09.散りゆく花弁
「――あは。あなたたち、この銃で殺されたくなかったら、
ブソク公女が、アリーナに残された三人に笑いながら言い捨てた。明らかに、戦力差を感じるほど、手に持った魔銃がプレッシャーを与える。
「一人だけは殺さないで助けてあげてもいいわよ。あたしって、やっさし~。助かりたかったらさっさと動きなさい。さあ! さあ! さあ!」
「――一人だけって、相変わらず性格が悪いのね、ブソク」
「どういうこと?」
「貴賓席の向かい側の壁を御覧なさい。大きく『1』ってあるでしょ。今回のピリオドの選抜人数よ」
つまりは――どうあがいても、一人しか生き残れない。
「そう。仮に三人でやりあって一人が残っても、きっとその場で殺すでしょうね」
一人が近場にあった剣を構えると、それに合わせるようにもう一人がハンマーを拾った。
二人の対峙をニヤけながら見ていたブソク公女が、――もう一人の少女へと視線を送る。
「あは。あなたはこの銃の錆になりたいのね?」
ブソク公女が銃口を向けるのは――レベッカが中央大通りで遭遇した少女だった。
手には何も持たず、ブソク公女の前に立つ。身長差も大きく、力比べでも到底勝てそうもなく、魔銃ならば尚更である。
しかし、その銃口を前にして――少女がニタリと、笑った。
「っ――!」
殺気にも近い微笑みに、ブソク公女がとっさにトリガーを引く。
瞬速で射出される魔弾が空気の壁を貫き、少女までの距離をゼロにする。正確に狙いを定めた弾丸は少女の頭蓋へと向かい――不可視の物体に阻まれた。
「なん、ですって――!?」
戸惑いの声を漏らしたのはブソク公女だけではない。レベッカのそばで戦いの行く末を見ていたマグライトや、周囲の令嬢からも同様のリアクションをしていた。
それほどにも、ブソク公女の弾道は少女の死を容易に想像できるものだった。そして、それを打ち破った少女の能力を判断できかねている。
「ちっ――! 『
とっさにブソク公女が後方に飛び退く。迷いなく唱えるは、風属性の魔法。そして、再度向けた銃口に、ブソク公女の周囲に詠唱を持って空気のねじれが発生した。
ねじれの正体は――
その数にして、五つ。ブソク公女が手に持つ拳銃のトリガーに合わせ、圧縮された空気の弾丸が、少女の肉体を貫く刃となる。
刹那、
「――あなた、
ブソク公女の背中に、面前にいたはずの少女が飛び乗っていた。
クスクスと笑い、ブソク公女の頬を舐める。その行為に、ブソク公女に寒気が奔った。ブソク公女の払う腕を避けて間合いを開ける。
「ちっ、薄気味悪いガキね。今度こそ、この銃の錆にしてくれるわ!」
ブソク公女の異変に、離れたところで刃を交えていた少女たちの動きが止まる。群衆の声も止まり、ブソク公女の声だけがアリーナに残響した。
周囲の人間の目線は――少女の
「えっ――?」
周囲から遅れた形で、ブソク公女が少女の手に握られているものに気付いた。
真っ赤の物体が、液体を撒き散らしながら脈動している。手のひら大の
「い、いあやあああああああ! いたい、いたいいいいいいいいいいいい!」
ブソク公女の絶叫が響き渡る。彼女の
自身の背中から感じる激痛と、溢れ出る液体に思考が削られていき、その眼で確かめようとするが――完全な死角となっているためか、自身の尻尾を追い求める犬のようにグルグルと廻りだす。
「いあ、返して! あたしのっ! それっ! かえしてぇえええええええええええ!」
ニタリと少女が笑う。手に持ったブソク公女のそれを口まで近付けると、
「えっ。まって、まってまってまってまってまってお願いやめてダメダメダメダメダメッ!!」
口を大きく開け――
「あああああああああああああああああああああああ! あたしの
――ペロリと。一口で飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます