第4話 師匠と弟子-1

 先輩と自分が出会ったのは、十一年前のことだ。

 ある違法な研究所をドラゴンとその乗り手たちが発見し、襲撃したときにいた、黒龍との契約者。

 それが自分だ。

 あそこでは、主に【魔力持ち】を後天的につくり出そうとしていた。

 【魔力持ち】は、ドラゴンライダーと人間の女との間に生まれるが確実ではなく、【魔力持ち】同士は確実だが、なかなか子を授からない。

 魔族に対抗するために、人工的に【魔力持ち】を安定してつくり出すことができれば、という思想はわからないでもない。

 

 おまけにさらに頭のおかしい一派もいて、こいつらは救世を為せるだけの人間、【神の子】とやらをつくろうともしていたのだ。

 世界がここ一つだけというはずはなく、ここ以外の次元には【神】すらもいるはずだという持論を持つ学者先生どもだった。

 コズミックホラーじみた存在に侵略されかけている星だけあってか、人間の中にも相当に頭のネジを飛ばしているのが混ざっていたのだ。

 別次元の存在を降臨させようとか、マトモじゃない。

 仮に降臨できたとして、何故そいつが自分たちを無条件に救ってくれるとわかる。その確信を、何故持てた。

 

 マトモじゃない彼らは、マトモじゃないなりに世界を救いたかった。

 救おうとは、していたのだ。


 ただし、やり方がまずかった。

 非道だった。 

 

 攫ったり買ったりして連れてきた子どもらに高濃度の魔力を浴びせたり、魔力結晶を食わせたり、訳のわからん降臨実験に引き込んだり、果ては魔族の解剖と人への転用まで試みていた。

 自分があそこで生まれた子なのか、攫われた子なのか、売られた子なのか。それすら自分ではわからない。

 気がついたらあそこにいて、アジィザという名前以外何も与えられていなかったからだ。

 記録上は赤子のころからいたことになっており、あそこで生まれたも同然だ。

 

 子どもの何人かは、そうやって弄くり回されているうちに死んだ。悲しかったし、あそこにいた大人共を一人残さず恨んだ。

 そんなところで何故自分がドラゴン乗りに成れたのかといえば、実験の一環だった。

 ドラゴンの卵を人工的に孵化させようという実験で、子どもたちを順に卵に触らせるというものがあったのだ。

 自分の番が来たときに、コクヨウは自力で殻を割って腕の中に飛び込んで来た。

 ドラゴンの雛は卵の中からでも乗り手を選び、ふさわしいと思えるだけの人間と出会うと、殻をブチ割ってでも出てくるという発見が成された瞬間である。

 思い返すだに、生まれ方がアグレッシブ過ぎる。メンタル貧弱火吹きトカゲのクセに。

 

 こうして狂喜乱舞する研究者共の中、自分はドラゴンライダーになったわけだ。

 あのときの自分には、【前】の記憶なんてなかった。

 懐っこい子犬のように甘えてくるドラゴンをすぐ取り上げられた歳相応の自分は、周りが騒ぐ意味がわからなくて、ただひたすらにその日の晩飯の心配ばかりしていたと思う。

 実験の投薬次第で、飯が食える日と食えない日があったから。

 

 そんな馬鹿騒ぎから十日も経たないうちに、あそこはドラゴンとドラゴンライダーたちに踏み込まれた。

 子どもの売り買いは足がつきにくいが、流石にドラゴンの卵の盗難は上手く誤魔化すことができなかったのだ。

 探究心で身を滅ぼした間抜け共には、ざまあみろと言うべき末路だ。

 

 研究所を襲撃したドラゴンライダーたちの中に、先輩はいた。

 まだ十一歳の少年で、見習い中だった先輩は、修行の一つとして師匠に連れて来られていた。

 実際に前に出て戦うことよりも、戦いから目を逸らさない精神の鍛錬のほうに重きを置いた修行だったそうだ。

 

