第6話
初日から二日が過ぎた。
コハルが、すぐに「取材」に向かわなかったのは、八尺洞窟には人が入らないように地域の人達による見回りが巡回しているからだ。
所が、その日は八尺坂町内会での旅行があり、見回りも居なくなる。
監視カメラも置いていないので、誰かに気付かれる事もないのだ。
コハルは、それを待ってこの町に宿泊していたのだ。
「それにしても、漫画の為に犯罪スレスレの事するなんて、ここまで来たら呆れを通り越して誉めるしかないわね………」
「ふふん、それほどでもありますわ」
「誉めてるけど誉めてないわよ」
コハルと、その護衛として同行したはみだしテイカーズの二人は、件の八尺洞窟の前に来た。
人拐いの妖怪………もといモンスターが潜んでいるという疑惑があるだけはあり、ひんやりとした空気が洞窟の入り口から流れてくる。
その先に恐ろしいモノが待っていると感じたのか、アズマは久々に背筋に寒気を感じた。
大昔にホラー番組を見た日の夜は、こんな感じだったとも思い出していた。
とはいえ、依頼金を貰ってしまった以上、スカーレット共々もう後には引けない。
テイカーが仕事である以上、二人には依頼を全うする義務があるのだ。
「それじゃ、行きましょうか、アズマ君!」
「はい、スカーレットさん!」
二人は、己の手に握ったDフォンを構え、スイッチを押す。
システムが起動し、装備の展開が始まる。
『TAKE UP!』
『TAKE UP!』
「ほうほう、これが………」
一秒も掛からずともにその姿を変えたスカーレット達は、まるで日曜朝にやっている「お面ライダーリヴァイブ」のようにも見えた。
………もっとも、主にスカーレットの格好は変身ヒーローの文脈で語るには、いささか刺激的すぎるが。
「それじゃ、早速立ち入り禁止区域のガサ入れに行きますか」
「あの、ちょっと待ってくださる?」
覚悟を決めて、いざ八尺洞窟に突入!しようとした所で、コハルが呼び止めた。
まさか自分で言い出しておいて今更怖じ気づいたのか?と思ったスカーレットだったが、コハルの左腕に輝くモノを見て、その感情は驚きに変わる。
「ふふん♪」
「あっ!Dフォン!!」
コハルの左腕には、なんとスカーレットやアズマのそれと同じ、Dフォンが輝いていた。
「ほら「マガリ」ってバトルシーンも多いですし、参考になると思いましたの………それにいくら護衛があると言えども、ある程度は身を守る手段も必要ですわ」
そう言うとコハルは、慣れた手つきでDフォンのシステムを起動する。
恐らく、資料にする為に何度か
彼女なら、それ位やりかねない。
「それでは………!」
『
光が広がり、コハルの姿が変わる。
文学熟女から、戦士の姿に………。
………………
………さて。
スカーレットやアズマがそうであったように、コハルが
では今回は特別に、コハルの装着プロセスを、スローでもう一同見てみよう。
『
Dフォンの装備展開システムが発動すると同時に、コハルの周囲に光が広がる。
光の中で、コハルは変わる。
スカーレットのそれが爆発するように弾け飛ぶ物である事に対して、どうやらコハルの場合は「煙」をイメージしたのだろう。
コハルを包んでいたドレスもベールも、高速で風化するように溶けて、黒い風となって彼女を覆う。
露になる、110cmの豊満なバスト。
少々緩んだ、70cmのウエスト。
いい肉付きの、90cmのヒップ。
餅のように柔らかく、また陶器のように白い女体を、黒い風が覆う。
それが肌に張り付き、やがて形を変える。
胸元が大きく開いた、着物のようなデザインの黒い服。
けれども下部は大きく開き、その合間からミニスカートが除き、合間から黒いガーターベルトに覆われたムチムチした太ももが伸び、銃口のついた厚底の草履を履いている。
顔に黒い風がかかったと思うと、ベールの代わりに黒い縁のメガネがかけられる。
袖の中から二丁の銃が飛び出し、両手に握られる。
最後に広がった髪が
………………
降り立ったその姿は、パワーワード表現をするなら暗黒面に落ちた花魁とも、和風の魔女とも言えた。
………もっとも胸元を大きく開くデザインの着物は、花魁などではない低級の娼婦の格好。
だが現在においては「花魁風」として認識されており、
キャラクターデザインに取り入れられたり、
成人式にその格好をした新成人が怒り狂ったネット民のサンドバッグにされていたりする。
しかしながら、黒を基調として紫をアクセントに加えたそれは、花魁の華やかさとは真逆の印象を与える。
各部に、蜘蛛の巣や蜘蛛そのものを意識した意匠が入れられていれば、なおの事。
「銃………あなた、
「ええ、
両手に握る、小型のマシンガン型の
両方黒く、赤いラインの入った「ダゴン」と、青いラインの入った「ハイドラ」。
両方、マジックガンの大御所である「ルルイエ・インダストリー」から出ている名銃。
「
そして、コハルの
が、それに到達するまでの鍛練や努力は凄まじく、実際にイェーガーの高みに至ったテイカーは、今でも数える程にしか居ない。
テイカー初心者のアズマにも、イェーガーになる事がどれだけ凄い事かは解る。
ので、コハルのステータスがどの程度の物なのかと、Dフォンで確かめてみた。
すると。
「………な、なんですかこれ?!」
「どれどれ………嘘ッ!?何これエグッ!!」
アズマに続き、Dフォンを覗き混んだスカーレットもまた、驚愕した。
基礎スペックは、以下の通り。
レベル、40。
HP、120。
MP、40。
攻撃力、120。
防御力、120。
スピード、160。
魔力、40。
特攻、120。
装備。
頭、プレデターグラス(メガネ)。
胴、ジョロウグモ(着物、簪)。
腕、カーボンガントレット。
肩、なし。
足、ショットブーツ。
HP、120。
MP、40。
攻撃力、120→130(+10)。
防御力、120→150(+30)。
スピード、160→200(+40)。
魔力、40。
特攻、120。
「ふふふ、貴女程ではありませんわ、炎の魔女さん?」
コハルの発言に、文字通りの謙遜があるとは思えなかった。
仮に謙遜があったとしても、ここは日本。
テイカーに対する目が厳しい国で、ここまでの装備とスペックになる事を考えると、彼女がどれだけ凄いかは解る。
アズマだけでなく、「天才」というものはいるのだ、悔しいが。
「それでは………取材に参りましょう♪」
ジャコン、とコハルがダゴンとハイドラを構えて笑う。
はみだしテイカーズに、コハルを加えた三人のパーティーの眼前で、八尺洞窟はその暗い入り口を開けていた。
まるで、獲物を待つ肉食獣のように………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます