、写真を撮られる

新聞にでも掲載するのだろう

そこに

音もなく砲弾が弾着した

砲撃の音は後からくる


「司令官を守れ」

叫ぶ上官に熱した破片が、ぶち当たる。

上半身がきれいに無くなる


兵隊は持ち場に走る。

前線に不慣れな最高司令官は、行き場がない。

塹壕の【安全】の看板を見つけると

そこに向かって走った。


砲撃が終わった後に、新兵と古参兵は

最高司令官を見つけた。

「安全な場所なのに」

新兵がつぶやくが

古参兵は

「そこは狙撃されやすい場所だ

 兵隊の冗談だよ」

また苦笑いをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る