 だが、当時の先輩は十一歳。

 単独行動をしていたとき、盾になれと引きずり出されてきた顔色の悪い小さな子どもと弱々しいドラゴンを、襲撃に狼狽えた研究者が殴りつけ蹴り飛ばす光景に遭遇したのだ。

 それを見て、有り体に言って先輩はキレた。

 鉄面皮はそのままに、ブチ切れたのだ。

 

 乗り手の怒りを汲んだシランが吐いた炎は研究所の一部を融解せしめ、ドラゴンの魔力と、少年とはいえドラゴンを駆る者の芯からの怒りを間近に浴びた研究者は失神。

 後には、何がなんだかまったくわかっていないながら、幼龍を胸の前に抱えて身を丸め、縮こまる赤毛赤目の褐色の肌の子どもと、その子どもに縋り付いてミィミィ鳴いているちっぽけなドラゴンが残された。

 

 涙も流せず、ガタガタ震えるしかできない子どもの、赤い瞳の中に映った己の姿を見た途端、先輩は頭から氷水を浴びせられたように感じたそうだ。

 怒りなんて、子どもの怯えを前に跡形もなく消えてしまった。自分は子どもを怖がらせて何をしているのだと、我に返った。

 少年のドラゴン乗りはその場で膝をつき、後退ろうとする子どもに手を伸ばして、骨が浮いた背を撫でた。

 

「だ……大丈夫、だ」

 

 何やっとるんだこの馬鹿弟子、と慌てて駆けつけてきた師匠にぶっ飛ばされるまで、先輩は、小さなドラゴンを胸に抱きしめた子どもの背を撫で続けていた。

 だいじょうぶ、大丈夫だから、おれは怖くないから、お前たちにひどいことはしないから、とそればかり繰り返して。

 口下手は、既にこのころからであったらしい。

 

 言うまでもないが、その子どもが自分で、子どもが抱え込んでいたドラゴンが、コクヨウである。

 

 【前】の記憶が降りてきたのも、このときだ。

 シランの炎の熱を間近で感じたショックを引き金に、頭の中に知りもしないはずの光景が蘇り、ひどい頭痛が起きた。

 自分は先輩に怯えたというより、突如頭の中に降って湧いた記憶に怯えたのだ。まぁ、龍が吐いた豪炎と無表情で怒り狂う先輩が、怖くなかったのかといえば嘘になるが。

 

 連れて来た見習いは怒りで暴走して建物を炎で溶かすわ、その見習いが助け出した子どもには【印鱗】が出ているわ、黒いドラゴンは怯えて喚きまくるわと、予想していなかった出来事にドラゴンライダーたちは頭を抱えた。

 

 【印鱗】がある以上、子どもはドラゴン乗りにするしかない。

 するしかないのに、見習いの陰に隠れて視線もろくに合わそうとしない子どもには、さぞ困っただろう。

 やらかしたのはうちの馬鹿弟子だからうちで引き取る、と先輩の師匠が名乗り出てくれなければ、一体どうなっていたのやら。

 

 数年後に先輩の師匠が戦死してからは、自分の師匠は先輩になった。

 怒りで我を忘れかけながらも、怯える子どもに不器用に寄り添おうとした少年は、見事に無口無表情口下手な青年へ成長した。

 成長と呼べるのか微妙なところはあるが。

 

 怯えていた子どもも、ちっぽけだったドラゴンの背に乗り、魔族と戦うようになった。

 

 十一年前から続く先輩と自分との関係は、以上である。

 

 先輩はこちらの戦い方をよく知っているし、自分は先輩の戦い方をよく知っている。

 腕試しともなると、裏のかきあいからの新技の応酬に始まり、泥沼化するのが常だった。

 

「あいつら何やってんの?」

「知らん。だが、どうせまたレトがやらかして赤毛のチビを怒らせたんだろう」

「正解よ。だけど、チビはやめてくれないかしら?それだと、わたしまでチビ扱いになってしまうわ」

「はいよ。で、【魔術師】のフェイさんよ。あんたはどっちに賭ける?」

「うーん……ジザにしておくわ。負け越しているけれど」

 

 日が落ちた東野営地の龍舎前、好き勝手にくっちゃべる【魔力持ち】やらドラゴンライダー、一般兵士やらが関係なくわらわら集まって形作った円の中心にいるのは、自分と先輩だった。

 魔力と武器は有り、龍は無しの形式でやる手合わせは、ドラゴン乗りたちの中では一般的なものだ。

 自分も先輩も、武器はただ木を削って作った木剣だ。

 本来の武器は、並みの鋼より魔力の通りがよい魔鋼まこうを素材にした、無骨でひたすらに頑丈なだけの無銘の両刃剣である。

 斧、槍、曲刀などと、様々な武器を使うやつもいるが、自分たちは剣と、あとは弓だけだ。無論魔力で強化した弓だから、破壊力は桁違いであるが。

 だが今回、弓は使わない。使う暇がないのだ。

 

 身を低くするや、自分は地を蹴った。

 体格差があって向こうのほうが上背がある以上、近寄って斬る他ない。

 が、左腕を狙った一撃は、涼しい面の先輩に苦もなく受け止められた。

 即座に木剣を引き、絡め取られるのを防ぐ。

 だが既に間合いは詰められていた。

 中段からの横薙ぎの一撃を跳び上がってかわし、その勢いのまま蹴りを放つ。

 先輩は上半身を逸してかわした。

 

 これも避けられることくらい、想定済みだ。

 

 握った柄から魔力を木の刀身へと流し、踏み込んで突きを放つ。

 澱みなく最小の動きで避けようとした先輩は、しかし、寸でのところで後ろへ大きく跳んだ。

 剣先に、ごく軽い手応え。

 距離を取った先輩は、額に軽く触れ目を見開いた。

 

「斬りかかる寸前のみ、魔力で刀身を精製し、伸ばしたか。お前の剣の間合いを知っている者ほど惑わされる訳だ。……良い技だな」

「きっちり避けておいて何言ってんですか。どうせなら当たってください」

「断る。当たれば負けになる」

 

 無駄にキリッとした面構えで言い切った先輩は、自身の剣を握る手に新たに力を込める。

 そうする仕草にも、隙らしい隙がない。この人は戦いづらくって仕方がないのだ。

 

「……こうか」

 

 果たして、秒で先輩の剣の鋒には魔力刃が形成された。

 一見取り澄ました無表情であるが、よく見れば、ふふん、とばかりに大分得意そうな顔をしている。

 ひくり、と頬が引きつり、気づけば吠えていた。

 

「アンタの!ほんと!そういうとこ!そういうとこが苦手なんですよオレは!」

「何故、お前が怒る?技はともかく精神的に平静を保てないと言うならば、戦いに来る資格はない」

「うるさいですよ!オレと同い年のころのアンタはもっとヤンチャだったでしょうが!てか、成功すんのに三日かかった技を秒で再現されてみろ!キレるわ普通!」

 

 それはキレていいぞぉ、とどこかから野次が飛んでくる。声からして、食堂で飯を多めに盛ってくれるオッサンであろう。

 

「……俺はお前の真似をしただけだ」

「じゃあ、オレが戦いに行くの、認めてくれてもよくありません?てか、何で今更あんなこと言うんですか」

「それとこれは話が別だ」

 

 別なわけがあるかこの石頭、と木剣を握る手に力を込めた。

 

「来ないならば、こちらから行くぞ」

 

 無造作に言った瞬間、先輩の姿が消えた。

 

─────右!

 

 直感に従って体を横に捌き、右に回り込んで剣を振り下してきた先輩の一撃を剣で受けた。

 魔力で補強された木剣同士がぶつかり、赤と蒼の火花が散る。

 負荷に耐えられない木が軋む音が、お互いの得物から聞こえた。

 剣を引いた先輩が、胴を薙ぐ一撃を放つ。避けようとして、伸びて間合いを変えた刀身に強か脇腹を打たれた。

 地面に片膝ついたこちらの額を打ち据えようと迫る先輩の顔面目掛け、自分は足元の泥を掬い取って投げつけた。

 あちらが剣から片手を離し泥を払い除けたその隙に、自分は飛び退って剣を構え直した。

 目を落とすと、木剣の根元に、編みの目状の細かいひびが入っていた。

 遠ざかっていた周りの音が、急に戻ってくる。

 

「毎度のことながら、互いに容赦がありませんね。対人戦闘など、私たちには滅多にないのに」

「わたしたちの敵は、普通のヒトの形をしてるものが少なめだものね。だけどねシャクラ。魔族がこちらに容赦をくれたことなんてないじゃない。そんなもの、どぶにでも捨てなさいな」

「……」

「それに、首や心臓じゃなくて腕や胴を狙ってるあたり、どっちも手加減しているわ」

「だとしても、躊躇いなく弟子の腕を叩き折りにかかるのはどうかと思うのですが」

 

 そこの妖精と貴公子の二人組はちょっと黙っていただきたいと思いつつ、木剣の具合を確かめる。

 木剣がへし折れて、勝敗がわかりませんでしたになるのは御免だ。

 あちらも同じことを考えたのか、刀身全体に纏わせていた魔力を切り、鋒にのみ魔力を集めた剣を顔の横にまで持ち上げる。

 あからさまな突きの構えだった。力技で魔力障壁すらも突き崩すつもりとわかる。

 ただし、来るとわかっていても反応できる速さであるかは、また異なる。

 受けるだけでは止めようがない技と知るだけに、やるしかないと、こちらも鏡写しのように同じ構えを取った。

 

 野次を飛ばしていた周りも、水を打ったように静まり返る。

 

 す、と先輩の体がブレた瞬間、自分も前へと踏み込んでいた。

 引き伸ばされた時間の中、木剣が伸びてくるのがわかる。見える。その先端に集められた魔力の密度の高さも、自分の反応の遅れも。

 歯を食いしばり、前へと跳ぶ。

 光が瞬き、音が遠ざかる。

 

 が、剣と剣が激突することは、永遠になかった。

 

「そこまでだ。双方引け」

 

 両腕で苦も無く二本の木剣を掴み、受け止めている男がいたのだ。

 短く刈られた灰色の髪、瞳は金色こんじき

 フェイの瞳のようなきらきらと零れる砂金の光ではなく、人を狂わせる黄金の色だ。まさしく、そこにあるのは魔性だった。

 

「【蒼】のレト、【黒】のアジィザ。武器を納めろ」

 

 言われるまでもなく、木剣を引いて地に置いた。

 息を整え、自分よりかなり背が高い男の次の言葉を待つ。

 気配もなく近寄り、激突仕掛けの剣を掴んで攻撃を止めさせる、という絶技を容易くこなしたこの男の名は、レグルス。

 最初に人へ言葉を伝えた黄金龍、ナーガバラタと契約した、ドラゴン乗りたちの長である。

 彼の前では先輩もシャクラもフェイも自分も、【魔力持ち】やドラゴンライダーたちですら気圧され、背筋を正さねばならないという気にさせられる。

 

 この時代、ドラゴン乗りたちの間に、細かく明確な階級というのはない。見習いと呼ばれる段階はあるが、そこを抜ければ基本は横一線。

 例外は、長のレグルスと、彼直属の四人のドラゴン乗り、【四翼将】のみだ。

 レグルスと契約しているドラゴン、ナーガバラタは、最も強く、最も長く生き、そして人へ語りかけた始まりの龍である。

 ナーガバラタの三代目の乗り手として認められたレグルスの言葉は、ドラゴン乗りたちに『長』からの『命令』という形で下されるのだ。

 

