第73話 暴

 今日、自分の彼女に初めてのお願いをしてしまった。

それは『髪型を変えて見て欲しい』と言う、とても小さい事かもしれないけれど。


 俺には、それが大きな一歩に感じた。


「もしかして、こう言う気持ちでサオリも俺に色々言って来てたのかな?」


 そう思うと、太ったとか、ダサいとか………臭いって言われたのも、愛情の裏返しな気がしてくる。臭いって言うのは、自分で考えてダメージ受けたが、今はそれすらもいい思い出に出来る気がして来た。


 さて、俺も準備するか。そう思ってシャワーして臭い抑えるジェルもして、髪の毛もセットして………あ、あとヒゲも剃って。と。


「いや、ほんと、なんも準備しないでビデオボイスしてたな」


 好きな人の前に出る格好じゃないぞ。なんだか今までの事がいちいち恥ずかしくなって来た。思い返すだけで、心に来るとか、一体どれだけサオリの事を好きになってしまったんだろう? 間違いなく、最初に告白した時よりも今の方が好きだと言える。そしてこれからもそうありたい。


 それには、今まで知っていたつもりの幼馴染の事をもっと知らないとな。


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 ピンポーン


 白井家のチャイムを鳴らす俺。今まで、朝に幼馴染と会う時は大体、サオリの方が家に来てくれていた。毎回、どんな気持ちでやって来てたんだろう。そう聞いてしまいたいが、聞かないままでも居たい。そんな浮ついた様な不思議な気持ちになった。


 なんか、手汗もかいてきた。おかしいな今までこんな事はなかったのに………。


 ガチャ


 と言う音とともに玄関が開く。扉から出て来たそこには、いつもと違う髪型のサオリが居た。


 最近はいつも、後ろ髪をアップにしてたから活発な印象をしていたけれど。今日は毛先が少しカールしていて、なんだかお嬢様って感じがする。そのいつもと違う姿に思わず見惚れてしまっていると。


「おはよ………っと言うか何か言いなさいよ。どこか変なのかな? って思っちゃうじゃない」


 そう言いつつ、自分の髪の毛を触るサオリ。毛先をくるくるしながら気にしている姿が、俺の為だと思うと思わず感情が込み上げてしまって、彼女をハグしてしまった。


「ちょっ、何? いっくん、どうしたの? 今日変だよ?」


「ごめん。自分の彼女が可愛くて、つい」


「つい、って、外なのにイキナリ抱きつかないでよっ。まぁ、可愛いって言うならいいケドね」


「突然すぎたよな。ごめんな」


 そう言って離れようとしたんだが、彼女も腕を回して来て居て離してくれない。


「でも、せっかくだから、もう少しハグしたいなぁ」


 そうサオリが言い出したので、彼女の顔を思わず見てしまった。おねだりする様なその仕草が、とても可愛いし、そんな事言われたら、俺の息子も反応してしまう。外で、そんな事になったら出歩けないよ。


「あぁ、勿論! いつまでだってハグしてあげるよ!」


「そう♪ 良かった♪」


 そう言いつつ、彼女は今度は俺の臭いを嗅ぎ始めた。お互いに抱き合ってるから、首のあたり、鎖骨のあたり。そして耳の裏を嗅ぎ始めた。


「んー。耳の裏ちゃんと洗ってないでしょ。ちょっと臭うよ?」


「あぁ、そうかも。今度から気をつけるよ」


「うん、そうシて」


 というか、そんな事を耳元で囁くなっ。今すぐ君が欲しくなってしまうじゃないかっ。俺がモンモンとしつつも、彼女との接触に安らぎを感じてると。


 ガチャ


「ちょっと、サオリ〜。鞄とお弁当忘れてるわよ?」


 と言いつつ出て来た、詩織さん。そして、彼女の母親である女性は


「二人とも、朝からお盛んなのは、良いけれど。ちゃんと避妊はしなさいよね?」


「ちょ! お母さん。なんで、いっくんの前でそんな事言うのっ。ヤメてよっ!!」


「えぇ。だってぇ」


「だってじゃないっ。まだ、アタシ達そんなんじゃっ」


「まだねぇ。それって、時間の問題なんじゃないの?」


「へ? って、いっくん。どこ行くのよ!?」


 あの、俺ここに居て良いんでしょうか。ダメな気がするんですがっ!! そういう事は母娘の二人でやってもらえませんかっ。思わず、二人から離れてしまう。俺。もうこのまま一人で登校してしまおうか。


「あの、俺居ない方がいいですよねっ。コメントしずらいので失礼しますねっ!!」


「ちょっと、お母さん!! さっきまで、いい感じだったのにっ!!」


「だから、母親として言う事は言っておかないとね♪」


「もぉ、いいっ。いっくんちょっと待って。あと、鞄とお弁当ありがとうっ!!」


 そう言いつつ、サオリが俺の隣にやって来た。けれど、顔を合わせづらい。あんな風に忠告? からかい? されるのは慣れてないんだ。だって俺たちまだ付き合い始めたばかりで、まだ経験が足りてないんだ。


 そう思いつつ、隣を歩く彼女もいつもより頬の色が明るい気がして。きっと同じ気持ちなんだろうな。と安心とともに愛おしさを感じた。


つづく

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あとがき


お母さんからの暴露

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