第3話 実験

双眼鏡でひし形の戦車の前方を監視する

「見つけた」

無限軌道を持つ小さな戦車を視認した。

通称『どん亀』

ケーブルを引きずりながら進む誘導兵器だ。


ライフルのスコープを覗きながら狙撃を繰り返して

ケーブルを打ち抜く事に成功する。

どん亀はしばらく進んでいたが岩に乗り上げて

腹を見せた、直後に爆煙が上がる。


200m先の自分のところまで小石が飛んでくる。

煙が収まれば、次の獲物を処理できるだろう

双眼鏡に持ち替えて、爆煙を見ていると

人の姿が見える

敵兵かと思ったが、子供のようだ

看護婦のようにも見える


小脇に鞄を抱えながら

こちらの塹壕に向かってくる

「別の塹壕から逃げてきたか」

看護婦は、塹壕のへりまでくると

怖そうに見下ろした

「早く降りろ」

俺は看護婦を降ろそうと、手助けをする


かなり若い、いやどうみても15歳以上には見えない

「どこからきた」

看護婦は、さきほどの爆発で耳でもやられたのか

ぽかんと口を開けている

素朴でかわいらしいが頭の働きがにぶいようだ。


俺はスパイかと考えたが、あまりに幼すぎる

とにかく兵士のたまり場まで連れて行く。

「おなかがすいたの」

少女が切なそうに話す

「軍の食事だからな」と簡易食料を渡すと

おいしそうに食べている。


俺は故郷の幼なじみを想い出す。

心が暖かくなりながら、少女を後方へ移動させる事にした。

重砲の弾薬が積み上がった場所までくると

彼女はニコニコしながら

無邪気に胸元を開いて棒状のものを取り出した。


止めるまもなく赤いボタンを押す。

双眼鏡で観察していた敵軍の将校は

彼方の塹壕から、巨大な爆煙があがるのを見る

「犬やリモコンよりも、人間の方が効率がいいな」

酷薄そうな唇を曲げる。

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