 自分も、間近でまみえるのは二度目だ。

 彼も【原作】に出てくる人物であり、つまりこれからの戦いで生き残るはずの人間だった。

 四十絡みの外見ではあるが、既に年齢は百を超えた古参兵である。

 

「話は聞いている。【蒼】のレト、【黒】のアジィザの参戦を止める権利は、貴様にはない」

「っ……!」

 

 ぎり、と先輩が唇を噛む。

 巌のように謹厳なドラゴン乗りの長は、小動ぎもしなかった。

 三十年も生きていない人間の睨みなど、物の数ではないのだ。

 

「これは確定事項だ。この二人以外も聞け。……見習いと、その守り手に選ばれた者たち以外のすべてのドラゴン、すべての騎手が次の戦いにおいて必要となる。これまでの中で最も激しい戦いだ。各々、心せよ」

 

 黄金の瞳で辺りを睥睨し、レグルスは宣言した。

 誰も彼もがそこに込められた重みに畏怖され、動けない……というわけではなかった。

 

「反対です」

 

 無表情のまま、否という先輩に、辺りがざわめく。立ち去りかけていたレグルスが、半身を返して、言い放った先輩を視線で射抜いた。

 人垣が揺れた。

 並みの人間にとって、ドラゴン乗りたちの長など、はっきり言って人の型に収まっているだけの、龍に等しい。

 それに真っ向から逆らうなど、あり得ない。

 人間の姿のまま、人間の枠を越えて戦う力を得た者同士の対峙など、彼らにとっては災害に出くわしたようなものだ。

 特にレグルスの気配は、激しい雷を腹に溜めた黒雲に近い。

 

「どういう意味だ。そこまで食い下がるからには根拠を述べてみせろ。【蒼】のレト」

 

 空気がぐんと重くなり、ドラゴン乗りと【魔力持ち】たち以外の顔色が悪くなる。

 頭を上から押さえつけられたような力を、彼らは感じていることだろう。

 相対する先輩は、群青の瞳を揺るがせることもなく、答えた。

 

「根拠は、ありません」

 

 【魔力持ち】たちの何人かが凍りつき、ドラゴン乗りたちは絶句する。それ以外の面子は青ざめた。

 レグルスから放たれる圧力が、一層強くなる。

 ほう、と彼が一歩足を前に進めようとした、その瞬間。

 

「もういいでしょう、先輩」

 

 木剣から伸びた魔力の鞭が、先輩の足元を掬い上げてよろめかせ、

 

「お前はいい加減にしないか」

 

 勢いの乗った回し蹴りが側頭部に叩き込まれ、

 

「はい、お終い」

 

 留めとばかりに、圧縮された風の塊が先輩を押しつぶした。

 

 三方向からの、殺気がほぼゼロの攻撃をまともにくらった先輩は、ぎゅむっと地面にうつ伏せに倒れる。

 ついに敬語をかなぐり捨てたシャクラの蹴りが特別綺麗に決まったらしく、襟首を掴んで持ち上げてみれば、先輩はぐるぐると目を回していた。

 ここまでやられておいて完全に気絶していないのだから、さすがの耐久力である。

 

「お騒がせしました!それでは!」

 

 俵よろしく先輩を肩に担ぎ上げるや、一応レグルスに敬礼をして踵を返した。

 周りの人間はまだ、一体何が起こったのかわかっておらずがやついていたが、こちらが近寄ればあっさりと道を開けてくれた。

 むしろ、関わり合いになりたくないとばかりにぱっくりと道ができあがる。

 先輩の分の木剣を拾ってくれたシャクラと、魔力で浮遊するフェイと共に、人垣の向こうにある龍舎の方を向く。

 向いたところで、重々しく告げられた。

 

「【黒】のアジィザ、貴様には追って任を伝える。心して聞け」

 

 振り返れば、レグルスが自分を見ていた。真っ直ぐに、逃さないとばかりに。

 

「……わかりました」

 

 面倒なことでないといいのに、ときっと叶わぬ願いをして、自分たちは一先ずその場を離脱したのだった。

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