餃子
川谷パルテノン
ワンバウンド
餃子をタレに浸し、白米の上にワンバウンド。すると箸からするりと抜けた餃子は加速。そのまま天井を突き破って遥か上空へと消えた。空いた穴をしばらく見つめる。
「マジか」
餃子が拵えた穴をとりあえず木板で塞いだ。雨漏りしないように。それから日常はこともなく進みに進んで餃子は帰らずじまいだ。あの跳躍餃子が口に入っていたら脳天を突き破ったろうか。たまにそんなことを思った。
誰のせいというわけでもなく仕事が上手くいかずにピリピリとした空気が事務所内を包む。必要以上の会話はなく余裕もない。誰かが口をひらけば肩が引き攣って、そんな緊張状態から緩和されるのは終業後、会社を出てからがようやくだ。
先輩から飯でも行くかと誘われる。断る理由もなくついていった先は中華料理チェーン。
ビールを一杯。先日吹っ飛んでいった餃子の話を披露した。疲れてんだよ、そう言われてムキになったので餃子をタレに浸し、白米の上にワンバウンドさせた。米と米の隙間にタレが染み落ちて餃子はおとなしかった。子供時分でもこんなに悔しいことはなかったろう。
へべれけで家に帰るとそのままベッドに倒れ込み意識は次第に遠のいた。
気がつくと空の上。餃子と一緒に飛んでいた。夢でしかないなと思いながらも餃子の方へと近づこうとした。ところが空ひとつ飛んだことのないせいでどう進めばいいかがわからない。あたふたするのを見かねてか、餃子側から接近してきた。餃子は喋った。
「深田恭子のファンです」
「そう」
起きるとひどい汗をかいていた。特に恐怖を抱いたわけでもないのに。シャワーを浴びて出てもまだ出社まで三時間とある。冷蔵庫を開けて適当に取り出した材料。餃子は作れないが朝ごはんならと卵を割って目玉焼きにした。醤油派。黄身は最初に割る派だ。黄身を割ると左右に飛散した。それは壁をぶち抜いて見えなくなった。餃子の次は目玉焼きか。残った白身を口に入れ、しばらくボーッとテレビを眺め、着替え終えてから壁の穴を通して外を見た。
「快晴」
修理は休みの日にしよう。明日は日曜日だ。
餃子 川谷パルテノン @pefnk
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