11.あなたはどっち?
レベッカの中で混乱が渦を巻く。
第1ピリオドで勝者となった少女と、オービの貴族ムラサキ=ブシキが明らかに別人なのに、目の前の執事はその問題を文字通り無視をした。
何も問題はなく、式典自体が滞りなく進んでいると。
なら、一人して騒いでいるレベッカは何なのか。それすら取り入ろうという態度がまるでなかった。
「はいはいはい。いまのでこのお話は終わり。ベッキーちゃん、こっちにいらっしゃい」
横槍を入れたマグライトがレベッカの腕を掴み、ゴンザから引き剥がす。人が少ないところまで引っ張られたレベッカが、あからさまに不愉快だとマグライトの腕を払った。
「どういうつもり?」
「助けてあげたんだから感謝なさい。今のはあなたの失策でしてよ」
「はあ?」
「このイベントで、誰が勝者なんて関係がないの。あそこで勝ち抜いた者だけが
レベッカが辺りを見渡しても、他の人間は何も疑問に思うこと無く過ごしている。
ましてや、
この中で、異質なのはレベッカ一人だけだというマグライトの言葉に困惑している。
「今勝ち抜いたあの娘が誰であろうと、
――なら、本物のムラサキはどこへ行ったのだろう。
「さっきの娘の能力を見るに、十中八九死んでいるわ。それも、――心臓を喰われてね」
「あなた、よくも平然とそんなコト言えるわよね」
「紛れもない事実でしてよ。あの娘は『
「先から言う『華』って何……?」
「魔法少女として開花している令嬢のことよ。逆に魔法を
「つまり、――『華』以外に勝ち目なんてないじゃない」
今の話で、レベッカ自身が納得した。
先程の戦いで、魔法を使わなかった――いや、使えなかった4人は、為す術もなく敗退した。
若い命を群衆の前で散らし、その一生を終えたのだ。
その中に――『種無し』のレベッカがいたとしてもおかしくはない。
「まあ、そうかも知れないけど、勝負事に絶対はありませんわ。あなただって、
「今日の日まで魔法に関わらない生活をしていたというのに? あなたが言ったのよ。ゲーナインにはマナすらないって」
そう――マナとは大気の魔力そのものである。
それがない地域では、いかなる者であっても魔法は使えない。マナがあれば、虚空から火を発生させたり、空を飛んだりと、超常的なことが平然とできる。
第1ピリオドでのブソク公女のように、空気を圧縮して弾丸のように射出することもできる。
だが、そのマナがない環境では、いかなる人でも平等だ。体内で生成できるオドは、そのほとんどが生命維持のために消費される。
一流の魔法使いであっても、その量が一般人よりわずかに多く、効率的に使えるに過ぎない。
だからこそ、マナのない地域では機械技術が発達する。
レベッカの故郷も、マナが無い故に機械技術が発達し、彼女の父コクトーが技工士として王国で認められるほどの実力者なのも、それしか取り柄がなかったからである。
「使う機会がなかったから、発現しなかっただけかもしれないわ。それに、あなたはきっと嫌でも開花しないといけないはずでしてよ」
そうでなければ――レベッカの迎える結末は一つしか無い。
「マグライト。どうしてあなたはここまで私に手を貸すの?」
レベッカの中で湧き出た疑問。この式典の中において、彼女が理解していないことのすべてをマグライトから教示してもらっていた。
田舎育ち故の無知で、聖都に来るまで一つでも行動を間違えていたら、もしかしたら故郷が悲惨なことに成っていたかもしれない。
順番が違えば、第1ピリオドでレベッカがあの舞台に立たされていれば、きっと今となっては死んでいたかもしれない。
そんなレベッカに、生きる残る可能性を見せているのが、マグライトただ一人だった。
「そんなの、ワタクシの戯れよ。あなただけ条件が違うのがワタクシのポリシーに反するだけ。あなたの出番で、無残に敗退されるのはさすがに面白くないもの。ワタクシに楯突いた大馬鹿者が恥以外のものを晒すのは許さないわ。それに、直にわかるわよ」
「?」
「お話は終わりよ。そろそろ第2ピリオドが始まりますわ」
マグライトは話をそこで切り上げ、アリーナの見えるところまで歩みを進めた。
アリーナでは、すでに第2ピリオドの準備が完了し、新たな令嬢たちが6人表に出されていた。
かかげられた数字は『1』。今回も、生き残るのは一人だけ。
命を散らす戦いを告げる合図が闘技場に響き渡る。
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