バグ技は淑女の嗜みでございます

まさキチ

第1話 乙女ゲーム世界に転生いたしました

 まさキチです。

 1万文字ちょっとの短いお話ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いですm(_ _)m


   ◇◆◇◆◇◆◇


「カリエール侯爵令嬢ミシェル、貴様との婚約を破棄するッ!」


 衆人環視の中、告げるのはトレンス王国第二王子オスバルト。

 そして、私こそが当人であるミシェル。

 場所は中世ヨーロッパ風な王城の謁見の間。


 私は辺りを見回し、すぐに悟った――「『王妃(仮)』の中」だっ!


 どうやら、死ぬ気でやり込んだ乙女ゲームの世界に転生したみたい…………。


 やったぁぁぁ!!!!!


 ゲーム世界に入り込むという異常事態だけど、驚いたり、慌てたり、そんな思いは一切ない。ただただ純粋に嬉しかっただけだ。


 国王と王妃が並ぶ玉座の隣に立った第二王子オスバルト。

 本来ならば彼とミシェルの結婚式の日時が発表される場だったんだけど、オスバルトダメ王子がいきなりとち狂ったことを言い出した――って状況。ゲームだとオープニングの開始場面だ。

 ダメ王子の隣にはエステル・リンテグラン男爵令嬢。見た目は儚げで守りたくなる美少女だが、お腹の中はまっくろ黒。

 ミシェルが彼女に酷いことをしてきたとダメ王子に信じ込ませ、婚約破棄を仕組んだ張本人なビッチ。


 といった感じで『王妃(仮)』はダメ王子から婚約破棄された主人公が、攻略対象キャラと仲良くなりながら、二人にざまぁするという王道ゲームね。

 攻略キャラの五人はダメ王子の左右に並び、私に視線を向けている。


 俺様系イケメンな隣国王子フィリップ

 ワイルド系イケメンな勇者リヒト。

 ボンボン系イケメンな大商会跡取りアバル。

 インテリ系イケメンな賢者ラルコス。


 そして――私最推しの正統派イケメンな第一王子イェーリオ様。


 ちなみに、イェーリオ様以外の他の四人は私にとってはモブなので、名前覚えなくていいよ。


 ああ、それにしても、今日も神々しいイェーリオ様……。

 実体化したそのお姿は、まさに理想の王子様だ……。


 じゅる。


 アカン、よだれ垂れてもうた。


 いかんいかん、私は今、侯爵令嬢のミシェル。

 ちゃんと相応しい振る舞いをしなければ……。

 ゲームをするときは、いつもなりきりプレイをしているので、問題ないと思うんだけど、たまに素が出てしまうかもしれん。まあ、そこはご愛嬌ということで……。


 コホン。


 ここからは伯爵令嬢であるわたくしミシェルが説明致しましょう。

 この世界はイェーリオ様とイチャイチャできる最高の世界なのではありますが、その一方で、とてつもなく危険な世界なのでございます。


 『王妃(仮)』はふたつの意味で有名なゲームですわ。

 ひとつ目は美麗なビジュアル。

 なんでも制作予算のほとんどがイラストレータに支払われたとのこと。

 大金を投じただけあって、文句なしにビジュアル神レベルでございます。

 その中でも、イェーリオ様のお姿は、わたくしの好みドンピシャでございます。

 わたくしはイェーリオ様と出逢うために生まれてきたと言っても過言ではないのですわっ!

 ゲームイラストでも最高でしたが、実体化したお姿は神々しいを通り越して、マジ神でございますっ!


