4

 草の根元に穴が空き、地竜の子が顔を出していた。ひゅーひゅーと天空の魔素を吸っている。


「い、いつまで続くの、ぐぅわぁぁあ」


 聖騎士は仰向けに座らされ、暗黒騎士は右脚を担いでいた。その指は聖騎士のももうらうちももの間をつまみ、引っ張っている。


「貴殿の身体からだととのうまでだ。今引いているここは、腰の内部にまで繋がる部位だ」


「ま、待て。う、ふぅ、ふぅ、う」

 聖騎士は止めようとした。


「何を待つのだ」

 暗黒騎士は止めずに問い返す。


「ふぅふぅ、ふぅ。そ、そも、そもそも、光、で癒せばいことに、気がつ、いぃぐぅぁあ」


「駄目だ」

 暗黒騎士は聖騎士の右脚を下ろし、左脚を担いだ。


「何が、駄目なのだ」

 聖騎士から涙があふれ出している。


「魔法でいっとき、肉を癒したとしても、歪みが残っていては効果が薄い。それが更なる歪みを産む。全身の歪みがなくなるまで続けるぞ。さあ、下肢が終われば、次は上だ」

「ぐぅわああぁぁぁあ」



 聖騎士がくたび、聖騎士の歪みは、消えていった。




「何故だ」

 痛みが薄くなり、聖騎士は余裕を取り戻す。


「何がだ」

 暗黒騎士は、元から落ち着いていた。


「あれだけ痛みがあったのに、貴様にあれだけ痛い思いをさせられたのに、なぜ身体が軽くなる」

 聖騎士は、終わった部位を動かしながら言う。


「だから先程から言っておるだろう。貴殿の身体が悪い。そもそも悪くなければ痛みなどは出ないのだ。先程までの貴殿は、痛みの少ない動きしか出来ないでいた。それが解消されただけの事」

 聖騎士の首を触りながら暗黒騎士は答えた。


「しかし」

いか」

 言いかける聖騎士を制し、暗黒騎士は言葉を続ける。


「我らの最も自然な姿は脱力だ。だが、貴殿らの動きは力みと武器の重みに頼るもの。歪んで当然なのだ」

「それは貴様も同じではないか」

 聖騎士は口を尖らせた。


「多少はな。しかし、我の槍は貴殿の剣よりも重い。それに我は盾も有しておる。なのにだ。貴殿の方がそんもうが激しい。これは、明確な差ではないのか」


 暗黒騎士の言葉に聖騎士は、言葉を返せない。


「だがまあ、力量の差とは思わぬがな。触ってみてわかった。貴殿の方が我よりも、りょりょくが上回っている。そして先程の貴殿の料理、旨かった。どちらの積み重ねが上かは、戦ってみぬ限り、わかるまい」

「戦う、のか」

 聖騎士は小さく呟く。


「その為に我らは此処にいるのだろう。しかし、それは日を改める事になりそうだ」

 暗黒騎士は口を横に広げ、にっ、とした。


「なに」

「貴殿らは動きに力みを必要とするのだろう。今の状態では戦えまいて」

「そうだな」

「何を嬉しそうな顔をしておるのだ」

「貴様こそ、嬉しそうだぞ」


 敵国の者の思うがまま、身体を良いようにもてあそばれたと云うのに、聖騎士は屈辱も感じずに、ふふ、と笑う。

 暗黒騎士も、ふふふ、と笑った。



 土から這い出てきた地竜の子らがきーきーと鳴きわめいている。



 二人の騎士は今日も、戦わなかった。


 

 




 

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