第8話

008

「大好きなおばあちゃんの形見で、手づくりなの」とキヨラは自慢げに言って、トオルの手から草鞋をとると、再びランドセルの内側につけた。可愛らしい仕草に頬が熱くなってくるが、なるほど。そうだったんだ。「そのおばあちゃんは?」「もう、死んじゃった」「そうなんだ……」「でも、とっても素敵なおばあちゃんだったんだよ」嬉しそうにはにかむキヨラに、「私も、会ってみたかったなぁ」と言えば「私も。会わせてあげたかったな」と微笑まれる。大切なものがあるキヨラが何だか羨ましい反面、心底嬉しそうな彼女に、私自身も嬉しさが込み上げてきた。

「いいなぁ」と本音が自然に漏れてしまった私に「トオルには私が作ってあげるから待ってて。もちろん、一生大切にしないと承知しないわよ」と可愛らしく微笑むキヨラ。その可愛らしい微笑みに、私は顔を真っ赤にして頷く他なかった。




009

キヨラの家に入り、夕ご飯をご馳走になった私は、お風呂に入った彼女と同じベットに二人で横になった。眠れない私に、何時もなら『神話』『民話』『伝説』を語ってくれるキヨラが、この時はどこか意味深な口調で、「寝れないの?」と問いかける。その言葉に頷けば、彼女は「内緒だよ」と微笑んでいつもより潜めた声で話し出した。


──彼女の親族は、仏壇に供える槙を栽培し、“お寺”や“神社”に売っているのだとか。

そして別の親族がゴミ回収員と廃品回収にあたっており、それがどういう意味を持つのかを、キヨラは教えてくれた。

元々、キヨラの家系は部落と呼ばれる、昔は差別に苦しんだ血族婚の一族で、更に彼女は幼いながらも“ドライヤーガン戦士”として「妄執」という、怒り狂い、人で無くなった元人間をハントする特殊警察の身分で有るのだと。


私はまるで御伽噺のような話にびっくりして、眼が冴えてしまった。しかし、それとは逆に打ち明けを終えたキヨラは、幸せそうにすやすやと眠ってしまって、あどけない顔を晒している。……これ以上は問いかけるのも出来なさそうだ。

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