第22話

022

とある日。私の荷物が突如、その姿を消したのだ。「トオルちゃん、あった?」「う、ううん……」キヨラの言葉に首を振る。教科書はあるのに、ノートだけが見つかない。今日の授業はなんとか終えることが出来たけれど、明日は今週のまとめが出される小テストだ。ノートがないととても困る。それに。「漫画のノートまで……どうしてそんな事……」「……」そう。私の描いていた漫画専用のノートがどこかへと行ってしまったのだ。音楽の授業から帰って来て、直ぐにノートがない事に気が付いたけれど、移動教室中だったのだ。犯人何てわからないし、隠された場所の検討もつかない。ゴミ箱は最初に見たけれど、そこにもノートは捨てられていなかった。「私、ロッカーの方探してくるね!」「う、うん。ありがとう……」キヨラが教室を出て行くのを見て、私は視線を落とす。……キヨラちゃんに、迷惑が掛かっている。そう思うだけで、心臓が張り裂けそうな程悲しくなってきてしまう。自分なんかの為に。探し始めて、もう一時間だ。そろそろ外も暗くなるし、このままじゃノートより先に自分たちが見つかってしまう。「……私の目が、もっと良ければ……」そんな事言っても仕方がないとはわかっているのに、言わざるを得ない。私は周囲を見渡す。ぼやけた視界は、どうやっても鮮明になりそうにはなかった。手探りでクラス全員の机の中を調べていく。ごめんなさい、と謝りながら、置き去りにされた教科書の間も探させてもらいながら——しかし、残念ながら見つけることは出来なかった。


「トオルちゃん、こっちにはなかったよ」キヨラがそう言いながら教室に入ってくる。「そっか……」「そっちは?」「こっちも、全然」「そっかぁ……」キヨラと二人、顔を見合わせて、自分のランドセルを見つめる。いつもよりスカスカの中身は、どこか寂しそうだった。本当は見つかるまで探して居たい。けれど、そろそろ帰らないと……これ以上キヨラちゃんに迷惑をかけるのは、本望じゃない。「今日はもう、帰ろうか」「えっ、でも……」「大丈夫。明日早く来て探してみるから」心配するキヨラに、私はにこりと笑って見せる。渋る彼女に、「暗くなると足元見えなくなるから」と自分の事を餌にして、一緒に帰るように背中を押した。渋々頷いたキヨラちゃんは、本当に優しい。




023

——結局、翌日になっても見つからなかったノートは、数日後裏庭にばら撒かれていたのを発見した。雨風に曝されたノートは使える状態ではなくって、文字も読めやしない。「……キヨラちゃんがいなくて、よかったなぁ」そう思う他、私には出来なかった。ノートを盗んだ犯人はわからなかったけれど、ページが破られていなかったのは唯一の救いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る