第2話 塹壕のネズミ

「ネズミがいるぞ」

古参兵は、ネズミを追いかける。

エサが豊富のため、どこにでも居る。

もちろん死体を食べている。

彼らは塹壕に穴を掘り奥に隠れているが、夜になると出てくる。


「昨日は、耳をかじられました」

新兵が、嫌そうな顔で缶詰を食べている。

「殺鼠剤が効いてないのか」

古参兵は、若干イライラしている様子だ。


塹壕の外を見れば、回収できない死体が山のようにある。

もちろんハエも凄まじいが、生きた人間は襲わない

ネズミは違う。

寝ていれば襲われる。

立っているだけでも、足下から登ろうとする。


なにより怖いのは、雑菌だ。

戦場は不潔で、たまり水すら飲めない。

ある兵士が、喉の渇きで我慢しきれずに

爆撃された穴、いわゆる爆弾穴に、たまった雨水を飲んだ

平気だと思ったらしい

赤痢で倒れた。

当たり前だ、死体がゴロゴロしている。

ネズミも同じで、雑菌は致死レベルまで上がっている。

傷つけられたら、病気で倒れる。


古参兵が新兵に

「そろそろガス攻撃だ、マスクをしろ」

今日は敵陣地にガス攻撃を行う。風向きを確認しながら

ガスを放出だ。


もちろん相手側もガスマスクをつけると

症状は軽減されるが、装着に遅れると死亡する。

少しでも敵を減らすために、頻繁に行う

風向き次第なので、自軍の陣地にも流れるが

マスクで防ぐ。


「はじまるぞ」

古参兵が新兵のヘルメットを叩く。

ガス発生装置から放出をはじめた

煙のようだが、毒ガスは空気より重いため、上空には広がらない

ゆっくりと敵陣地に向かう。

新兵が心配そうに

「効果ありますかね」


新兵が敵陣地を見ていると、煙から逃げてくるものがある

敵兵ではない、ネズミだ

ネズミが毒ガス攻撃を察知して、安全な方に走ってくる

しかし数が多い、桁違いのネズミが波のように迫る

自軍の塹壕は数秒で、ネズミで埋まる


「うわぁぁぁぁ」

兵士達が叫びながら塹壕の外に走るが、出れば銃撃された。

敵軍はマスクをして、こちらを狙っている。

塹壕にいれば、ネズミたちは安全な場所に隠れようとする。

人間の服の中にも入ろうとする

もちろん体内にも入ろうとする

本能的なものなのだろう

生きたまま食われる兵士達で、陣地は壊滅した。


敵軍も同じ経験をして

両軍の司令部は、戦争継続は無理と判断をした。


今はもう平和の時代

広場の真ん中に、ネズミのモニュメントがある。

ネズミは平和の象徴だ。

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