第3話 美術部?、駒井翠
翌日になり、紫乃との明日の約束を忘れないようにと思いながら学校へ向かう。今日は午後から入学式だが二、三年は通常通り八時半からの登校である。しかし、まだ授業が始まるわけではない。配布物や諸連絡、入学式の準備をするだけなので楽な一日になるだろう。
そして想像通りに時間が過ぎ、入学式準備の時間になるまでの間、しばらく教室内で自由時間ということになった。
俺の高校では二年に上がる時にクラス替えが行われるため、この時期の教室では自己紹介や質問が飛び交う。そして俺の席の左斜め前でもひときわ大きい声の二人組の女子が話している。
「リカさん、よく表彰式で見るけど、陸上部だよね! まじすごいらしいね~!」
「名前呼び捨てでいいよ! でも県大会では三位までしか行けないんだよ~。 マナのこともテニス部で表彰されてるの見て知ってたよ~。」
「十分すごいって~。 仲良くしようね~!」
女子は勢いがすごいな。いや、運動部は全員こうなのか。
「ミドリ…さんだっけ?なんの部活やってるの?」
マナという子が、僕の隣の席で鞄の整理をしていた女子に尋ねる。肩よりも少し長く伸びた茶色のストレートヘアのこの子はミドリというらしい。
「わ、わたしは美術部です!」
「あー!美術部ね!美術部の人始めて見た(笑)。」
「まあ、人少ないからね!」
「そうらしいね~、はははは!」
…ん?マナという子が笑っているのに腹が立つのはともかく、美術部?ミドリ?訳が分からない。
まさか
読書をしようと思っていた俺は盗み聞いた内容のせいで読書どころではなかった。
「私、ちょっと遅いんだけど中二のときに魔法使えるようになってさ~。」
マナが耳の痛くなる話を始める。
「ミドリはどんなの使えるの?」
「えーと…、ちょっと説明が難しいな。なんか複雑でさ!」
「そうだよね~! 言葉で表しにくい魔法もあるか!」
「ちなみに私は嫌いな相手の体調を悪化させるっていう(笑)。ださいよねー。」
マナこわっ。なんだこいつ。関わるやつみんな機嫌とらなきゃいけないじゃん。
「中二のとき彼氏に浮気されてさ~。問い詰めたら反省してるように見えたから一回許したんだよ。でもショックでしばらく眠れない日が続いたんだけど、またしばらくしたら浮気発覚してさ。私が眠れないでいるときあいつ違う女と寝てやがってんだよ。それで思い出してイライラしてたらそいつがしばらく体調不良で欠席になるっていう(笑)。」
どう見ても魔法というより呪いじゃないか。しかも、一回彼氏が体調不良になったくらいで魔法の力だって確信できるわけないし、まさかこいつ、何回か試したのか。
いや、それより新・美術部発足事件(仮)のことが気になる。俺たちハブられてたのか…?
そして隣の会話が落ち着き女子二人が席を立って他のグループの所へ行く。そこでチャンスだと思い勇気を振り絞って一人になったミドリへ声を掛けた。
「あ、すみません。隣の席の
「あ、はい!
「あのー、
手始めに探りを入れる。
「あ、え、えーと、…実は何もやってなくて。」
あれ?どういうことだ?せっかく部活の話題をふったのに、無所属とこられると、ああそうなんですね!で終わってしまう。その後に訪れるであろう沈黙に俺が耐えられるわけがない。困ったな。
よし、さっきの会話聞こえてましたって正直に伝えるしかない。
「あ、あれ? 実はさっきなんとなく三人で話してるの聞こえてしまって!」
「あ…。」
彼女は言葉に詰まらせる。
「俺も美術部なんですよ! それはともかく、新しく美術部ができてるの驚きで!」
「うっ…。」
俺なんでこんなテンション高いやつみたいな話し方になってんだ。そりゃ初対面でこんな勢いのやつ引くよな。早く会話を終わらせよう。
どんな絵を描くのか聞く。そして写真で作品を見せてもらい、上手ですねと言う。コンクールとかお互い頑張りましょうねと言う。
よし、それで終わるはず。
「翠さんってどんな絵を描くんですか?」
「……美術部っての、ウソなんです…。」
「え?」
「さっきは場のノリというか、みんな当たり前のように部活の話で盛り上がってたし、無所属は珍しいから言いにくくて…。」
「なんだ、よかったあ~、新・美術部なんてなかった。ハブられてなかった~。」
「はい…? 何のことですか?」
「ああこっちの話だから。それより美術部って嘘ついて、さっきの人たちにそのうちばれてたらどうしてたのさ。」
「それは…辞めたって伝えるしかないです。」
「まあそうか。でも、運動苦手とかなら書道部とか吹奏楽とか、それこそ美術部とかの文化部に入る選択肢はあったんじゃないかな?」
「運動は決して苦手ではないんですけど…気が進まなくて。文化部は才能がないだろうから無理かなって。」
「そんなことないと思うな。俺なんて一年間つきっきりで教えてもらっても上達しないのに続けてるし。あと、美術部は顧問が顔出さないのもポイント。」
「ふふっ。それなら私にもできそうですね(笑)。でも、顧問来ないなら青葉くんは誰に教えてもらってるんですか?」
「まあ…、それは同級生の紫乃って女子でさ。」
「あ…、じゃあ物凄く上手い、のかな?」
「正直すごい。でもさ、女子入るってなったら喜ぶんじゃないかな。」
「たしか…、部員少ないんだもんね。」
「あー、それもあるけど。紫乃が女友達と話してるの見たことないからさ…。」
「教えてもらっておいてちょっと失礼じゃないですかー? でも青葉くんの話を聞く限りだとなんか悪くない雰囲気かもしれませんね…。」
「もし興味あったら見学に来てもいいし。次の部活は…、うーん月曜かな。」
「部活動って平日だけですか?」
「まあ、基本はそうだな。あの、もし入るってなったら連絡先交換してもいい? 部長の紫乃、あいつ携帯持たない主義だから…。」
「紫乃さんってもしかして変わった人…? それよりわたし、けっこう前向きに入部考えてるので連絡先いま交換してもいいですよー!」
「お、ほんとに! じゃあ交換するか。」
ピロローン
連絡先を交換してすぐに翠からアホな顔したネコが”よろしく”といいながら踊っているスタンプが送られてくる。するとちょうど担任教師が時計を確認して体育館へ向かうように号令をだす。クラスメイトたちがぞろぞろと体育館へ向かい始めたので俺も廊下に出た。どうやら並ばずに各自で行くようだ。
そして俺がいつも通り一人で行こうとした時、袖を後ろから引かれる。
「青葉くん!まだ他に友達作れていなくて…。一緒にいきませんかー!」
彼女は
根は明るいけど自信がなさげ。
期待の新入部員である。
もしも魔法があったなら エナガウミ @ra-rarari
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