10.紫色した蠢き
「――第1ピリオド、これにて終了!!」
セバスチャンの声がコロシアムに響き、群衆の歓声は大いに盛り上がった。誰もがこの結末を予想せず、会場で多くの紙吹雪が舞い上がる。
――ブソク公女は心臓を喰われたショックで膝が折れ、出血に伴う意識が遠のき、受け身も取れず倒れ込み、大量出血によってショック死した。
武器を構えていた少女たちも、その惨劇を見て戦意を喪失してしまい、彼女たちの息の根を止めるべく近づいてきた血まみれの少女に失禁すらしていた。
そして、何の迷いもなく、慈悲もなく、遠慮もなく、戸惑いも後悔も嘆きもなく、――少女は二人の首を撥ねた。
アリーナに残された少女は、全身を返り血で濡らし、横たわる死体には興味も見せず、退場口へと足を向ける。
出迎えたセバスチャンが肩に純白のマントを掛け、勝者を労っていた。
「第1ピリオドの勝者は、――
「はぁあ――!?」
会場に告げられる、勝者の名前。セバスチャンの声がそれを数多の人々に届けられた。その中で、レベッカが疑問の声を上げる。
「オービのムラサキ=ブシキは、
「ちょっと、やめなさいレベッカ!」
思わずレベッカが走り出す。たった今告げられた勝者の名前と、それにより歓声を浴びている少女が合っていない。
その事実と、先程の見せつけられた実力からして、彼女が何をしたのかは想像に難くない。
だが、その事実を野ざらしにして良いものではない。使命感や正義感とは別にして、レベッカが近くにいる近衛兵へと詰め寄った。
「近衛兵、今すぐセバスチャンに伝えなさい! あの娘は偽物よ!」
「あの娘、と言うのは?」
「たった今勝者として名前が上がった娘よ! あの娘は決してオービのムラサキではないわ!」
「――何を騒いでいる」
勝者と少女の食い違いを近衛兵へ伝えようとレベッカが声を上げていると、セバスチャンのように執事姿をした、白髪頭をオールバックにした初老の男性が近付いてきた。
「はっ! ゴンザ様、こちらのレベッカ妃からセバスチャン様にお話があるようでして」
「なら私が聞こう」
丁寧でありながら、無駄のない佇まいで、レベッカが近衛兵の間に入り込んだ男の胸元のバッジをみて、彼も第一級執事であることに気付いた。
「私は第一級執事のゴンザと申します。何用でしょうか、レベッカ様」
「セバスチャンと同等の執事ならあなたでいいわ。先程勝者に挙げられたオービのムラサキは偽物よ。私の会ったムラサキはもっと大人だし、ええっと。もっと性格が悪そうで、キモノを着た女よ」
「情報がとてもじゃないが主観的過ぎでございます。あなた様はムラサキ様とはお知り合いで?」
「いえ、知り合いってほどじゃないけど。今日ここに来る前に少し会話をした程度よ」
「でしたら、――
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