 そして、もうひとつの意味ですが――。


 ビジュアルに予算をつぎ込みすぎたせいで、ゲーム部分がなんじゃこりゃな仕上がりになっているのでございます。

 普通にプレイしてもバグり、しょっちゅうフリーズし、セーブデータは前触れもなく消えてしまう。


 そう――『王妃(仮)』はそのあまりのバグの多さゆえに、名誉あるク◯ゲーオブザイヤーを受賞したほどなのです。

 ビジュアルに期待してプレイした全国の乙女たちを阿鼻叫喚の地獄に叩き落としたのが、この『王妃(仮)』なのでございます。


 なにはともあれ、まずはその一端を皆様にお見せいたしましょう。

 現在はダメ王子がわたくしを非難する長セリフを述べている最中でございます。自己陶酔しきった顔がブサイク過ぎて不快ですが、放っておきましょう。


 ゲームの場合この場面では、ほとんどの動作が不能で、垂れ流しのセリフを聞き流すしかありません。

 オープニングシーンなので当然でしょう。

 プレイヤーにできるのは、視線を動かすことだけでございます。

 初回プレイヤーが攻略対象を見比べるための時間で、普通は推しを眺めてうっとりするくらいしかできません。


 そして、この世界でもそれは同じようですね。

 不思議な力で押さえつけられているのか、ゲーム同様に視線を動かすこと以外はなにもできないようです。

 ですが、視線を動かせるのであれば、十分です。

 なにせ、視線を動かすだけでバグが発生する。それが『王妃(仮)』というクソ――もとい、バグゲーなのでございます。


 ダメ王子の戯れ言を聞き流し、わたくしは視線を高速で動かします。

 上へ下へ、右へ左へ。

 ぐるんぐるんぐるんぐるん。


 『王妃(仮)』には数え切れないほどのバグがあるのですが、描画関係のバグがとくに顕著でございます。

 画面を高速でスクロールさせると、描画が追いつかずキャラの姿がだんだん崩れていくのです。

 上半身と下半身がバラバラになったり、肌が緑色になったり……。


 わたくしが首を動かすたびに、ダメ王子とビッチの身体が壊れていきます――。


 ゲームでも気持ち悪かったのですが、いざ現実になるとその何倍も気持ち悪いですわね。

 揺すぶられる三半規管と歪んだ世界。

 吐き気が込み上げてきますが、必死に我慢いたします。

 イェーリオ様への愛があれば、これくらいなんてことございません。


 ダメ王子とビッチの姿はだんだん崩れていき、最終的にダメ王子は「目だけで後は全身真っ黒のシルエット姿」に変身です。某少年探偵マンガの犯人役みたいな格好――通称、「目だけイケメン」でございます。

 一方のミシェルは胴体が消失し、頭だけ表示されております。生首状態でございます。

 なかなかにシュールな絵面ですが、ともあれ、この世界でもバグ技が使えるようですね……。


 予想はしておりましたが……これは非常にピンチな状況と言えます。

 この世界がゲーム同様にバグまみれであれば、いつフリーズして操作不能になってもおかしくはないでしょう。

 ゲーム内なら、「はいない、いつものことね」と笑ってリセットできるわたくしでも、実際にこの身に降りかかったらと思うと、背筋がゾッとする思いでございます。

 となれば、一刻も早くこのゲームをクリアして、エンディングを迎えねばなりません。

 とっとのクリアして、元の世界に戻るといたしましょう。


 クリアしたら戻れるとは限りませんが……まあ、その場合は、思う存分イェーリオ様とイチャイチャ生活を送るといたしましょう。

 『王妃(仮)』は全年齢向けでしたので、あんなことやこんなことはできませんでしたが……こっちの世界ならきっと思うままですわ。


 きゃー。


 うん。むしろ、こっちがいい。こっちの方が絶対に幸せだ。

 リアルの人生がどうだったか……バグだらけの乙女ゲームに命をかけるくらいなので、お察し下さい…………。

 絶対に戻んないからねっ!


 あかん。素が出てもうた。


 コホン。


 というわけで、さっそく攻略開始でございますっ!


 ご安心下さいませ、こう見えてもわたくし世界記録保持者ワールドレコードホルダーですの。

 皆様を世界最速でエンディングへとご招待いたしますわっ!






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


いよいよ、バグ技を多用する攻略の始まりでございます。

貴族令嬢に相応しい鮮やかな手腕をお見せいたしますわ。


次回――『さあ、RTA《リアルタイムアタック》を開始致しましょう』


   ◇◆◇◆◇◆◇


【宣伝】


 まさキチの他作品もお楽しみいただけたら幸いですm(_ _)m


『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収 〜用済みとパーティー追放された俺は、可愛いサポート妖精と一緒に取り立てた魔力を運用して最強を目指す。限界まで搾り取ってやるから地獄を見やがれ〜』

https://kakuyomu.jp/my/works/16816927859671476293


リボ払いは絶対にやめよう!

ってお話です。

主人公を追放したパーティーがざまぁされるのを楽しみながら、借金の怖さも知れますよ。

幸いなことに、カクヨム公式から「カクヨム金のたまご」

https://kakuyomu.jp/features/16816927860888621999

で取り上げていただき、現在ランキング上位入りしてます。

こちらもご支援いただけたら嬉しいですm(_ _)m


『勇者(男)だけど、魔王(女)が「一年待てば強くなるからそれまで待て」って言うから一年待ってみた 〜ポンコツ魔王とお人好し勇者のほのぼのラブコメストーリー〜』

https://kakuyomu.jp/my/works/16816927859755592711


魔王(女)「一年待て」

勇者(男)「それ去年も言ったよな?」


ここから始まるラブコメです。

1万文字弱。

サクッと楽しめる作品です。

すきま時間、寝る前のお供にどうぞ。


『小説家になるためのQ&A』

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054891032910


短いエッセイです。

書くのがツラいときにお読み下さい。


   ◇◆◇◆◇◆◇


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