いたみ

るーぷ

いたみどめ

4月と言えば新年度の始まり。

まるで、私はもうこの先には進まないという意思表示のように、3月の31日に彼女は亡くなった。公的な発表では病死ということだったけれど、真相はわからない。少なくとも私たちにはその文言を信じていくしかすることはなく、それ以外の可能性に思いを馳せようというのは、人間の中にあるドラマを創り出そうという卑猥な欲求によるもののようにも思えた。私はそんな邪さを自らのうちに見出すと、思春期に顔からむくむくと湧き出たニキビのように潰して回った。

人さし指を滑り落ちていく白い膿。

ティッシュで丸めてゴミ箱に落とす。

この一連の流れにこそ、私の中の追悼の念の真っさらな輪郭が浮かび上がっている。だから、ニキビを潰すことをやめられないのかもしれない。


ぼんやりとTwitterを見ていると、あれからもう5年以上の月日が流れていることを知って、移ろいの残酷さを、夕暮れに世を包む明かりが徐々に締め出されていくのを見るように、次第に私を包んでいく夜風として纏った。

命日に送られる追悼のツイートは年々翳りを見せて、数を減らしている。かと思えば、最近あなたのことを知りました、という人が涙を見せたりもする。あれほど悲しんでいたあの人たちも、なんだか今は元気そうで、あのとき何も知らなかった人がようやく追いついてきて悲しみに震える。そしてまた通り過ぎていくのだろう。


私はどちら側だろう。

この数年間、彼女のことを思い出したこともなかったのに、なぜか

マジックアワー、

宇宙色とピンク色のグラデーションの化粧を包みながら、

その下ではポツポツと蛍光灯が窓から漏れた営みの証が瞬いていて、

目いっぱいをその景色で覆ったとき、

彼女の最期のツイートがふと過ぎった。


「もうすぐ引っ越す」


と言った趣旨のツイートが、文字通りだったのかどうだったのか。少なくともそのツイートの数日後に彼女は亡くなった。そのツイートに添えられた一枚の写真と同じ景色が、いま、私の眼前に落とされて、あのとき呆然としつつ涙さえ出なかったのに、今になってようやくだった。


涙は、水面のように静寂として横たわる世界の中に吸い込まれて波紋を生じた。すると、夜の帳が下りて、空にはなんの嘲りもない広大な宇宙と、星は小粒のストーンに彩られたネイルのよう。どうしてか身近に感じられる。


手を伸ばしても届きそうで届かない、宙吊りの感情論。

ゴミ箱の中の、醜悪な祈念。

何年経っても更新のないアカウント。


それでもまだ確かに、その部分だけ切り取られたように光っている、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いたみ るーぷ @poor52_73roop

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る